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 カーブでの横転事故が後を絶たない。

 事業用トラックによる死傷事故の原因は、追突事故が5割超で、高速道路に限れば7割近く。全日本トラック協会の事故類型別統計にも「横転」の項目はなく影に隠れがちだが、日々のニュースを見れば横転事故は多く、また、重大な被害をもたらすことがわかる。

 危険物や可燃物積載車がトンネル内で火災を起こせば、さらに被害は甚大となる。

 トラックは、バスやタクシーと違い、重量があり、重心も高く、遠心力がかかり横転しやすい。また、見通しの悪いカーブ(ブラインドコーナー)では、前方の渋滞、事故車、落下物などの発見が遅れても、事故につながる。

 首都高速などでは制限速度の設定が低く、皆が守れていない現状も。カーブでの安全な速度とは何か? 主要幹線道路を何百往復もした経験と、科学的な計算から、カーブでの危ないポイントについて探ってみたい。

文/長野潤一、写真/長野潤一・トラックマガジン「フルロード」編集部
*2019年9月発行「フルロード」第34号より


視界の効かない山手トンネル

 まず、ブラインドコーナーの前方視界(視距)と止まれる速度についてだ。

 2015年に開通した中央環状品川線(山手トンネルの一部)は、湾岸地区と東名、中央道などを結び、高さ4.1mの40フィート・ハイキューブ海上コンテナトレーラなど、特殊車両も通行可能な非常に利便性の高い道路である。

 だが、大井JCT-五反田間に危ないカーブが3か所あることはあまり知られていない。前方視界が70m程しかないブラインドコーナーである(通常の高速道路では200~300mの視界は確保されている)。

 なぜ、視界が短いのかといえば、都市の地下のライフラインを縫うように巧みに設計されたトンネルの口径は小さく、内径で11.5mしかない。そのため、車線幅は3.25mと狭く(東名は3.6m、新東名は3.75m)、路肩もほとんどない。カーブの半径は300R(300m)。

 右カーブで右車線を走行していると、コーナー内側の側壁が近くに迫り、前方視界は約70mしかない。もし、路上障害物があったら……、大型車では止まり切れない可能性が大。

 では、時速何kmなら止まれるのか? 空走時間を0.75秒、減速加速度を0.5Gと仮定して計算すると、75km/h(停止距離約60m)あたりが限界だろう。ただ、0.5Gでもトラックでは荷崩れが発生するレベルの緊急ブレーキだ。

その速度で本当に大丈夫? カーブでのトラックの安全速度を考える
トラック制動時の減速加速度と停止距離

 乗用車なら0.7Gの減速加速度で、47mで止まれる。乗用車もトラックもタイヤと路面の摩擦力で止まる物理的な性質に変わりはないが、トラックはブレーキ性能や、積荷がずれて前に押されることなどから、より止まりにくい。

 ところが、盲目的に猪突猛進でリミッター上限の90km/hで右車線を走り抜けるトラックも少なからずおり、危険極まりない状況だ。トラック業界あげて自主規制をすることが必要だ。

 山手トンネルの制限速度は全線で60km/hだが、これだと危ない箇所がわからない。危険を知らせるために、実態と乖離するかもしれないが、カーブの区間だけ50km/h制限にしてはどうか。ブラインドコーナーでは、何かあっても止まれるという速度が安全速度だ。

東名左右ルートの300R

 次に、カーブでの横Gについてである。トラックでは一般に、加減速による前後方向の加速度より、カーブによる横方向の加速度のほうが小さい。そのため、長方形の荷物の積み付けは長辺を前後方向にして積むのが基本。

 普段は小さい横Gだが、強い横Gが加わった際には、荷崩れ、スリップ、最悪の場合は横転事故につながる。

 ドライブレコーダーが「急ブレーキ」や「急カーブ」を検知するのは一般的に0.3Gである(もちろん設定により変えられる)。私の意見では、高い輸送品質を確保できる横Gは0.17G以下である。いわゆるおとなしい走りだ。

