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① 企業にとってロビイングとは何か

a. 前回の記事の振り返り

産業構造の大転換に伴い、法令税制会計などの既存諸制度は、古くなってしまっています。各企業は、制度という外部要因を自ら有利なものになるようにアップデートしていく戦略をとることが必要になります。ロビイングを経営戦略の中に入れ込むのです。

例えば、シェアリングエコノミー協会の石山アンジュさんは、過去に以下を提唱しました。ロビイングが次の段階に進化したことを予見しています。

  • ロビイング1.0:自分たちの業界の利益獲得のために、政治と行政へ働きかける(=旧来の『陳情』)
  • ロビイング2.0:公益という一つ上の理念を掲げ、PR、全てのステークホルダーを巻き込んで社会全体に働きかける(=ファンづくり)

b. 政府側の期待と支援の動き

経済産業省は、複雑化するSocierty5.0時代の新たなガバナンスとして、『アジャイル・ガバナンス』を提唱しています。これは

「政府、企業、個人・コミュニティといったさまざまなステークホルダーが、自らの置かれた社会的状況を継続的に分析し、目指すゴールを設定した上で、それを実現するためのシステムや法規制、市場、インフラといったさまざまなガバナンスシステムをデザインし、その結果を対話に基づき継続的に評価し改善していくモデル」

と定義しています。ここでは、ルールメイキングの分野では、官民の垣根を越えた知の共有や継続的な関係の構築の必要性、ゴール設定の必要性、継続的な評価改善の必要性を示唆しています。

また、経済産業省は、現在、『経済産業政策の新機軸』を議論していますが、『民間側で規制・制度を戦略的に活用し、改革を働きかける機能の強化』を提唱しています。4月26日には、スタートアップの法務支援を行う専門家チーム(弁護士で組成)として、『スタートアップ新市場創出タスクフォース』の設置をリリースしました。

② ロビイングの今後の本質や機能

上記①の流れを改めて整理すると、今後、政策形成過程自体にイノベーションが起こりつつあります。民間からの陳情を政官が受けるという一方的な関係ではなく、横断的な課題オリエンテッドに官民が対等に意見交換を重ねていく姿への転換が出ています。

その中で、企業側のロビイングは、通常の陳情型から脱することで、この動きを支えていく主要な機能として進化することが期待されてくると筆者は考えます。つまり、政治・官僚の世界の構造と民間ビジネスの世界の個々の要望や目指す社会像を『すり合わせる』ことにより、従来にない新しい付加価値のあるルールやデザインを作り出すのです。哲学用語でいえば、ヘーゲルの言ったアウフヘーベンであり、経営用語でいえば、シュンペーターの言った新結合です。

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③ これからのロビイングに求められる人材とは

それでは、各企業のロビイストやロビイング専門ファームの人材に求められる能力とはどのようなものでしょうか。私が考えるのは、企業内外と接点を持つ『越境型人材』です。具体的な素養としては、以下の3つと考えています。

① 営業力
政策を提案するという意味での営業です。営業担当者が通常行うビジネス手法を政策渉外という分野にも徹底的に横展開する必要があります。

② 翻訳力
民間企業側のビジネス用語や頭の構造と、霞が関永田町における用語や論理構造は異なります。したがって、その間に入って、相手の頭の構造に合わせて主張や内容を翻訳して伝える仲立ちをするのです。

③ アウフヘーベン能力
ステークホルダーの違いをきちんと認識し、その間隙を埋めるべく、要望の解像度を上げて政策に深堀し段取りを作っていく能力です。

次回は、この③をさらに深めていくための実践をご紹介していきたいと思います。