2022年になってから値上げされた商品が数多くある。原材料費の値上げによって自動車部品の値段も高騰し、輸入車メーカーも相次いで価格の改定を実施・発表しているが、日本車は不思議と値上げをすることなく販売を続けている。
なぜ物価が上がっているにも関わらず日本車は値上げしないのか? 自動車評論家 渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎 写真/TOYOTA、MAZDA、SUZUKI、HONDA、NISSAN、Mercedes-Benz、Audi、Peugeot
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■原材料費や物流費の上昇で輸入車メーカーは相次いで値上げを発表
食料品を中心に、値上げが続いている。
値上げされた商品は膨大で、値上げ幅は平均10%以上という調査結果もある。
ロシアのウクライナ侵攻などによる原材料費の高騰、燃料価格の上昇に伴う輸送費の増加、昨今の円安傾向も、値上げの原因とされる。
クルマの価格については、輸入車は相次いで値上げを発表した。
2022年に入って、フォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、アウディ、ルノー、プジョー、シトロエンなどが、価格を改定している。値上げ幅は、比率にすると1.5~7%程度が多い。
値上げの理由は、各ブランドともに、原材料費や物流費の上昇を挙げている。基本的には食料品などと同じだ。
■国産メーカーも値上げしたい?
フォルクスワーゲングループジャパンの販売店に、値上げについて尋ねると、以下のように返答された。
「ゴルフの場合、5万円から8万円ほど値上げされた。大幅な金額ではないが、ゴルフでは新規のお客様が日本車と比べて選ぶことも多い。価格は必ず比較されるから、値上げは不利な要素になる。
また今は納期が長く、ゴルフヴァリアントは、1年ほど待たされることもある。値上げと納期遅れの両方が同時に発生すると辛い」。
日本車はどうかといえば、過去に遡っても、単純な値上げはほとんど行っていない。
一部改良などを実施した時、変更箇所が少ない割に価格上昇が大きいことはあるが、価格の高い車種が中心だ。売れ筋のカテゴリーは、価格を据え置くことが多い。
この点を商品企画担当者に尋ねると、以下のようにコメントした。
「輸入車は時々値上げをするが、日本車は無理だ。特に軽自動車、コンパクトカー、ミニバン、SUVといった売れ筋のカテゴリーは、すべてライバル車同士で競争関係がある。値上げしたら、売れ行きに大きな影響を与えるから、値上げはできない」。
日本で造るクルマなら、輸入車と違って原材料費や輸送費などの高騰はないのか、この点も尋ねた。
「国内で生産しても、さまざまなコストアップの影響を受けている。燃料代が高まるのだから、輸送費も増えて当然だ。
それでも値上げをしていないから、儲けが減っている。可能なら値上げをしたい」。
■日本車は激しい価格競争が存在 反面、誰かが「降りれば」一斉値上げの可能性も
このコメントにある通り、売れ筋カテゴリーは価格競争も激しい。
例えば軽自動車では、N-BOX・Lの価格が157万9600円で、ライバル車のスペーシアハイブリッドXは153万3400円だ。ほぼ同じ価格で激しく競い合っている。
コンパクトカーならヤリスハイブリッドGが213万円、ノートe-POWER・Xは218万6800円、フィットe:HEVホームは211万7500円だから、全車のハイブリッドを搭載する買い得グレードが210~220万円に集中している。
趣味性の強い上級SUVも、新型のCX-60・25S・Sパッケージが299万2000円、ライバル車のハリアーSは299万円だ。
CX-60に直列6気筒3.3Lクリーンディーゼルターボを搭載するXD・Lパッケージは400万4000円で、ハリアーに直列4気筒2.5Lハイブリッドを搭載するハイブリッドGは400万円になる。
2021年に国内で販売されたクルマは445万台に留まったが、販売規模の割に、売られている車種の数は多い。
そのために車種構成も過密になり、同じカテゴリーに属するライバル車同士が、限られたユーザーを巡って争奪戦を展開している。
そうなると値上げをすれば、即座に売れ行きを下げて競争関係から脱落してしまう。いわば我慢大会をしているようなものだ。
従って販売台数の多い有力車種が値上げすれば、ライバル車も「助かった~」とばかり、一斉に値上げする可能性がある。
■国内メーカーで値上げのきっかけを作れるのはトヨタだけ
それなら有力車種をそろえるのは、どこのメーカーかといえば、トヨタになる。
トヨタは一部のOEM車を除くと軽自動車を扱わないから、2021年に国内で登録された小型/普通車の52%をトヨタ車が占めた(レクサスを含む)。
小型/普通車の登録台数ランキングを見ても、上位にはヤリスシリーズ、ルーミー、カローラシリーズ、アクア、ライズ、アルファードなどのトヨタ車が並ぶ。
この点について、他社の商品開発者は以下のように述べた。
「値上げの切っ掛けを作れるのはトヨタだけ。他社が値上げすれば、それがニュースになり、価格を据え置くトヨタの引き立て役になってしまう。
価格に限らず、例えば燃費競争なども、まずトヨタが降りなければ、他社は引き下がれない」。
■一方で装飾や装備の簡素化による「見えない値上げ」も
以上のように日本車が値上げをするのは困難だが、過去を振り返ると、コッソリと分からないように実質的な値上げをすることはあった。一部改良やマイナーチェンジの時に実施されるコスト低減だ。
例えばステアリングホイールやインパネに装着されたメッキ装飾を廃止する、スピーカーの数を6個から4個に減らす、標準装着されていたバックモニターをメーカーオプションに変更するといったコストダウンが行われた。
これらの変更で節約できるコストは少額だが、逆にいえばクルマは薄利多売の商品で、メーカーや販売会社もそこまでコスト低減を迫られているわけだ。
販売店によると「これらのコスト低減は、同じ車種のクルマに乗り替えるお客様には、スグに分かってしまう。購入後にスピーカーの数が減っていることに気付かれると、叱られることもある」とのことで、有効なコスト低減対策ではないようだ。
それでも欲しい車種の一部改良やマイナーチェンジが予定されている時は、販売店に改良や変更点、価格について尋ねておきたい。
その内容に応じて、改良前の車両を買う方法もある。今まで使ってきた愛車がマイナーチェンジを行い、同じグレードに乗り替えて、もし装飾や装備が簡素化されていたら、ガッカリするのは当然だ。
■せっかくの新車購入で損をしないために
しかも今は、改良後の車両になると、納期がさらに延びる場合があるから困る。
納期の長い車種について販売店では、「今の時点で注文を入れると、今後実施されるマイナーチェンジ後の車両が納車されるので、価格などの詳細は分からない」といわれることもある。
今のクルマ購入では、確認すべきこと、分からないことが増えた。早期の収束を望みたい。
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