 東名下りの大井松田-御殿場間の都夫良野トンネルを抜け、静岡県小山町に入った所に300Rのカーブが左右ルートそれぞれ3回出て来る。この300Rを制限速度の80km/hで走るときの横Gが0.17Gなのである。

 300Rは、新東名の最小曲率半径3000R、設計速度120km/hなどとは大違いで、高速道路の本線上では最も急な部類のカーブである。このカーブを雨天でも安定して走れる速度は経験上、制限速度と全く同じ80km/hである。

 このときの遠心加速度を公式 a = v^2 / r[単位:N/s^2]で求めると、0.17Gとなる。もし、リミッター上限の90km/hで走れば、遠心力は速度の2乗に比例するため、速度は12%増しでも、遠心加速度は26%増しの0.21Gとなり、体感的にはかなりの急カーブとなる。

名阪国道は両端に急カーブ

 「無料の高速道路」「もっとも事故が多い高速道路」とも呼ばれる名阪国道は、両端の山越えの峠道が、真ん中の伊賀盆地の比較的平坦な道をサンドする形になっている。

 亀山側の「伊賀越え」(加太トンネル周辺)は、かの徳川家康が「本能寺の変」を知って隠密に大阪・四條畷付近から三河国に逃げ帰る際に、野盗に襲われる心配から「うんこを漏らしながら逃げた」と伝えられる程の難所である。

 その亀山側に1か所(越川大橋付近200R)、天理側に2か所(通称Ωオメガカーブ約200R、天理東側最終ヘアピン150R)の急カーブがある。この区間の制限速度は60km/hであるが、高速道路並みに飛ばすクルマが多いため、事故も多い。

 地元生活車両との速度差が大きいことも危険性を増大させている。200Rのカーブをどうにか安全に通行できる速度の上限は、体感的に65km/hである。この時の横Gは奇しくも0.17Gなのである。

 また、これらの区間は6%と勾配もきつい。登坂時より降坂時の方が制御はしにくい。急カーブの場所を覚えておくと同時に、カーブ半径や勾配の表示が出たら、何km/hなら安全に走れるか判断できることが、プロドライバーにとって必要である。

 0.17Gとは具体的にどの程度の加速度かというと、キャビン内の平面に置いたペットボトルが倒れない運転だ。500mlのペットボトル(未開封)なら0.23G以上、900mlなら0.17G以上の横方向の加速度で倒れる。

 また、キャビンの地上高は高く、路面の段差が影響しやすいことや、旋回中に舵角を切り増す場合もあるため、瞬間的に横Gが変動することもある。

 なお、カーブにはバンク角がついているため、旋回中は車両の真下方向への力が増し、横Gは軽減されるが、バンク角は通常5%以下と微量であるため横Gの軽減はほぼ無視できる。

ジャンクションにも注意

 この他にも、今は本当に多くのジャンクションができたが、ジャンクションのカーブはほとんど要注意である。

 特に、線形の良い新名神が全線開通するまでの中継ぎ的道路である金勝山トンネル~草津JCTや高槻JCTなどは、これまで素晴らしい直線の道で来ているのに、突然、急勾配、急カーブになるから、標識が出ていても危険である。

 また、普段は山陽道を通行するトラックが多いためあまり走ることのない中国道(兵庫県~山口県)には、高速道路上では最も厳しい勾配6%、250Rのカーブも随所にあり、60km/h制限の区間もある。走行には注意が必要だ。

 かつて、スピードリミッターがなく大型トラックが120km/hで走っていた時代には、東京-広島を8時間で走りきる「スピードの匠」もいた。しかし、今はそういう時代ではなく、輸送品質が問われる時代だ。

 プロドライバーには、盲目的に飛ばすのではなく、早く着ければ良いのでもなく、絶対に事故を起こさない安定した走りが要求される。

 実は、デジタコで点数が出ることは、ドライバーにとっても、自分の運転の加減速Gや横Gを知ることができ、より高度な運転技術のバロメーターとなっている。プロドライバーとして全国の道路の危険なポイントを熟知することが重要だと思う。

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