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 N-BOXが登録車を含む販売台数で1位となった。フィット・ヴェゼルが好調に売れるなど、ブランドの主力がコンパクト化しているホンダはこの2年間で9車種が生産終了となり、ラインナップが大きく様変わりしそうだ。

 こうした変化、販売現場はどう感じているのだろうか。以前ホンダで営業活動に従事していた筆者が、ホンダの「売りやすいクルマ」と「売りにくいクルマ」について考察してみた。さらには現役営業マンにも直撃!?

文/木村俊之
写真/ホンダ

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■元ホンダ営業マンが選ぶ!「売りやすいホンダ車」と「売りにくいホンダ車」

営業マンが売りやすいと感じるクルマは「購入後の未来」がはっきりと見えるクルマで、N-BOX+はその代表格だという

 営業マンが売りやすいと感じるクルマは、「購入後の未来」がはっきりと見えるクルマだ。

 例えばN-BOX+(プラス)は、高い人気を誇るクルマではなかったが、キャンプが好きなユーザーと、実際にどんな使い方をするか話しながら商談を勧められるクルマだった。

「荷物を乗せた状態で車中泊ができる、汚れたキャンプ道具を持ち帰るのも楽」といった話題から話が膨らみ、自分だったらこういう使い方もできると、具体的に使用状況をイメージさせることで、クルマに価格以上の価値を提供できるのだ。

付加価値をつけやすいクルマたち。ステップワゴンや→
シビックRのような使い勝手が明確なクルマであり→
生産終了してしまったオデッセイもそれに当てはまるとか

 同様にステップワゴンやシビックタイプR、生産終了となったオデッセイなども、こうした特徴が当てはまる。このクルマたちはユーザーに対して、付加価値をつけやすいから営業マンは売りやすい。

 一方、売りにくいクルマの傾向は、商談でカタログを多用するクルマだ。

 例えば、アコードハイブリッド。車内の広さや走行性能、燃費性能も高い良いクルマである。しかし、商談をしているとスペックの話になることが多く、数字絡みの競争になりがちだ。乗るだけでステータスになる、このクルマが通ると周囲が振り向く、といったイメージがつけばいいのだが、ユーザーに保有後の具体的なイメージをさせるのが下手なクルマだったと思う。

 結果として、売る側の思いよりも、カタログ上の数字に左右された。営業マンが売りにくいと感じるクルマの多くは、価値の創造よりも見た目やスペックが商談の主役になってしまうクルマなのだ。

アコードは保有の具体的イメージが説明しづらい?

■現行ラインナップで売りやすいクルマは、コレ!!

「ちょうどいい」フリード。日常に寄り添うようなこのクルマは、営業マンとしては売りやすいという

「ちょうどいい」がキャッチフレーズで人気を集めるフリードは、コンパクトさが売りのミニバンである。最近は、モデルチェンジごとにボディサイズが肥大化する傾向があるなか、フリードは全長4265×全幅1695×全高1710mmとコンパクトさを保ち、魅力のひとつである狭い道での取り回しの良さが際立つ。

「ミニバンでありながら狭くてもラクに駐車ができる」「毎日の子供の送迎で、ストレスにならない」と好評である。さらにコストパフォーマンスが抜群に良い。同カテゴリーの5代目ステップワゴン(Gホンダセンシング)とフリード(Gホンダセンシング)の価格を比較すると、約55万円もフリードは安く買えるのだ。

 よく、フリードの欠点で「3列目の座席が狭い」と言われることがあるが、こうしたネガが売りにくさに直結しないのがフリードの凄さだろう。

 実際のユーザーは3~4人家族が多く、3列目シートはあまり使われていない。故に欠点として論評される狭い3列目シートに対し、「いざという時に3列目が使えるから便利」と、称賛されることが少なくない。ユーザーのニーズを的確に捉えているフリードは、営業マンからの信頼が厚いのだ。

フリードの座席は3列目が狭めだが、使い勝手から考えると逆に「いざという時に3列目が使えるから便利」と好評

 また軽自動車ではN-BOXについで人気が高いN-WGN。走りの良さが特徴的だが、質感の高いクルマとして営業マンも舌を巻く1台である。

 インテリアは、水平基調でスッキリとしたデザインが売りだ。テレスコピック&チルトステアリングなどが機能性を上げ、コンパクトカーにも引けを取らない。また、レトロ調で落ちつきのあるエクステリアは、「派手なエクステリアデザインが苦手、でも他のクルマと違うオシャレなデザインに乗りたい」というユーザーから大好評だ。

軽自動車という前提が我慢が付き物という欠点ではなく維持費が安いという利点で語られるNシリーズ。WGNはBOXよりも安く落ち着いたデザインだから、おすすめしやすいという

 クラストップレベルの動力性能を誇るのも魅力。最高出力は58psで、ストレスフリーな高速走行ができる軽自動車だ。予防安全パッケージのホンダセンシングもしっかり搭載されスキがない。その上で、N-BOXより約15万円安いところが、売りやすさにつながる。

 フィットかN-WGNで悩むユーザーに、営業マンが勧めやすいのはN-WGNだという。安全装備も動力性能では大差がなく、N-WGNの方がリセールバリューを高く取れるので、買い替えるときの負担を軽くできる。

 やはり今でも、将来を見据え、未来を想像できるクルマが、売りやすいクルマとなるようだ。

■売りにくいクルマは?

新型ヴェゼルは「売りづらい」!?
旧型並みのグレード展開が欲しいという

 人気沸騰中のヴェゼルだが、「先代ヴェゼルより、新型ヴェゼルは売りにくくなった」とホンダの営業マンは感じているらしい。

 理由は選択肢の狭さにある。一般に、グレードが高くなるとボディカラーの選択肢や豪華装備を広がる傾向にある。しかし、新型ヴェゼルに用意されたグレード展開では、機能性と高級感の両立が出来ないのだ。

 営業マンが売りにくいと感じてしまう瞬間は、ユーザーの思い(考え)を覆す提案ができない時である。こうした経験が1回でもあると、その車種に苦手意識が芽生えてしまう。また、商談時にはその話題に触れないようにするだろう。

 営業マンにとって提案のしやすさは重要だ。実力は十分なクルマだからこそ、ヴェゼルは、売りにくさを改善できれば、さらに爆発的なヒットなると思う。作り手と売り手のリレーションが上手くいっていないところが、少々残念に感じる。

 売りやすいホンダ車にはストーリーが描ける。売りにくいホンダ車には立派な数字しかない。クルマは自動販売機のように無機質に売るものではなく、ユーザーと営業マンが心を通わせて販売するものだ。

 売れていくクルマと売りやすいクルマは少し違う。対面販売がまだまだ主流の自動車だからこそ、数字だけにこだわらず、感覚や想像力を掻き立てる存在であるべきだろう。

 完璧に作り込まれたクルマよりも、少し欠点があるほうが可愛らしく、売りやすいクルマになることもあるから不思議なところだ。


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