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 知らない間ジワジワと普及が進み、ハッと気づけば世の中のすう勢になっている……、そんな事態がトラックの分野で出来(しゅったい)している。メーカー完成車である。

 トラックメーカー/ディーラーがシャシーと上物(架装物)をコンプリートで製造・販売するメーカー完成車は、すでに30年ほど前から小型トラックの平ボディやドライバンやダンプなど、ある程度仕様が集約でき、台数が見込める分野で普及し定着している。 

 だが、今日隆盛を極めているメーカー完成車は、それとはちょっと異なり、ひと昔前までは、「つくりボディ」が当たり前だった大型トラックのカーゴ系のメーカー完成車で、なかでもドライウイングがその中心だ。

 日野自動車の不正発覚による型式取り消しや半導体不足などで、このところトラックの架装も停滞気味なのだが、メーカー完成車とはいかなるものか、今日のトラックの成り立ちを知る上でなかなか興味深いのだ。

文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
*2016年6月発行「フルロード」第21号より


■つくりボディと民需

 トラックの架装における「つくりボディ」とは、ユーザーが架装メーカーに注文してつくってもらう架装物のことで、トラック業界では、これらの需要のことを「民需」と呼んでいる。

 語源はおそらく戦前・戦中の「軍需」や「官需」に対しての「民需」だと思うが、今日ではメーカー完成車と区別する際に用いられる用語としてよく使われている。もちろんメーカー完成車も民需=民間需要であることには変わりはない。

 民需の場合、ユーザーはトラックメーカー(シャシーメーカー)にシャシーの注文を入れ、それとは別に架装メーカーと上物の契約をする。いわゆるセパレート契約である。

 いっぽうメーカー完成車は、トラックメーカー/ディーラーが窓口となり、シャシーと上物が一体となった完成車としてオーダーを受ける方式で、オーダーからシャシー生産、架装、納車まで一元管理するというもの。

 仕様等があらかじめ決まっているので、先行生産ができ、また受注生産であってもベースの完成車に個別オプションを設定する程度なので、つくりボディよりも手間も時間も掛からない。

 では、メーカー完成車のメリットはどういった点にあるのか整理してみたい。

ユーザーの要望を反映させて製造する「つくりボディ」に対し、定められた仕様を選ぶメーカー完成車。ただ完成車も豊富な架装パターンを展開するメーカーもある

■メーカー完成車のメリットは?

 UDトラックス・ビークルセールスがまとめた資料が大変わかりやすいので、これを元に引用させていただこう。まずユーザーのメリットは、「使い勝手のよい車両を短期間で提供」「完成車の選択によるコストの低減」「高品質車両による安心感」「商談からアフターサービスまで窓口での一本化」。

 またシャシーメーカーのメリットは、「計画生産による安定した車両供給」「シャシー、架装工程の一元化による納期短縮」「シャシー、架装一体での設計による高品質」「ボディの安定した発注によるコスト低減」。

 さらに架装メーカーのメリットは、「生産の平準化による生産の効率化、設計工数の効率化」「部品の発注量によるコスト低減」「シャシ―メーカー/ディーラーの営業マンによる架装販売で販売網の拡大」「シャシー、架装一体での設計による高品質」……となっている。いわばメーカー完成車によって三方が得をする格好だ。

 トラックドライバーにメリットがあるかどうかも気になるところだが、この点はどうだろう? メーカー完成車は、低コストでワンランク上の車両が購入でき、装備等もコンプリートで提供されるため、ドライバーにとっても悪い話ではないと思う。つまり、誰にとってもメリットのある話だから、メーカー完成車がこれほどまで隆盛を極めているのだろう。

 実際、メーカー完成車はリピート率が高く、ユーザーがつくりボディに戻ることはほとんどないという。下世話にいえば、最初は半信半疑だったユーザーが、使ってみたら「なかなか使えるじゃん」「これでいいじゃん」となったということなのだろう。

 ひと昔前のメーカー完成のドライウイングは、いわゆるドンガラ(胴殻)車で、ほとんど何も付いていないボディに必要最小限のオプションを後付けするという形だったが、今日では、充分満足のいく仕様をすべて盛り込んだ車両をコンプリートで提供することに重点を置いており、これがユーザーに広く受け入れられたのだろう。

 特に東日本大震災以降、注文した車両の納期が長くなっている中で、短納期のメーカー完成車に人気が集中している状況も見られる。

■メーカー完成車隆盛の裏事情

 さて裏事情を言えば、メーカー完成車には、もう1つ大きな狙いが隠されている。トラック販売の適正化である。

 これまでのトラック販売は、ディーラーの営業担当、架装メーカーの営業担当、あるいはユーザーの購入担当の間で、恣意的にビジネスが進められるケースが多々あり、コンプライアンスの面からもこれらダークな商取引の慣習を払拭する必要があった。

 メーカー完成車は、いわゆる「カタログ販売」ができることが1つのセールスポイントになっているが、それは、どの地域、どの営業担当が販売しても全国一律の価格を提示できることを意味している。メーカー完成車は、トラック販売の適正化の期待も担っているのだ。

 というと、メーカー完成車はいいことだらけのように思えるが、本当にそうか?「ボディまで4社横並びでいいのか?」という疑問も当然あると思うが、そもそもメーカー完成車の中核をなすドライウイング自体、規格化・画一化を指向する上物なので、その中で差別化を図っていくのはなかなかむずかしい面があるだろう。

 さらに、メーカー完成車のボリュームがこれほど大きくなったことで、架装メーカーに地殻変動的な大きな影響が及んでいることにも留意したいと思う。

UDの完成車、パーフェクトクオン。写真は車体メーカーの強みを活かし、ショートキャブと組み合わせ、1.1×1.1パレットをプラス2枚分(18枚)多く積載できるドライウイング仕様

 メーカー完成車を手がける大手架装メーカーは置くとしても、それ以外の「つくりボディ」を生業としている架装メーカーへの影響は必至で、今日のトラック業界・架装業界の混乱が収束すれば、架装メーカーとしてのこれからの生き方を真剣に模索しなければならない日が来ることは間違いないだろう。

 いずれにしてもメーカー完成車は、単車主体で、日本固有の上物であるウイングボディの普及と軌を一にする、日本独自のトラックビジネスとして要注目の存在なのである。

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