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食料品の値上げ続出! 日本車は値引きしても値上げしない理由とは

 2022年になってから値上げされた商品が数多くある。原材料費の値上げによって自動車部品の値段も高騰し、輸入車メーカーも相次いで価格の改定を実施・発表しているが、日本車は不思議と値上げをすることなく販売を続けている。

 なぜ物価が上がっているにも関わらず日本車は値上げしないのか? 自動車評論家 渡辺陽一郎氏が解説する。

文/渡辺陽一郎 写真/TOYOTA、MAZDA、SUZUKI、HONDA、NISSAN、Mercedes-Benz、Audi、Peugeot

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■原材料費や物流費の上昇で輸入車メーカーは相次いで値上げを発表

2022年2月10日、メルセデスベンツは原材料の価格高騰を背景としてCクラスクーペ/カブリオレの価格改定を実施。C180クーペスポーツは613万円から621万円に
アウディジャパンは2022年4月1日より価格改定を実施。A4 45 TFSI quattro S lineは637万円から649万円に

 食料品を中心に、値上げが続いている。

 値上げされた商品は膨大で、値上げ幅は平均10%以上という調査結果もある。

 ロシアのウクライナ侵攻などによる原材料費の高騰、燃料価格の上昇に伴う輸送費の増加、昨今の円安傾向も、値上げの原因とされる。

 クルマの価格については、輸入車は相次いで値上げを発表した。

 2022年に入って、フォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、アウディ、ルノー、プジョー、シトロエンなどが、価格を改定している。値上げ幅は、比率にすると1.5~7%程度が多い。

 値上げの理由は、各ブランドともに、原材料費や物流費の上昇を挙げている。基本的には食料品などと同じだ。

■国産メーカーも値上げしたい?

 フォルクスワーゲングループジャパンの販売店に、値上げについて尋ねると、以下のように返答された。

「ゴルフの場合、5万円から8万円ほど値上げされた。大幅な金額ではないが、ゴルフでは新規のお客様が日本車と比べて選ぶことも多い。価格は必ず比較されるから、値上げは不利な要素になる。

また今は納期が長く、ゴルフヴァリアントは、1年ほど待たされることもある。値上げと納期遅れの両方が同時に発生すると辛い」。

 日本車はどうかといえば、過去に遡っても、単純な値上げはほとんど行っていない。

 一部改良などを実施した時、変更箇所が少ない割に価格上昇が大きいことはあるが、価格の高い車種が中心だ。売れ筋のカテゴリーは、価格を据え置くことが多い。

 この点を商品企画担当者に尋ねると、以下のようにコメントした。

「輸入車は時々値上げをするが、日本車は無理だ。特に軽自動車、コンパクトカー、ミニバン、SUVといった売れ筋のカテゴリーは、すべてライバル車同士で競争関係がある。値上げしたら、売れ行きに大きな影響を与えるから、値上げはできない」。

 日本で造るクルマなら、輸入車と違って原材料費や輸送費などの高騰はないのか、この点も尋ねた。

「国内で生産しても、さまざまなコストアップの影響を受けている。燃料代が高まるのだから、輸送費も増えて当然だ。

それでも値上げをしていないから、儲けが減っている。可能なら値上げをしたい」。

■日本車は激しい価格競争が存在 反面、誰かが「降りれば」一斉値上げの可能性も

 このコメントにある通り、売れ筋カテゴリーは価格競争も激しい。

 例えば軽自動車では、N-BOX・Lの価格が157万9600円で、ライバル車のスペーシアハイブリッドXは153万3400円だ。ほぼ同じ価格で激しく競い合っている。

 コンパクトカーならヤリスハイブリッドGが213万円、ノートe-POWER・Xは218万6800円、フィットe:HEVホームは211万7500円だから、全車のハイブリッドを搭載する買い得グレードが210~220万円に集中している。

 趣味性の強い上級SUVも、新型のCX-60・25S・Sパッケージが299万2000円、ライバル車のハリアーSは299万円だ。

 CX-60に直列6気筒3.3Lクリーンディーゼルターボを搭載するXD・Lパッケージは400万4000円で、ハリアーに直列4気筒2.5Lハイブリッドを搭載するハイブリッドGは400万円になる。

 2021年に国内で販売されたクルマは445万台に留まったが、販売規模の割に、売られている車種の数は多い。

 そのために車種構成も過密になり、同じカテゴリーに属するライバル車同士が、限られたユーザーを巡って争奪戦を展開している。

 そうなると値上げをすれば、即座に売れ行きを下げて競争関係から脱落してしまう。いわば我慢大会をしているようなものだ。

 従って販売台数の多い有力車種が値上げすれば、ライバル車も「助かった~」とばかり、一斉に値上げする可能性がある。

■国内メーカーで値上げのきっかけを作れるのはトヨタだけ

国内メーカー間では激しい価格競争が存在するため値上げをすると売り上減に直結してしまう。現状値上げができるのは有力車種を取り揃えるトヨタだけだ

 それなら有力車種をそろえるのは、どこのメーカーかといえば、トヨタになる。

 トヨタは一部のOEM車を除くと軽自動車を扱わないから、2021年に国内で登録された小型/普通車の52%をトヨタ車が占めた(レクサスを含む)。

 小型/普通車の登録台数ランキングを見ても、上位にはヤリスシリーズ、ルーミー、カローラシリーズ、アクア、ライズ、アルファードなどのトヨタ車が並ぶ。

 この点について、他社の商品開発者は以下のように述べた。

「値上げの切っ掛けを作れるのはトヨタだけ。他社が値上げすれば、それがニュースになり、価格を据え置くトヨタの引き立て役になってしまう。

価格に限らず、例えば燃費競争なども、まずトヨタが降りなければ、他社は引き下がれない」。

■一方で装飾や装備の簡素化による「見えない値上げ」も

 以上のように日本車が値上げをするのは困難だが、過去を振り返ると、コッソリと分からないように実質的な値上げをすることはあった。一部改良やマイナーチェンジの時に実施されるコスト低減だ。

 例えばステアリングホイールやインパネに装着されたメッキ装飾を廃止する、スピーカーの数を6個から4個に減らす、標準装着されていたバックモニターをメーカーオプションに変更するといったコストダウンが行われた。

 これらの変更で節約できるコストは少額だが、逆にいえばクルマは薄利多売の商品で、メーカーや販売会社もそこまでコスト低減を迫られているわけだ。

 販売店によると「これらのコスト低減は、同じ車種のクルマに乗り替えるお客様には、スグに分かってしまう。購入後にスピーカーの数が減っていることに気付かれると、叱られることもある」とのことで、有効なコスト低減対策ではないようだ。

 それでも欲しい車種の一部改良やマイナーチェンジが予定されている時は、販売店に改良や変更点、価格について尋ねておきたい。

 その内容に応じて、改良前の車両を買う方法もある。今まで使ってきた愛車がマイナーチェンジを行い、同じグレードに乗り替えて、もし装飾や装備が簡素化されていたら、ガッカリするのは当然だ。

■せっかくの新車購入で損をしないために

 しかも今は、改良後の車両になると、納期がさらに延びる場合があるから困る。

 納期の長い車種について販売店では、「今の時点で注文を入れると、今後実施されるマイナーチェンジ後の車両が納車されるので、価格などの詳細は分からない」といわれることもある。

 今のクルマ購入では、確認すべきこと、分からないことが増えた。早期の収束を望みたい。

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