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 新型ヴェゼルは日本では1.5Lハイブリッドと1.5L NAの純ガソリン仕様の2種だが、インドネシアでは1.5L ターボと1.5L NA仕様の2種となっているようだ。

 1.5L ターボといえば先代ヴェゼルの日本仕様にも搭載されていた。走りに振った選択肢として魅力的だったと思う。今回、なぜ日本仕様から省いてしまったのだろうか。理由を考察してみた。

文/渡辺陽一郎
写真/ホンダ、ベストカーWeb編集部

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■伸びるヴェゼル日本仕様の納期

 最近はクルマの納期が全般的に延びている。その典型がSUVのヴェゼルだ。ランドクルーザーのようなLサイズの高価格車ではなく、全長が4400mm以下に収まるコンパクトSUVなのに納期は長い。販売店では以下のように説明した。

「ヴェゼルの納期は、売れ筋グレードのe:HEV・Zでも約1年を要する。パノラマルーフ(ガラスサンルーフ)などを標準装着したe:HEV・PLaYは、さらに延びる傾向にあるため、今は受注を中断している。ヴェゼルはハイブリッドのe:HEVでも、価格は300万円前後に収まり、大量に売る必要のある主力車種だから、納期が延びるのは困る」。

写真はヴェゼルのe:HEV・PLaY。現在納期が伸びすぎて受注中断という憂き目に……

 納期の遅延について、開発者にも尋ねると、以下のように返答された。

「新型コロナウイルスの影響で、さまざまなパーツやユニットの供給が滞っている。なおかつe:HEV・PLaYを筆頭に、ヴェゼルは受注台数が予想以上に多い。そのために納期が遅れている」。

 つまり、メーカーがヴェゼルの需要を読み間違えて、新型コロナウイルスの影響も加わったから、納期が約1年まで延びた。

■人気なのに納期遅延で数が出ない

 ヴェゼルの発売は2021年だから設計は新しいが、今の登録台数は、納期遅延によって2016年に発売されたフリードよりも少ない。人気車だから、売れゆきが伸び悩むと、ホンダの国内販売全体に影響を与えてしまう。2022年1~3月のホンダの国内販売状況を見ると、全体の55%をN-BOXをはじめとする軽自動車が占めた。

 ちなみに現行ヴェゼルは内外装の質が先代型以上に高く、インパネの周辺などは、売れ筋価格帯が350万~450万円のCR-Vよりも立派に見える。燃料タンクを前席の下に搭載する方式で空間効率も優れ、身長170cmの大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先には握りコブシふたつ半の余裕がある。後席の広さも、ボディの大きなCR-Vと同等だ。

 しかも後席はコンパクトに畳めて、ボックス状の大容量の荷室に変更できるから、ファミリーカーとしても使いやすい。このように、ヴェゼルは運転のしやすいボディに広い居住空間と荷室を備え、内外装の作りもていねいだから、一躍人気車種になった。その納期が遅れているのだから困るわけだ。

■海外仕様のヴェゼルに対して日本仕様が差別化される理由

 そして、インドネシアで売られるHR-V(ヴェゼルの海外仕様)には、直列4気筒1.5Lのターボエンジンを搭載するRSが加わった。最高出力は177ps(6000rpm)、最大トルクは24.5kgm(1700~4500rpm)だから、動力性能を含めて、シビックの1.5Lターボをヴェゼルに移植したと考えればいい。自然吸気のノーマルエンジンに当てはめると、2.4L相当の動力性能を発揮する。

 インドネシアで売られるHR-V・RSのトランスミッションはCVT(無段変速AT)で、ノーマル/スポーツ/エコの3モードドライブシステムを採用する。外観もRS専用のエアロパーツ、18インチアルミホイールなどが装着されてカッコいい。

 RSは、日本で売られる現行ヴェゼルには設定されていないが、先代型は国内仕様に同じ名称のグレードを用意していた。先代ヴェゼルは2013年に発売され、2016年にRSを加えている。

