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自民党有志「出産費用等の負担軽減を進める議員連盟」(小渕優子会長)が出産一時金を現状42万円から3万円程度引き上げる提言をまとめました。

出産一時金「45万円程度に増額を」、自民議連が提言へ…東京で平均支出60万円 ― 読売新聞

これに対しツイッターの複数の医療アカウントから違和感を表明する声が噴出しています。近年、政府はあらゆる物事について補助金で解決を図りますが、それは問題解決に結びついてきたのでしょうか。

ガソリン高騰で批判された補助金政策

例えばガソリン価格高騰に関しては当初1リットル170円となるよう補助金を元売り業者に支給しましたが、1月中旬ごろまでは小売り価格への反応は鈍く批判されました。

他の例としても幼児教育・保育無償化政策において認可外保育園へは補助金によって家計負担の軽減が図られましたが、実際に補助金導入年度に認可外保育園で起こったのは「便乗値上げ」でした。

これら民間企業においては常日頃より競争による価格抑制がかかっています。ここに補助金が出ることで競争条件が変化し、それにあわせた価格設定に修正されることになります。待遇改善・人員強化・設備投資などの抑制されていた部分に補助金の一部は使用され、全額が利用者の負担軽減になることはありません

つまり補助金が出れば出るほど当該分野の経営は楽になりますが、それが政策目標として妥当であるかは精査する必要があります。ガソリン・保育・出産に関する政策は利用者の負担を軽減するのが政策目標であったはずで、事業者への補助金はその効果を半減しています。

これは政府が実施事業者にも恩恵を与える中で少しずつ統率力を強めるという、混合経済推進に政策決定者のインセンティブがあるためです。

ガソリン高騰抑制策 小売価格反映、不透明 GSの経営判断次第 ― 毎日新聞

「だまされた感」保護者ため息 幼保無償化で値上げ続々 ― 朝日新聞

一時金増額でも出生率上がらず

さて出産一時金についてはどうでしょう。2006年(平成18年)にそれまでの「分娩費」と「育児手当金」を統合し30万円で始まった本制度は2009年・2011年と段階的に引き上げられ現状の42万円となっていますが、出生率を向上させることはありませんでした

出典:厚生労働省(2020)「出産一時金について」

そういった状況の中で政策がどれだけ当初の目標を達成したのか、なぜ出産費用の平均額が上昇しているのか分析したのかなど政策-事務事業評価はされてきたのでしょうか。

もし政策目標を「贅沢しなければ手元に現金がなくても安心して妊娠出産できるようにする」(2008年、舛添要一厚労相)ことへ位置付けるのであれば、既に達成できています。

出産費用に関して自民党議連は都内平均60万円を値上げ根拠としていますが、全国平均では50万円。施設分類別では公的病院平均が最も安価で44万円でした。

公的病院・大部屋・普通分娩という条件の場合一時金が余るとも仄聞しており、その場合は差額を受け取り育児費用などに役立てることができます。

正常分娩分の平均的な出産費用について ― 国民健康保険中央会

明確な価格表示で利用者の納得感を

もちろん余力のある世帯であれば出産という人生の一大イベント、多少お金を費やしてもより良い環境を整えたいと思うことも多いでしょう。病室が大部屋よりも個室のほうが落ち着くのは自明です。「無料だけれど選択肢はない」とするより、「差額を払って快適性を高める」選択肢があるほうが納得感につながるのではないでしょうか。

このような差額ベッド代を主として、様々な妊婦向けサービスが上乗せされて出産費用が高くなります。結果的に10万円前後の自己負担であれば許容されるというのが、自然発生的に形成された相場観なのではないでしょうか。

ここで問題になるのは情報の非対称性による不透明な価格にあります。

確かに出産に限らず医療においてはあらゆるトラブルが起こりうるため、緊急的に処置を追加した場合価格が上乗せになるということは起こり得ます。以上から医療機関としては事前に全体の価格を明示できない理由があります。

ただし医院ごとの平均的な費用や、個室を選んだ際の差額ベッド代は、あらかじめわかる情報。出産費用の納得感を増すために、より利用者に分かりやすい公的支払い制度・明確な差額分価格表示が求められています。