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株式会社ターンアラウンド研究所
元千葉ロッテマリーンズ経営企画室長
小寺昇二

佐々木朗希は今、「時の人」と言っていいでしょう。

皆さんご承知の通り、4月10日の完全試合達成に続いて18日の登板では、8回までパーフェクトピッチングながらあっさり交代となりましたが、筆者が驚いたのは、誰もが成し遂げられなかった偉業を20歳の若さで当然のように達成する佐々木投手自身はもちろん、降板を支持するファンが圧倒的に多いことです。

「完全」の見出しが踊った4/11日付のスポーツ各紙

3年で様変わりした世間の反応

3年前、夏の岩手県大会決勝で大船渡高校の監督が佐々木選手の登板を回避したときの「賛否両論」状態と比べると、雲泥の差があるように感じます。

「球数制限」というメジャーリーグの考え方が日本でもようやく理解されてきていること、佐々木選手が「日本の至宝」であることが明確になっていてここで無理させずとも何度でも完全試合のチャンスはありそうなこと、など、この2つの登板回避・降板に対する世間のパーセプション(感覚や、そのものの本質的なものを感じ取ること)は、この3年で大きく違ってきているのは確かです。

大谷翔平がメジャーリーグのルールそのものを変えさせるような大選手になった経緯について、学生時代以降現在に至るまでの指導者との関係を、我々日本人は繰返し学習してきたということも影響しているのかもしれません。

「怪物」「至宝」と言われるような傑出した選手を大成させるためには、「大事に育成する」ことが不可欠なのだということです。

スポーツ界において、「〇〇二世」と囃したてられ、注目され結局消えて行った逸材の如何に多かったことか…そうした経験の中で、スポーツ界も少しずつ進歩しているのでしょう。

サッカー界に見る人材育成の妙

「育成」に関しては、球数制限といったフィジカルへの影響、中長期的な育成プロセスの確立、といったその業界(領域)における「共通理解」のようなものが必要なのだと筆者は考えています。

そのあたりを、サッカーを例に説明しましょう。

現在の日本代表のFIFAランキングは、アジアでは21位のイランに僅差の23位となっています。1993年にJリーグが発足、その後1998年のW杯への初出場以降、今年のカタール大会まで7大会連続での出場と、予選通過によるW杯への出場は「当たり前」といった感じではありますが、50年以上のファンである筆者から見ると、最近の日本代表選手には10年前と比べて大きな変化があります。

それは、Jリーグ在籍選手が極めて少なってきているということです。

オーストラリア戦終了後、7大会連続でのW杯本大会出場を決め、勝利を祝う日本代表(3/24 シドニーで。写真:AP/アフロ)

例えば、2010年W杯男子日本代表23名の内4名(長谷部、本田、松井、森本)だけが外国のクラブ所属ですが、今年の2022年最終予選の最後の2試合での招集メンバー26人では、20名が外国クラブ所属と様変わりとなっています。

この要因は、海外でプレーする国内一流の選手がその活躍の場を、Jリーグではなく海外、特に欧州に求めることが「可能になっている」ことです。

「可能になっている」理由は、次の2点でしょう。

  1. 本田、長友、香川などの活躍によって、日本選手がそれなりに欧州でも通用するスキルがあることが知れ渡った反面、移籍金が同レベルの日本以外の選手に比べて格安であること
  2. 特に、フィジカルを鍛え、言語や国際感覚、外国選手のハングリー精神を身につければ、大化けする可能性があることがクラブ側に認識され、また選手たち、代理人の海外チャレンジへの自信となったこと

本田、長友、香川といった現在も現役を張っている選手達が、試行錯誤を繰り返すように、苦労して、苦労して、世界のトップチームに昇り続けたのと、最近の日本代表の外国クラブ所属選手には大きな違いがあります。それは以下の点が言えます。、

遠藤航(独)、南野拓実(英)、浅野拓磨(独)、冨安健洋(英。本来ならレギュラークラスだが、怪我で不選出)は、最初から5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)の1部リーグではなく、まずは5大リーグに次ぐレベル(オランダ、イタリア、ポルトガル)または5大リーグの2部リーグで活躍し、5大リーグの1部で活躍している

  • 板倉滉(独2部)、伊東純也(ベルギー)、旗手怜央(スコットランド)、守田英正(ポルトガル)、三苫薫(ベルギー)については、現在所属クラブで活躍中であり5大リーグへスカウトされる可能性が報じられている

現在の日本代表選手の大部分、過去の日本選手ではあまりなかった外国クラブでの「育成に関する、プロセス」、つまり上記ステップ・バイ・ステップで頂点を目指すといった確立された「育成プロセス」の中で育った選手なのです。

そして、こうしたプロセスは日本選手に限らず、世界のサッカー界あるいはメジャーリーグベースボールなどを含んだ世界のスポーツクラブの常識であるわけです。

あのメッシですら、若い頃から将来を嘱望されながら、当時の所属チームであるバルセロナで一貫した育成システムによって大事に育てられていきました。

奥寺康彦さんに始まり、現在に至っている日本のサッカー選手の海外クラブ移籍については、かつては最初からビッグクラブにスカウトされ、そこで上手く行かず日本に帰国してきた選手が多かった(三浦知良も、欧州においてはその1人です)ことを考えると、現在5大リーグ2部までで60名程度いるという日本選手の現状には本当に今昔の感を拭えません。

日本のDMM社が買収したベルギー1部の、「シント=トロイデンVV」においては、日本選手の「育成プロセスの一旦を担う」こと目的の一つとして買収され、スタートメンバーの多くが日本選手であり、現在の日本代表クラスの内、10人弱が現在あるいは過去の在籍選手となっているという事例まで出てきていることに、日本のスポーツ界、日本社会はもっと注目し、評価すべきだと思います。

日本の企業社会への示唆

リーダー人材の育成が物足りない日本(Ivan-balvan /iStock)

さて、少し話が飛躍しますが…こうした人財育成、特にそれぞれの領域でのトップ人財の育成に関しては、日本の社会は特別な方法論を持たずに、その場しのぎの対応を繰り返してきたように思います。

例えば、日本企業の「失われた30年」の要因の一つが、大企業の経営トップの人財不足であると筆者は考えているのですが、どうして停滞した会社をターンアラウンド(再生)させる力量のある人財がいないのか?ということについては、

日本の大企業では、経営者を出世競争の中で選別していくプロセスはあるが、『育成』していく確固たるプロセスはない」と考えています。

筆者が属する人財育成/経営コンサルティングの会社でも、そこにフォーカスして、企業社会に貢献できる仕組み(具体的には、「エグゼクティブ・コーチング」「次世代経営者研修/コーチング」など)を提案していますが、こうした考えが社会の「共通認識」として、日本の企業社会に拡がっていくことが、経営者人財の育成、そして日本企業のターンアラウンドに繋がっていくのではないかと考えるのです。