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昨日の前編で、T医大入試での女性差別事件の「第三者委員会調査報告書(一次)(二次)」をもとに、「属性調整」と「個別調整」という二つの差別の手口について論じました。しかしこれでも、まだ、矛盾が消えないのです。

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例年にないトラップの年も?

図1をご覧ください。各年度、各段階での女子割合の増減率を示しています。たとえば、例えば2018年度一般試験の受検者中での女子の割合は38.9%で一次合格者中の女子割合は32.8%ですから、約1割の減少で増減率は0.9となります。

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一目でわかる図1.の特徴は二つです。まず、2018年度入試の異常性です。それまで属性調整の細部は2年ごとに変えていたのが、この年は前年変えたばかりの方式をやめて、2013、14年に使われていた男子優遇幅が大きいものに戻しています。具体的には、一浪は4点、二浪は8点加点を例年より加点して現役と同じ20点にし、例年加点のない三浪生にも半分の10点を進呈するという制度です。当然、例年以上に女子が不利になります。

けれども、この属性調整だけで2018年入試での異常な女子の減少が説明できるのでしょうか。なにしろ、男子と比較して一般入試コースでは5割、センター利用コースでは2割しか二次試験の突破率がないのですから。出題や採点基準に女子を落とすための例年にはないトラップが属性調整とは別にあった可能性もあります。

もうひとつの特徴は、2013年以来、隔年で男女格差があまりなかった年と、女子の成績が振るわなかった年(「女子絞り年」とします)が交互に来ていることです。2018年には、学長が「去年は女性が多かったから、今年は男性を多く取りたい」などと考えていたようですから、隔年で女子の人数を絞る操作が慣例的に行われていた可能性があります。女性差別の上に、年齢差別が重なるわけです。

第三者委も見落とした手口?

さらに奇っ怪なのは、報告書によれば、二次属性調整以外には性別による差別はないということになっているのですが、属性調整前の一次試験やセンター利用試験の段階で、すでに女子の減少傾向が見られます。例の「大喜利」調整の影響だとしても、引き上げられるのはせいぜい10名程度ですから、「代わりに落とされる10数名の全員が偶然女子だった」というかなり無理な仮定をしても、まだ計算が合いません。

また、「属性調整」のルールは同じなはずの、2018年以外の絞り年とその前年(201413および201615)とをそれぞれ比較すると、絞り年のほうが明らかに女子の二次試験合格率が落ちています。

いわゆる隔年現象(有力な浪人になるはずの女子受験生が多数、ある年に現役で通ってしまうと、翌年は女子の合格率が下がる)で説明するには数字が大きすぎるように思います。「属性調整」のある二次試験以前の一次試験の段でも何らかの差別的な調整があり、それを強制力のない第三者委員会の調査では見落とされたのでしょうか。可能性のある手口を考えてみましょう。

たとえば、一次試験の理科で女子の選択者が少ないと思われる「物理」の問題を絞り年に限り易しいものにすることなどが考えられます。実際、とある予備校のサイトには、「’18に急難化し’19も同程度の難易度で入試問題として難し過ぎるのではないかと思われたが、’20は以前の形式・難易度に戻った」などとあり、こういうのが男女別合格率に何らかの影響を与えたことも考えられます。

ですから、第三者委員会にも予備校講師などを加えて、選択科目ごとの難易度や合格者数なども調べてほしかたものです。

また別の説明も可能です。「大喜利」加点のうち、調査では見落とされている受験生が大量にあったというケースです。もしそうなら、定員120名の学部で数十人単位での裏口合格があったことになり、もはや「入試やってます」とさえ言いがたい状態です。

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一番考えたくない手口

もうひとつ、一番考えたくない手口があります。「翔太」学長が、特定の女子を狙い撃ちにして「Cさんの生物、10点減らしなさい」とか「ヤマダ君、Dさんの英語、全部持って行きなさい」などとやっていた場合です(具体的な「採点」風景を想像したくないので、不謹慎承知でギャグにしてしまいました)。実際に、推薦入試では女子2名の点数を減らした例が報告書にあります。

採点者の目の前にある答案は、その生徒の生まれてからの学習の結晶です。男女を問わず医学部を受けるような連中なら、青春の大半を費やして書き上げた一枚のはずです。それを、次々と理由もなく減点していく……こういうことをしたくないから、「属性調整」という機械的な手口が使われていたのでしょう。ナイフで刺すより原爆落とす方が心理的抵抗は少ないという理屈です。でも、メスで人を切ることも許される男たちは、あえてナイフで1人ずつ刺すことを選んだのでしょうか。

こういう、身の毛もよだつような勘ぐりを受けないためにも、第三者委員会にはもっと深掘りしてほしかったものですし、メディアや我々も、目に見えた差別で大騒ぎするばかりではなく、冷静に彼らの背中を押しておくべきでした。少なくとも隔年現象などの検証は、受験生個人まで追跡出来るのですから、確実に可能だったはずだからです。

2018年入試の異常

最後にもう一度、2018年の異常性を見てみましょう。なぜ、これほど大きなリスクを冒してまで、この年の女子はここまで切られたのでしょうか。私の仮説は、「何が何でも合格させたい男子受験生がいたのに、何らかの理由で以前ほど『大喜利』採点ができなくなったため、無理矢理に属性調整を拡大した」というものです。

また、前回の結論を一点だけ修正します。「意図的な女性差別は2014、16などの絞り年に『属性調整』によって行われており、それとは別に2018年には特殊事情により不正の程度が拡大し、結果的に女子にのみ以前の絞り年以上のトバッチリが行った」というものです。事件の本質は裏口入学にあり、また、メディアが女性差別にだけ注目したということについては、前回のまま私の結論としておきます。

柄にも無く感情的になってしまい、後味の悪い記事になりました。次回は、医学部入試そのものについて、医療の面から考えてみることにします。私も含めて不合格者の話ばかりして来ましたが、裏口合格者はその後どうなったのかということと、もう一つ、これまで全く報道されていなかったと思われる、T医大での別の女性差別についても、考えてみたいと思います。