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 ついに発表となった日産/三菱による軽のバッテリーEV「サクラ」/「eKクロスEV」。発売開始は今夏の予定だ。

 軽自動車といえば、発進時の加速がもたつきがちで、特にNAエンジン車は、普通自動車と比べると雲泥の差。パワー不足を補うためにターボエンジン車が用意されてはいるが、それでも軽自動車に普段感じているネガティブな部分を消したとは言い切れない。

 しかし、バッテリーEV(以下BEV)である、サクラ/eKクロスEVの加速の力強さは、軽自動車のレベルではなく、もはや上級コンパクトカー並み。軽自動車のネガな部分が、一気に解消されていた。

 日産副社長の星野朝子氏が「軽のゲームチェンジャー」とした、今回のサクラ/eKクロスEV。「軽であって軽でない」その凄さを詳細にお伝えしよう。

文/吉川賢一
写真/佐藤正勝

【画像ギャラリー】その実力はコンパクトカーにも引けを取らず! 日産 サクラ・三菱 ekクロスEVをギャラリーでじっくりチェック!(27枚)画像ギャラリー

■「明らかに軽を越えた!!」サクラとeKクロスEV

2022年5月20日、軽EV 日産「SAKURA」と三菱「ekクロスEV」が発表された
サクラとekクロスEVは共に最高出力47kW、最大トルクはなんと195Nmを発揮。バッテリー容量は20kWhで、航続可能距離は180kmを実現した

 サクラ/eKクロスEVの最高出力は47kW/2302-10455rpm、最大トルクは195Nm/0-2302rpmだ。一足先に試乗させていただいたが、アクセルペダルを優しくひと踏みした瞬間から、軽やかな加速。

 総容量20kWhのバッテリーは標準リーフ(40kWh)のちょうど半分だが、サクラの車両重量は1080kg(「G」グレード)と、標準リーフ(1520kg)の3分の2程度で、最大トルクはおよそ2リッターNAのガソリン車並み。

 しかもモーター駆動だから、発進した瞬間から最大トルクの恩恵を体感できる。フットワークの軽やかさは伝わるだろう。

 ドライブモードも「ECO/STANDARD/SPORT」とあり、踏み始めの加速感が強くなる。1名ならばECOで十分、3名乗車だとSTANDARDが丁度よかった。

 なおeペダルは、減速度が強めのセッティングとなっているので、お好みでオン/オフを選べばよいだろう。筆者は、e-PEDALはオフにした方が、クルマの軽やかさを味わえるので好みだった。

運転席の右手にある「DRIVE MODE」から「ECO」「STANDARD」「SPORT」3種類のモードが選べる

■以前よりは性能向上してはいるが、やはり「軽は軽」

軽自動車の64馬力規制は、1980年代のスズキ アルトワークスとダイハツ ミラターボTR-XXの「軽ターボ対決」によって始まったとされる

 日本の軽自動車は、1949年7月に軽自動車の規格が制定されたことで始まったもの。

 現在の軽自動車の規格は、1998年に改定された「排気量660cc以下、長さ3.4m以下幅1.48m以下、高さ2.0m以下の三輪および四輪自動車」というものだ。

 昨今は、軽自動車もコンパクトカーも車両価格はさほど変わらなくなってきているが、それでも、軽自動車のほうが維持費は安く、コンパクトカーよりも車内が広いことから、新車販売の約4割を占めるほど人気となっている。

 一方、排気量に上限660cc(1998年に550ccから改定)があるため、CO2ガス排出低減とエンジンパワーの両立がしにくく、冒頭でも触れたように、「加速が遅い」といったネガティブな部分もある。

 安全性能や走行性能、静粛性などにおいても、以前よりはずっと向上しているが、同時期に開発されたコンパクトカーと比較すると、劣ってしまうのは事実。

 排気量の上限はあるが、エンジン出力には決まりがない。だが、全てのメーカーが、最高出力64ps以下になるよう自主規制をしている。

 この自主規制の起源は、1980年代に起きた軽パワーウォーズ(スズキ アルトワークスとダイハツ ミラの軽ターボ対決)によって始まったとされている。

 ただ、冒頭でも触れたように、軽自動車は、最高性能を抑制することで、国土交通省が、「特別に」枠を用意してくれているものだ。

 最高出力64psの自主規制がなければ、とっくの昔に、普通自動車枠に吸収され、特別待遇はなくなっていただろう。

■軽がBEVにたどり着いたのは必然

N-BOXのボディサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1790mm
ルークスのボディサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1800mm
サクラのボディサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1655mm

