世界の化学企業の間で事業再編の動きが止まらない。事業を切り出す側はポートフォリオを絞り込むことで、引き受ける側は主力事業を補強することで、企業価値の向上を図っている。多角的なポートフォリオは、いつもどこかが利益を挙げるので収益が安定するといわれてきた。しかし各分野に先鋭化した企業が現れれば、投資が分散する「総花的企業」の未来には共倒れが待っている。
オーストリアの石油化学企業であるOMVは今月6日、DSMによる同社エンジニアリングマテリアル事業の競争入札に参加すると発表した。同事業会社の株式を100%取得する意向。OMVは、傘下にポリオレフィンを主力とする化学企業ボレアリスを持つ。DSMの同事業買収で化学品事業のポートフォリオ拡大を図る。
DSMは昨年、売却も視野にマテリアル事業をカーブアウトして、健康・ニュートリション・バイオサイエンスに特化する戦略を鮮明にしていた。マテリアル事業は、超高分子量ポリエチレン(PE)繊維「ダイニーマ」を手がける保護材料部門と、自動車や電子産業向けに高耐熱ポリアミドなどを手がけるエンジニアリングプラスチック部門で構成される。このうち保護材料部門については先月、米アビエントコーポレーションへの売却を決めている。
一方、エボニック インダストリーズは今月11日、パフォーマンスマテリアルズ部門を売却することを発表した。同部門は高吸水性樹脂(SAP)、ファンクショナルソリューション、パフォーマンスインターミディエイツで構成されており、それぞれの事業について2023年中に新しいオーナーを見つける。
エボニックは、30年までにサステナビリティ効果に優れた次世代ソリューションに30億ユーロを投資する目標を掲げており、売却益を充当する。この投資額は年間成長投資の約80%に当たるもので、次世代ソリューションの売上高比率を現在の37%から50%以上に引き上げる。とくにドラッグデリバリー技術、バイオガスや水素向けのガス分離膜、天然由来の化粧品有効成分などに力を注ぐ方針だ。
ポートフォリオ再編を進めるうえで前提となるのは、自社の強みを、突き詰めたかたちで見極めることだろう。現在生き残っている半導体事業を営むメーカーは、かつて設計・開発と製造設備の間で、いずれかに舵を切った。両方を手放さなかった企業は、どちらも投資も不十分になり、結果として沈んでいった。化学企業は今、同様の決断と、M&Aによる大胆な実行を迫られている。
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