政府がマスク着用の基本的対処方針を変更し、屋外で距離が取れる場合や、屋内でも会話がほとんどない場合などにはマスク着用の必要がないとされました。子どもたちの体育の授業や鬼ごっこなどの外遊びでも、マスクの着用が不要になりました。貴重な成長期に、2年以上にもわたってコロナ下を耐え抜いてきた子どもたちにとって、これはようやくもたらされるささやかな解放になるはずです。
ただ、一人の親としては懸念もあります。マスクを外せば、もし周囲で陽性者が出たときに、濃厚接触者とされるリスクが高まるからです。
子どもが濃厚接触者、親の仕事は…
子ども自身が感染したときはもちろん、濃厚接触者になったときにも5~7日間は登校・登園ができなくなります。これは親にとってもダメージです。突如として子どもが家で過ごすことになれば、すなわち親(たいていは母親)は子どもの対応に追われるからです。働く親は仕事もままなりません。
これが一度きりのことであれば何とかなるでしょう。しかしすでに、コロナ下初期の長期休校や感染者が出るたびに相次いだ学級閉鎖や保育園休園で、かなりの日数、仕事を休んでしまった親は多いはずです。筆者もこの1年だけで10回の学級閉鎖と休園があり、そのたびに仕事が滞りました。この連載も含め、原稿の締め切りを遅らせてもらったこともしばしばです(すみません!)。ある会社員のママ友も、目いっぱい有給を使い果たしてしまったといいます。
そんな状況下で、今度は濃厚接触者で自宅待機となれば、いよいよ仕事が立ち行かなくなるかもしれません。会社勤めなら欠勤が積みあがるばかりか、社内でますます肩身の狭い思いをすることにもなるでしょう。
子どものコロナで受け取れる助成金
こうした事態に、経済的に補助する制度はあります。「小学校休業等対応助成金・支援金」といって、子どもの学校や保育園が休校や学級閉鎖になったために仕事を休まざるを得なかったときに、日数に応じた補助を受け取れるものです。子どもが感染したときや、感染の疑いがあって親が仕事を休んだ場合も対象になります。最近は頭痛やのどの痛みなどの症状があると登校させないように指示される学校が少なくありません。平時なら行かせるような程度の症状でも、コロナを疑ってやむなく休ませたようなときも対象です。
会社員やパートの場合は、子どもの休校などで仕事を休んだ時に、年次有給休暇とは別枠の有休を取れます。有休を認めた勤務先が申請すると、国から従業員1人1日あたり上限9,000円(緊急事態宣言・まん延防止等重点措置地域では15,000円)が勤務先に支給されます。つまり、企業は自己負担なく、従業員に有給休暇を与えることができるわけです。
対象になるのは今年6月末までの休暇です。8月末までに企業が申請することで、支払われた賃金相当額が企業に支給されます。
参照:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金について」
このように、会社員向けの助成金は自分で申請手続きするのではなく、勤務先の企業を通すことになっています。ところが、助成金への理解が不十分だったり、受給手続きの手間を嫌って、勤務先が対応してくれないケースが少なくないようです。そのようなときには都道府県の労働局に相談すると、企業側に働きかけてもらえます。それでも勤務先が動かないときに限り、個人で直接申請できます。
フリーランス向けの補助もあるが非現実的
一方、フリーランスには雇用主がいませんので、個人で申請手続きをします。ただ、給付額は1人1日あたり4,500円(緊急事態宣言・まん延防止等重点措置地域では7,500円)の定額で、会社員の半額にすぎません。
参照:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金(委託を受けて個人で仕事をする方向け)」
また、申請にはコロナによる子どもの休校や感染が原因で仕事を休んだことがわかる証拠書類が必要です。フリーランスの場合には業務委託契約書や発注書、発注に関するメールなどとされていますが、これらには契約締結日や業務予定日、業務時間、就業場所などが明記されている必要があります。
フリーランス経験のある方ならおわかりだと思いますが、これはかなり非現実的です。契約書をきちんと締結してから受注できるフリーランスの仕事は、残念ながらそれほど多くありません。労組の連合の調査によると、取引先から受注のたびに書面やメールで契約内容を明示されているフリーランスは約3割にすぎず、約25%の人は一度も明示されたことがないといいます。
筆者の個人的な過去の経験からしても、就業日時や場所を明確に定めた契約書や発注書を出してもらえる取引先は少数です。契約書か発注書の発行を打診すると、あからさまに嫌がられ「そんなものを頼んできたのはあなたが初めてだ」と言われたこともあります。近年は徐々に改善されてきているようですし、業種にもよると思いますが、そんな環境下で働いているフリーランスには、補助を受けるハードルはかなり高いのではないでしょうか。
補助があっても欠勤によるダメージ
「小学校休業等対応助成金・支援金」については、受取の対象になるのか微妙なときや、会社が手続きをしてくれないときに相談できる窓口があります。十分な書類を用意できないときには代用できる書類を教えてもらうなど、受給に向けてサポートしてもらえるようです。
参照:厚生労働省「小学校休業等対応助成金に関する特別相談窓口について」
しかし、仮に補助を受け取れても、急な欠勤による親へのダメージがなくなるわけではありません。何度も休めば評価が下がるかもしれませんし、会社に迷惑をかけていると、やるせない気持ちにもさいなまれるでしょう。フリーランスなら取引先の信用を失い、二度と仕事がもらえないリスクにもなるのです。それは数千円の補助では到底カバーできません。
そういった意味で、どのような働き方にせよ、働く親たちは常にコロナ休業による収入減やキャリア遮断のリスクと隣り合わせで暮らしていると思います。
コロナを機に、それまでほとんど普及していなかった在宅勤務やオンライン会議が急速に広がり、物理的には子育てと仕事の両立はしやすくなりました。しかし、上記のような補助のハードルの高さは、社会が働く子育て世代を本質的には受容しきれていないことを浮き彫りにしています。
ウイルスと共存する生活への慣れや、新規感染者数の減少傾向から、社会は元に戻ることへ重きが置かれ始めています。しかし10歳未満の感染者は増加傾向が続いており、今もあちこちで学級閉鎖や休園が発生しています。
陽性者が判明した時点でただちにお迎えを要請される休園や、前日の夜に決定する学級閉鎖などで、またいつ仕事がストップするかわからない緊張感から、働く親たちが解放されるのはまだまだ先のようです。子どもたちが心身面でも経済的にも豊かに暮らせる未来を願いながら、何とかこの受難を乗り越えていくばかりです。