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新潟県の花角英世知事は、26日の定例記者会見で、東京・表参道にある新潟県のアンテナショップ「表参道・新潟館ネスパス」の営業を終了すると発表した。県によると、アンテナショップが入るビルの取り壊しが決まったため、2023年12月中に営業を終了する。今後については、新たな拠点に移るかどうかも含めて総合的に検討していくという。

実は、新潟県に限らず、このところアンテナショップを撤退させる自治体が相次いでいる。

表参道・新潟館ネスパス(新潟県サイトより)

兵庫県、福井県坂井市、北海道美瑛町も閉店

今年に入り、東京・戸越銀座にあった福井県坂井市の「坂井市アンテナショップ」が2月末で閉店。2013年に町村で初めてのアンテナショップとして開業した、北海道美瑛町のアンテナショップ「丘のまち美瑛」(東京・有楽町)も今年1月に閉店している。

また、兵庫県の特産品を販売するアンテナショップ「兵庫わくわく館」(東京・有楽町)も3月21日に閉店した。明石焼きや100年近い歴史を持つ銘菓・鶯ボール、有馬温泉名産の「炭酸せんべい」など、首都圏では珍しい商品が手に入ることから高い人気を得ていた。しかし2019年9月には店舗面積を従来の3倍に拡大するリニューアルを行ったが、その矢先に新型コロナが直撃。売り上げが激減していた。

全国の自治体などで構成する「地域活性化センター」が今年1月に発表した調査によると、自治体が東京都内に設けたアンテナショップ62店舗のうち、年間売り上げが1億円を超えた店舗がコロナ前の2019年は37 店舗(全体の 60%)だったが、2020年は29 店舗(同47%)に減少。特に飲食部門での売り上げ減少が顕著で、飲食部門で年間売り上げが1億円以上だった店舗は、2019 年度の10店舗から、2020 年度は 1店舗のみと大幅に減少した。

そんな中、各アンテナショップでは、ネット販売が急激に伸びている。2021 年度のネット販売の売り上げは対前年比で187%を記録している。

そうした状況の中、高いテナント料を支払って、首都圏に実店舗を出すのにどれほどの効果があるのかという疑問の声も、自治体関係者からは上がっている。

財政難の自治体が抱えるジレンマ

「兵庫わくわく館」が閉店することの直接の原因は、兵庫県の補助金の打ち切りだ。2020年度に年間約2400万円だった県の補助金が、行財政運営方針見直しの一環で2021年度を最後に打ち切られることが決められていた。「兵庫わくわく館」は、「補助金なしでの運営は難しい」として、閉店を決めている。

そして今回、「表参道・新潟館ネスパス」の閉店を決めた新潟県の花角知事も、記者会見で次のように述べている。

「県では、あり方検討会議を立ち上げ、年度内に方向をまとめる。有識者から、本当に必要かどうかも含めてゼロベースで考えてもらう。ネットが生活に入り込んでいる中で、リアルの店舗について検討してみる価値はある」

家に居ながらにして全国の名産品を簡単に購入できる便利な時代だが、実店舗で実物を手に取ってあれこれ選びたい人も多いのではないか。新潟県出身で、東京に50年以上在住している70代女性は「表参道・新潟館ネスパス」の閉館を惜しむ。

「残念でなりません。あそこは、笹団子やへぎそばといった新潟の名産品だけではなく、東京のスーパーでは売っていない野菜や果物も買えるんです。ナスなんか、東京で売っているものと全然違いますからね。コロナ前は2週間に1回くらい通って、その時々の旬の食材を購入していました」

※画像はイメージです。loveshiba /iStock

この女性はスマートフォンを使いこなして、ネット通販も利用しているがやはり実店舗で選ぶことの魅力は大きいと話す。

「実物を手にして、あれこれ悩んだり、新しい商品を発見したりといったことが楽しいんですよね。“これが欲しい”と決まっている時、通販はとても便利です。でも、目についたからついつい買ってしまったということはあまりありませんよね

実店舗を撤退させてネット販売を強化した方が、コストは抑制でき、それでいて売り上げが増えることもあるだろう。ただ、既存のファンにはそれでいいのかもしれないが、新たなファンの獲得は難しいのではないだろうか。そもそも、興味がない自治体の通販サイトにアクセスするだろうか。

「表参道を歩いていたら偶然、新潟のアンテナショップがあったから入ってみた。商品を購入して食べてみたら美味しかった。今度は実際に新潟県を訪れてみたい」という流れは、ネット販売では生まれづらい。財政に大きな課題を抱える自治体が多数の中、多くの自治体がこうしたジレンマを抱えているのではないか。