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バイオマス燃料の性能はハイオク同等!? 日本最大レースに新規定ガソリン投入へ 今後自動車用燃料はどう変わるのか

 スーパーGT開幕戦岡山大会の決勝日である4月17日、GTアソシエイション株式会社(GTA)主催の定例記者会見が行われた。

 会見ではGTA代表の坂東正明氏がスーパーGTにおける環境対策について言及。2023年からドイツのハルターマン・カーレス社製のカーボン・ニュートラル燃料の採用と参戦全車への供給を決定したと発表。

 この新燃料、いったいどういったものなのだろうか。そしてこの新燃料によってスーパーGTはどう変わっていくのだろうか?

文/段純恵、写真/HONDA、NISSAN、TOYOTA

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■2023年から供給される「新燃料」とは?

2022年4月16日、スーパーGTの2022年シーズンが岡山国際サーキットで開幕! 決勝日(17日)のGTAの定例会見では2023年シーズンから導入される新燃料の発表もあった

 4月17日、スーパーGT開幕戦岡山大会の決勝日にGTアソシエイション株式会社(GTA)主催の定例記者会見が行われ、坂東正明GTA代表がスーパーGTにおける環境対策について言及。2023年からドイツのハルターマン・カーレス社製のカーボン・ニュートラル燃料の採用と参戦全車への供給決定が発表された。

 いまモータースポーツ界では、自動車業界全体と歩調を合わせるように、二酸化炭素(CO2)に代表する温室効果ガスの排出量抑制など地球環境への配慮と、それによる将来の持続可能なレースへの転換がトレンドとなっている。

 その方策の一つとして、使用燃料の『脱炭素化』を図るカテゴリーが増え、海外では世界耐久選手権や世界ラリー選手権、英国ツーリングカー選手権や二輪ロードレースのモトGP等がすでに再生可能燃料を導入しており、国内ではスーパー耐久で各メーカーが各々採用する再生可能燃料を搭載したマシンで実証実験を行っている。

 カーボン・ニュートラル燃料はCO2を出さないのかと、水素自動車や電気自動車とゴッチャに考えられがちだが、そうではない。

 今回スーパーGTが導入を決めたハルターマン・カーレス社の燃料は、サトウキビやトウモロコシを原料とするエタノール(米インディカーで使われている)など第1世代のバイオ燃料ではなく、藻類や古紙、古着、木の廃材などの廃棄物に含まれる有機物を分解し製造される第2世代のバイオ燃料だ。

 つまり、落ち葉や牛フンなど廃棄物から炭水化物(多糖類)のセルロースを取り出し、それをアルコールに精製。さらにそのアルコールから製造されたガソリン、ということになる。

■植物を原料とすることで温室効果ガスを削減

開幕戦は大嶋和也・山下健太組のENEOS X PRIME GR Supraがポール・トゥ・ウィン

 なんだ元は植物でも最終的にガソリンなら使えばCO2が出るじゃないか、と気づいた人もいるだろうが、それはその通り。木や草、藻がその成長過程でCO2を吸収し、ガソリン使用時に排出されるCO2と相殺し合うことから、温室効果ガスの削減に寄与するという考え方だ。

 なので実のところはカーボン・ニュートラル(炭素・中立)というよりカーボン・オフセット(炭素・埋め合わせ)燃料と表現するほうがより近しいのだが、スーパーGTにおいては『原材料に化石燃料を一切使わない燃料をカーボンニュートラルフューエル(CNF)と呼ぶ』と定義している。

 CNFの利点として他に挙げられるのは、動力源が水素や電気の場合と違い、いまある内燃機関をそのまま使えなおかつ既存のガソリンスタンドを供給場所として使えることだ。水素ステーションや高速充電機のインフラがまだ十分とは言えない日本において、CNFはかなり利便性の高い燃料となる可能性を秘めている。

 ドイツに本社を置くハルターマン・カーレス社は160年以上の歴史を持つハイドロカーボン(炭化水素)の特殊品製造化学メーカー。

 製品は医薬用、産業用、農薬用のみならず、2024年からはドイツ初のSAF(サスティナブル・アビエーション・フューエル、持続可能航空用燃料)メーカーに認定されるなど、常に安定した品質と圧倒的な信頼を背景に様々な分野で広く使用されている。

 モータースポーツ用の再生可能燃料は『ETS』名のブランドで展開されており、品質もさることながら、レース主催者等の要望に添ったいわば『オートクチュール』なモノ作りにおいて先んじている。

 スーパーGT用の燃料もJISのプレミアム規格に則って開発された再生可能レース燃料で、使用に際してどのメーカーのどの車両でも、多少の調整のみでエンジンの性能低下を招かずに使うことができる。

 無鉛ハイオクと遜色ない性能を発揮するハルターマン・カーレス社の燃料は、来春の正式導入を控えてGT500クラス各メーカーのベンチ検証テストが続けられ、8月の第5戦鈴鹿後にはGT500、GT300両クラスの全車が参加した実走テストがを行われる。

来シーズンの開幕戦は新燃料で戦われることになる。環境対策と心躍るエキゾーストノートを両立したいと考えているスーパーGT。新燃料への興味は尽きない

 1シーズン30万リットルの利用が見込まれるスーパーGT用燃料は、英国の工場で生産されて船舶で日本に輸送。同じロットで生産された同じ品質の燃料は大阪の倉庫に貯蔵され、レース事に取り出しサーキットへ運び込まれる予定だ。

 気になる価格は、廃棄物である原材料費は安いのものの生産工程の多さによるコストがかさみ、化石燃料と比較すると割高になることは避けられない。だが既存燃料とのブレンドすることで単価を抑えることも可能だ。

 「環境問題に対して、スーパーGTは10年後も音のあるレースをしたいと考えている」。

 そう会見の冒頭に切り出した坂東会長は、「それを社会に認めてもらうために義務と責任を果たし、関係者が一丸となって環境対策を推進していく」と宣言。

 再生可能燃料の導入とともに、エンジンは出力よりも燃費の向上、タイヤのロングライフ化などのレギュレーション見直し、ファンと共に推進するゴミ削減などの新たな目標を掲げ、環境対策とモータースポーツの共生へ、待ったなしの改革推進に舵を切る決意を新たにしていた。

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