 現在、売れ筋の軽スーパーハイトワゴンと、サクラのパワースペックをざっと並べてみた。

 見てほしいポイントは、ターボ車の最大トルク発生回転数がおよそ2500rpm、という点だ(※スペーシアはモーターアシスト分を考慮して考えてほしい)。

●ホンダN-BOX
・NA 最高出力43kW(58ps)/7300rpm、最大トルク65Nm/4800rpm
・ターボ 最高出力47kW(64ps)/6000rpm、最大トルク104Nm/2600rpm

●スズキスペーシア
・NA 最高出力38kW(52ps)/6,500rpm、最大トルク60Nm/4000rpm
+モーターアシスト 2.3kW(3.1ps)/1000rpm、50Nm/100rpm

●ダイハツタント
・NA 最高出力38kW(52ps)/6900rpm、最大トルク60Nm/3600rpm
・ターボ 最高出力47kW(64ps)/6900rpm、最大トルク100Nm/3600rpm

●日産ルークス 
・NA 最高出力38kW(52ps)/6400rpm、最大トルク60Nm/3,600rpm
・ターボ 最高出力47kW(64ps)/5600rpm、最大トルク100Nm/2400-4000rpm

★日産サクラ
最高出力47kW/2302-10455rpm、最大トルク195Nm/0-2302rpm

 トルクは、ある程度エンジン回転数を上げていかないと発揮されない。ターボ車はおよそ2500rpmで最大トルクを発揮する。NA車に比べれば、ターボ車は低い回転数で発揮されるものの、それなりにアクセルを踏み込み、エンジン回転数を高めた状況だ。

 理想は、最もパワーが必要となる停止状態からの発進時に、最大トルクが出ること。

 そうなれば、多くの方がストレスなく、加速感を感じられるようになる(その反面、スピードが伸びるような感覚は薄れるが)。モーター駆動がまさにそれだ。実際に乗った印象でも、もはやターボ車も敵ではなく、爽快なドライブフィールで心地が良い。

 ストロングハイブリッド化をする、という方向も考えうるが、エンジンとモーター、両方を積むほど、コストをかけるなんてことは考えられない。軽自動車がBEVにたどり着いたのは必然であったように思う。

■最大トルクが高ければいい、というものでもない

サクラに搭載されるモーターはノートe-POWER 4WDのリア側モーターのチューニング版。大人4人乗車で山道をストレスなく上り下りできる

 ただ、軽BEVも、最大トルクをできるだけ高めればよいか、というとそうではない。

 サクラの実車実験を取り仕切った、日産オートモーティブテクノロジー・車両実験部第三車両実験グループ主管 永井暁氏によると、サクラに搭載している駆動用モーターは、ノートe-POWER 4WDのリア側のモーターのチューニング版だという。

 ノートe-POWER 4WDのリアモーターは、最高出力50kW、最大トルク100Nmいうスペックだが、これは大幅に出力を絞って使っているそうだ。

 サクラでは、最大トルクを195Nmまで開放したが、出そうと思えば更に(トルクを)引き出せるとのこと。しかし、オーバースペックにすると、電費の悪化やバッテリー、モーターの発熱、その他にもしわ寄せがくる。

 ギリギリ攻め込んで決めたのが、現在のターボ車の実力の約2倍、最大トルク195Nmであったそうだ。

 開発の後半では、公道試験で箱根のターンパイクを貸し切って、上り下りを走り回ることもしたそうで、サクラのテストカーは、4名乗車であってもストレスなく、登り降りをこなしたという。