 先代ヴェゼルRSは、1.5Lのノーマルエンジンとハイブリッドに設定され、ボディ剛性を高めるパフォーマンスダンパー、ギヤ比を可変式にしたパワーステアリングなどを装着していた。また、2019年になると先代ヴェゼルは1.5Lターボエンジンを搭載するツーリングを加えた。インドネシアのHR-V・RSは、先代ヴェゼルのツーリングに近い。

 先代ヴェゼルツーリングは、1.5Lターボの搭載により、最高出力は172ps(5500rpm)、最大トルクは22.4kgm(1700~5500rpm)を発揮した。最大トルクは、新型のHR-V・RSよりも2kgmほど低いが、それに近い性能であった。

 国内で販売される現行ヴェゼルは、ハイブリッドのe:HEVが中心で、ノーマルエンジンは価格が最も安いGのみだ。先代型に比べてグレードが少ない。現行ヴェゼルは、いわゆる電動化を意識しすぎているのだ。

■日本仕様にもターボ仕様を!

 その意味で、国内のヴェゼルにも先代のツーリングに相当する1.5Lターボを追加すると喜ばれるのではないか。ヴェゼルは走行安定性が優れているから、ターボを搭載して足回りをスポーティな方向にチューニングすると、ドライバーの操作に素直に反応する運転の楽しいクルマに仕上がる。

 先代ヴェゼルツーリングの駆動方式は前輪駆動の2WDのみだったが、現行型に設定するなら4WDも用意して欲しい。ヴェゼルのリアルタイム4WDは、電子制御される多板クラッチを使って前後輪に駆動力を配分しており、走行状態に応じて的確に反応するからだ。

 4輪のブレーキを独立制御して走行安定性を高めるアジャイルハンドリングアシストとの相乗効果も高く、ドライバーが一体感を味わえる運転感覚も得られる。舗装された峠道なども含めて、4WDにより総合的な走りの性能が高まるワケだ。

 グレード名は日本のユーザーにも、インドネシアと同様のRS(ロード・セーリング)がなじみやすい。RSは初代シビックから使われている伝統の名称になるからだ。

 日本市場にもぜひヴェゼルRSを設定して欲しいが、その前に納期遅延の問題を解決せねばならない。納期が著しく遅れている状況では、グレードの追加は難しい。

■人気機種を鈴鹿に集めすぎた!?

 納期遅延の背景にはパーツやユニットの供給不足に加えて、生産工場の問題もあるといわれる。現行ヴェゼルは鈴鹿製作所で生産されているが、ここではN-BOXをはじめとする軽自動車のNシリーズやフィットも扱っている。これらの車種は生産台数が多いため、販売店からは「出荷状況なども含めると、鈴鹿は過密な状態にあり、納期も影響を受けているのではないか」という意見が聞かれる。

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ホンダの日本市場における大黒柱と言っても過言ではない機種たちを鈴鹿で生産している。集中させすぎたのが納期遅延の一因なのか!?

 今は約80%のユーザーが、それまで使ってきた車両を下取りに出して新車を買っている。通常は下取りに出す車両の車検が満了する3カ月前くらいから商談を開始して、契約を行い、車検満了前に新車が納車される段取りを組む。

 それがヴェゼルの納期は、e:HEV・Zなどが約1年、e:HEV・PLaYは受注を中断している状況だから、ユーザーは乗り替えができなくて困ってしまう。販売店も「ヴェゼルは納期を早急に短縮して欲しい。ターボエンジン搭載車を追加する予定は聞いていない」という。

 まずは納期を回復させ、ヴェゼルe:HEV・Zと同様の290万円前後でターボエンジンのヴェゼルRSを用意すれば(先代型のツーリングも約290万円だった)、人気のグレードとなるに違いない。ホンダのブランドにも合っている。軽自動車に偏ったホンダのイメージを改めて戻す役割も果たすだろう。ホンダの国内市場に対する取り組み方が問われている。


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