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 昨年から車種整理が相次いでいるホンダにおいて、昨年9月にヒッソリと姿を消したのがクラリティフューエルセルとクラリティPHEVである。

 ここではクラリティが歩んだ軌跡を振り返ると同時に、クラリティが象徴となるホンダの弱点についても考えてみた。

画像:HONDA

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■クラリティの歩んだ軌跡

 クラリティは元々、コンパクトカーのロゴに近いスタイルをしたFCXに続く燃料電池車である、08年登場のクラリティFCXから歴史が始まった。

 燃料電池車専用車としてセダンボディで開発されたクラリティFCXは日米合せて200台のリース販売という量産車とは言えないモデルだったが、この時代に燃料電池車専用車を市販したという功績は大きかった。

 クラリティFCXに続くクラリティの車名を与えられたのが、2016年登場のクラリティフューエルセルである。

2016年 ホンダ クラリティフューエルセル

 2014年登場のトヨタミライの初代モデルに続く量産燃料電池車となったクラリティフューエルセルはクラリティFCX、初代ミライ同様のセダンボディを持ち、同じボディでPHEVとEV(後にアメリカでクラリティエレクトリックが登場)も搭載できるという点が新鮮だった。

 そういったクルマだけにクラリティフューエルセルは、水素と酸素の反応により発電するスタックとモーターなどの駆動ユニットはフロントにまとめられるほどコンパクトで、燃料電池に関係する部分の汎用性の高さも注目された。

 それでいて価格は初代ミライとは異なり自治体や企業へのリース販売のみながら、登場時で初代ミライと同等の766万円と、内容を考えたら激安だった。

 そして2代目クラリティの本命となったのが、2018年登場のクラリティPHEVである。クラリティPHEVは2代目クラリティのボディにWLTCモードで101kmのEV走行が可能な17.0kWhのバッテリーと1.5リッターエンジン直結モード付シリーズハイブリッドを搭載。

 クラリティPHEVは乗れば広く、静かで乗り心地もいいという実に快適ないいクルマだった。また、クラリティPHEVは大きなバッテリーの搭載により燃料タンクが26リッターと小さいという弱点はあったが、ハイブリッドカー状態での燃費はリッター20kmが期待でき、全長4915mm×全幅1875mmというラージセダンとしてはエコなモデルでもあった。

 しかし、クラリティPHEVは日本で年間1000台という控えめな販売目標にも届かないほど売れず、フューエルセルこそアメリカでリース販売が続いているものの、日本では2021年9月にフューエルセル、PHEVともに絶版となった。

クラリティPHEV 2018年登場だが、「フューエルセル」とともに2021年9月に絶版となっている

■スタイリングと価格に課題があった?

 クラリティPHEVが短命に終わった理由は2つだ。1つ目は日本人にはクセの強いスタイル、2つ目が最大の理由となった価格の高さだ。クラリティPHEVのアメリカでの価格は登場時で3万7495ドル(当時のレートで約412万円)だったのに対し、日本ではほぼ同じ仕様で588万600円とアメリカより176万円も高かった。

 クラリティPHEVが日本でもアメリカに近い価格であればそれなりに売れた可能性もあるが、この価格では絶対値、アメリカとの価格差とも日本で売れなかったのも当然で、プラグインハイブリッドが欲しいユーザーならアウトランダーやRAV4といったSUVのプラグインハイブリッドを買うのが普通だろう。

 つまり、クラリティPHEVは価格の高さで魅力がブチ壊しになってしまったわけである。

 それでも、クラリティが絶版になってもホンダのプラグインハイブリッドや燃料電池車が展開されればクラリティの存在意義もあった。しかし、ホンダのプラグインハイブリッドというのは聞かず、燃料電池もGMとの共同開発に移行と、発展があまり感じられないのは非常に残念だ。

■クラリティから感じるホンダの弱点とは?

 ここまで読んでもらうとピンと来る人もいると思うが、ホンダの昔からの弱点が「後継モデルが続かない」ということである。最近の例を挙げてみる。

●インサイト
 インサイトはホンダのハイブリッド専用車に与えられる車名である。1999年登場の初代モデルはモーターを加速の際のアシストに使うホンダIMAを搭載し、軽量化のためのアルミボディの採用や2人乗りの3ドアクーペボディによる空気抵抗の低減といった車体側でも燃費を追求したモデルだった。

 初代インサイトは技術的には面白く、価格も登場時のMT車で210万円と、内容を考えればバーゲンプライスだった。しかし、2人乗りという点など普遍性は薄く、販売は低調に終わり、2006年に絶版となった。

 2009年に復活した2代目インサイトは、ホンダIMAを搭載する5ナンバーサイズの5ドアセダンで、価格は189万円からというリーズナブルなハイブリッドカーだった。

 2代目インサイトはリーズナブルな価格もあり当初爆発的に売れ、月間販売台数1位になったこともあった。

 しかし、2代目インサイトから3ヶ月後に登場した3代目プリウスが2代目インサイトの影響もあり、2代目インサイトの性能をほとんどの面で上回りながら2代目インサイトより実質的に安い205万円からという価格を付けたこともあり、2代目インサイトの販売は急降下。

 2代目インサイトは2011年に1.5リッターハイブリッドを追加するなど、販売が低迷したホンダ車としては珍しく改良を重ねたものの、再浮上することはなく2014年に絶版となった。

 そして、インサイトが2回目の復活を遂げたのは2018年だった。復活した3代目インサイトはシビックベースのハイブリッド専用車として1.5リッターエンジン直結モード付シリーズハイブリッドを搭載。

 3代目インサイトは乗れば申し分ないクルマながら、クラリティPHEVほどではないにせよ、如何せん価格がカーナビまでフル装備なのを考慮するとしても登場時で326万1600円からと高く、販売低迷が続いている。

 3代目インサイトは7月にシビックに追加されるハイブリッドを後継車に三度絶版となることが有力視されている。シビックハイブリッドを後継車にインサイトが絶版になるのは順当な動きではある。

 しかし、シビックハイブリッドにはさらに厳しくなる排ガス規制も見据えた新開発となるエンジンの搭載や、インサイトの役割なども考えると、シビックハイブリッドをインサイトとして継続する手もあったように感じる。

●スポーツカー事業

 大前提として大きな販売台数は期待しにくいスポーツカーの継続は困難な事業である。それでもホンダにも初代NSX/15年、S2000/10年とそれなりに続いたものもあり、ファンはどうしても「ホンダならやってくれる」と期待してしまう。

 しかしS660は7年、2代目NSXも6年と短命だ。S660の方は自動ブレーキや側面衝突といった法対応と価格を含めた収益の折り合いでやむを得ないのが分かるところもある。

 だが、2代目NSXに関しては収益の問題は大きいにせよ、ホンダのブラッグシップカーだけに初代NSXのように改良を重ねながら限界まで継続し、「2022年4月12日に発表があった電動車のフラッグシップカーにバトンタッチする」というストーリーを見たかった人も少なくなったのではないだろうか。

 ただ、ホンダのスポーツモデルにおいてシビックタイプRは空白期間や「手が届きにくいクルマになった」という面はあるにしても、継続され近々次期型が登場するというのは立派なことである。

■まとめ

 近年ではトヨタが好例だが、何事も「継続は力なり」というのはとても大事なことだ。

 そこが弱いホンダながら大成功したモデルではないにしても37年継続されたレジェンドなどの例もある。

 それだけに今後ホンダには買ってくれたユーザーのためにも、ジックリと腰を据えたSDGS(持続可能な開発目標)のあるクルマ造りやロードマップを強く期待したい。

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