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コロナ渦での過剰な苦情! えっ救急車のサイレン音がうるさいだって!?

 最近、救急車のサイレンに関して「うるさい」などという苦情が国内の消防本部に寄せられているという。コロナ禍において在宅時間が増えるなか、いろいろなストレスが重なってのこととも考えられる。

 過剰すぎる苦情にも思えるが、そもそもサイレンの目的や法令による規準は何か? そして、これらの苦情に対して消防関係やメーカーはどう対応しているのか。この時代だからこそ起きているであろう問題に関して考察してみる。

文/高山正寛
写真/Adobestock (トビラ絵=Satoshi@Adobestock)

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■法令で定められており、警告の意味を持つ

 今年2月頃、ひとつのニュースが話題となった。これが今回のテーマである救急車のサイレン問題である。

 ニュースの引用と同時に、東京消防庁が公表している資料によれば、これらは同庁に寄せられた「要望」と「苦情」に該当し、毎年のように増加傾向にある(苦情の増加が顕著)。特にコロナ禍においては冒頭に述べたように在宅勤務が増えたことで遮音性に優れたオフィスとは大きく環境が異なることで別の意味でストレスやフラストレーションを感じていることも理由のひとつだろう。

 また、逆に横浜市のホームページでは、「運転中に救急車のサイレン音が小さすぎて、気がつくのが遅れることで道路を譲れないこともあるので音量を見直して(上げて)欲しい)という要望もあった。

「ピーポー音」は960Hz(ピー音)と770Hz(ポー音)を0.65秒ごと、くり返し発生させることが法律で定められている。音量は「その自動車の前方20mの位置において90db以上120db以下であること」とある(Satoshi@Adobestock)

 これを細かく分析することは専門家でも難しいのだが、そもそも救急車のサイレンの規準などはどうなっているのだろうか。

 サイレンの音量の基準は「道路運送車両法保安基準第49条(細目を定める告示)」の緊急自動車に定められており「その自動車の前方20mの位置において90db以上120db以下であること」と決まっている。音量に関しては幅があるが、いわゆる「ピーポー音」は960Hz(ピー音)と770Hz(ポー音)を0.65秒ごと、つまり1周期で1.3秒をくり返し発生させることも法律で定められているのだ。

 また、音色自体にもビブラート(揺らぎ)を取り入れることでサイレン音としての効果を損なわずに聴感上極力不快にならないような工夫も施されている。

■住宅地への侵入時の苦情が多い

 前述したようにサイレンの音量に関しては法令で定められている。道幅が大きい道路と住宅地とでは当然同じ音量でも感じ方が異なるのは当たり前だ。

 東京消防庁にかぎらず苦情の内容としては「深夜の住宅街ではサイレンを消して欲しい」「サイレンやマイクのアナウンスがうるさい」といったものだが、一定の理解はできても消防側としては事故や急病に対し、一刻も早く搬送や緊急処置などを行う必要がある。

「夜間であっても歩行者や自転車の通行が考えられる。事故防止のためにもサイレンで注意喚起する必要がある」と理解を求めているのが現状だ。

 そのためにメーカーは日々、サイレンや関連する機器の改良に余念がないという。

 国内では圧倒的なシェアを持つ「大阪サイレン製作所」の資料によれば、現在販売されている電子サイレンアンプは時代の要請に合わせて「デジタルアンプの採用」によるサイレン音の効率化のほか、いきなりサイレン音が鳴ることで周辺の人が驚かないように「フェードイン・アウト」機能や小さい音量からサイレンをスタートさせる「弱スタート」機能などを搭載することで、車両周辺への配慮と運用性を向上させている。

 また、サイレンと同時に車両出動時や右左折、さらに後退時などに音声合成によるメッセージを多彩に用意している。

「救急車が通ります。道路を譲ってください」や交差点近くで「救急車が交差点に進入します。ご注意ください」といったメッセージを聞いたことがある人も多いだろうが、発話側の個人差による聞き取りにくさを解消できたり、カスタマイズへの対応を行ったりすることで利便性や効率も向上させている。

■次世代のカーナビにも救急車の情報が表示される

 あくまでも筆者の私見ではあるが、住宅地におけるサイレンの苦情に関しては閉塞感のある昨今ではまだまだ減ることはイメージしにくい。東京消防庁のデータによれば、令和元年に比べ令和2年の段階では救急出場(消防の世界では出動ではなく出場と呼ぶ)は82万5929件から72万965件と減少傾向にある。

 とはいえ、これはあくまでもデータ上のことで、コロナ禍が続くことや高齢化の加速によって気は抜けないことが多くの人が理解しているだろうし、今回の問題はその当事者がどう感じるか、が重要なので単純な件数減少は抜本的な解決にはつながりにくいのだ。

 また、冒頭に触れたようにサイレンを騒音と感じてしまう逆のパターンとしてサイレンが鳴っていることが気づきにくい、という問題も実は重要である。昨今のクルマは遮音性にも優れ、さらにエアコンにより窓を開ける機会は個人差があるとはいえ、かなり減っている。

 一方、今回のテーマであるサイレン音の大きさの規準は昭和26年に定められたものなので、現代のクルマ社会と照らし合わせると法改正も求められる時代に入っているとも言える。

■緊急車両の所在を「見える化」する

 そこで今後、カーナビ(昨今ではインフォテインメントシステム)の地図上に緊急車両の位置情報を表示させようという機能に注目が集まっている。技術としては米国ではベンチャー企業がすでに実用化、日本でもNICT(情報通信研究機構)が2014年頃に救急車のサイレン音自体に位置情報を埋め込むという「電子透かし技術」を応用した技術を発表している。

 この技術は従来までのカーナビのように光ビーコンなどのインフラや特別な電波受信機器を必要とせず、車内に設置された音声認識用やスマホのマイクで音を拾うことで画面上に救急車の位置を表示できるという。

 密閉された昨今のクルマでは聞こえないこともそうだが、サイレンは鳴ってはいるが、どの方向から向かってきているのかが判別しにくい。しかし、カーナビなどの地図画面上に情報が表示されることでそれらの問題は解決され、早めに車両を移動することができる。

最近のクルマは遮音性が高く、窓を閉めているとあまり外の音が聞こえない。車室内のカーナビが緊急車両の存在を教えてくれると、そういったことによる反応遅れを軽減できる(milatas@Adobestock)

 これらの技術はまだ実用には至っていないのが現実だが、昨今のスマホやGoogleマップといった公共性に近いインフラを活用することで開発スピードは加速するはずだ。


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