「我々(日産)が導き出したスペック(最大トルク)は正解だったと自負しています。」と、永井氏は語ってくれた。

■軽自動車の答えは「BEV化」

サクラとeKクロスEVはクルマの完成度が高く、落ち着きのある走り心地で「軽を超えた」というのも理解できる仕上がり
EV補助金を含めるとサクラの場合Sグレードは133万3100円~となるため、軽ガソリン車であるデイズのエントリーモデルより少し高いだけ(5400円高)となる

 サクラ/eKクロスEVは、終始、落ち着きのある走り心地で、「軽を越えた」と日産が自負するのも理解できる仕上がりだった。

 クルマの完成度は高く、自宅充電をすれば充電費用も安く済むので、セカンドカーとして非常に適したモデル。

 筆者も本気で欲しいと感じた。2022年度は政府のCEV補助金額は軽BEVは、55万円の補助金が受けられるようになった。

 サクラの価格はSが233万3100円、Xが239万9100円、Gが294万300円だから、この価格から補助金を引くと、Sが178万3100円、Xが184万9100円、Gが239万300円となる。

 地方自治体の補助金も用意されているが、東京都の場合(2022年4月27日募集開始)だと45万円受けられるため、Sは133万3100円~となる。日産のガソリン軽自動車、デイズのエントリーモデル、Sグレードの132万7700円~より少し高いだけとなる。

 三菱ekクロスEVはGが239万8000円、Pが293万2600円。CEV補助金を差し引くとGが184万8000円、Pが238万2600円。ここから東京都の補助金を差し引くと、Gが139万8000円、193万2600円。三菱のガソリン軽自動車、ekクロスのMグレード、146万3000円よりGグレードは6万5000円安いことになる。

 時代も後押ししてくれているいま、ユーザー側もこの機会を逃す手はない。

 正直なところ、今回のサクラ/eKクロスEVは、ボディサイズこそ軽規格に収まってはいるが、軽として優遇措置を受けるのはどうなのか、と感じてしまうレベル。

 これは一般的な軽ガソリン車でもいえることだが、高速走行などではエンジンパワーに対してシャシー性能が不足しているように感じる。

 パワートレインのポテンシャルに相応しい諸元が欲しくなるのだ。サクラ/eKクロスEVはなおさらだ。

サクラはデイズの車体をベースに、アンダーフロア補強、サイドメンバー追加、3リンク式のリアサスペンション採用など改良が行われている
力強いモーターに対してシャシー性能が不足しているように感じる。ドアの厚みアップとトレッド拡大などの対策がさらに欲しくなってしまうのだ

 もちろん日産としても、ベースとしたデイズの車体に対して、アンダーフロアへバッテリーを支える補強の梁を追加したことや、リアサイドメンバーを追加して強固なリアセクションとしたこと、モーターを載せているユニットメンバーを新設して、慣性主軸(揺れの中心軸)の直上でマウントし、上下振動を最小化したこと、3リンク式のリアサスペンションを採用したことなど、多々の改良を行ってはいる。

 しかし、コンパクトカーと比べると、背高ゆえにコーナリング時には不安定さを感じるし、加速時の横方向のグリップ(試乗日がちょうど雨だった)など、あの力強いモーターに対応する対策がさらに欲しくなる。

 例えば、車幅上限を1.48mから1.6mまで許容し、ドアの厚みアップとトレッド拡大、タイヤサイズをアップする、などが欲しくなってしまうのだ。

 ただしそうすると、軽自動車税(自家用は10800円)の枠からはみ出し、自動車税へ統合されて1000㏄以下(25000円)となり、折角の特権を失ってしまう(初度登録時は免税となるだろうが)。

「軽として認められる枠に収めながらも、軽ではないクルマをつくった」というのが、サクラ/eKクロスEVなのだろう。本質は軽ではないのに、軽という特権は受けられる。こんなお得なクルマはほかにない。

 サクラ/eKクロスEVは、コンパクトカーと戦ったとしても、十分に勝ち抜けるだけの実力はあるし、これこそが、「軽自動車の答え」だと筆者は考える。

 市場に出回るようになった時、オーナーがどれほど「感動」の声を発してくれるのか、非常に楽しみだ。

コンパクトカーの代表格トヨタヤリス ハイブリッドのXグレードの価格は 199万8000円からとなっている
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