最近、三菱自動車の人気がグッと増している。アウトランダーPHEVの発売を境に、国内だけでなく海外でも着実に人気を獲得しているようだ。三菱はずっとEVやPHEVを推してきていたから、やっと報われる時が来たともいえる。
ということで、この好調の背景を今回企画で考察する。2022年は三菱自動車リベンジの年だ!?
文/渡辺陽一郎
写真/三菱自動車、ベストカーweb編集部
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■好調、アウトランダー!
三菱の北米における売れゆきが、対前年比で約17%増えた。新型アウトランダーが3万台以上販売され、対前年比も約25%増加したから、北米の三菱車販売を押し上げた。
三菱の場合、2020年における世界生産総数は85万4091台であった。日本の自動車メーカーとしては規模が小さいから、アウトランダーがヒットすると、三菱全体の業績を好転させる効果も生まれる。
そして国内においても三菱は堅調だ。2021年には、大半のメーカーが新型コロナウイルスの影響もあって対前年比を下げたが、三菱は10%以上も伸びた。内訳を見ると、軽自動車は横這いだが、小型/普通車は対前年比が25%以上増加した。
小型/普通車の登録台数を上乗せした効果として、新型アウトランダーが注目されそうだが、納車を伴う発売は2021年12月であった。2021年12月の時点で7000台以上を受注したから、今後は登録が進んでアウトランダーが国内市場を牽引するが、2021年1~12月の登録台数にはほとんど貢献していない。
■実は根強い人気車デリカD:5
それなら2021年における三菱の小型/普通車を盛り上げた車種は何かといえば、デリカD:5であった。2020年12月に実施された一部改良の効果もあり、デリカD:5は2021年に1カ月平均で1233台が登録された。対前年比は133%となる。そして国内で販売された三菱の小型/普通車の内、43%をデリカD:5が占めた。
軽自動車のeKシリーズも堅調で、2021年における届け出台数は、1カ月平均が2840台であった。このうちの約1560台がeKスペース+eKクロススペースで占められ、残りの約1280台はeKワゴン+eKクロスになる。
このように見ると、高価格車であることも含めて、デリカD:5は国内販売を支える重要な柱だ。三菱の国内販売をカテゴリー別に見ると、小型/普通車が44%、軽自動車は56%で、前者ではデリカD:5が主力になる。
■唯一の立場を確立しているという強み
デリカD:5は、なぜこのように安定的に売れ続けるのか。販売店に尋ねると以下のように返答された。
「ミニバンは車種が豊富だが、デリカD:5のデザインと悪路走破力については、似通ったクルマが存在しない。そのためにデリカD:5は、発売されて15年を経過しながら売れゆきが下がらない。高値で売却できることもあり、デリカD:5を何台も乗り継ぐお客様が多い。特に2019年にフロントマスクを大幅に変えて安全装備も充実させたから、販売に一層の弾みが付いた」。
販売店の話にあるとおり、デリカD:5は2007年1月に発売されたから、今では15年を経過する。それでもSUV風の外観、余裕のある最低地上高、ロックモードを備えた4WDなどを備えたミニバンは、デリカD:5だけだ。「ミニバンスタイルのSUV」と認知されている。
さらにデリカD:5は、実用回転域の駆動力が高いクリーンディーゼルターボも搭載する。デリカD:5以外でディーゼルを搭載する国産ミニバンは、グランエースだけだ。
デリカD:5は空間効率も優れ、全長が4800mm以下のミニバンでは、車内が最も広い。特に3列目シートの足元空間は、新型ヴォクシー&ノア、新型ステップワゴン、セレナなどよりもデリカD:5が上回る。
以上のようにデリカD:5は、SUV風の外観と優れた悪路走破力に加えて、クリーンディーゼルターボ、広い室内といった実用面のセールスポイントも多い。これらの特徴が人気を呼び、デリカD:5は、数年後に売却する時の価値も高い。
残価設定ローンの3年後の残価率(新車価格に占める残価の割合)は55%に達する。一般的に3年後の残価率は40~48%で、55%は人気の高いアルファードと同じだ。
■アウトランダーの魅力も三菱自動車ならでは
そして新型になったアウトランダーも、デリカD:5と同様の特徴を備える。外観はダイナミックシールドのデザインで仕上げられ、ヘッドランプは左右に縦方向に配置した。ほかのどのSUVにも似ていない独特の顔立ちだ。
内装も個性的で、ワイドな水平基調に仕上げた。各部の作りも上質だ。新型はPHEV(プラグインハイブリッド)のみで、ノーマルエンジンは用意されないが、3列目シートを備える7人乗りも選択できる。国産SUVのハイブリッドやプラグインハイブリッドで、3列シートを装着するのは、アウトランダーとレクサスRX450hL程度だ。
そしてプラグインハイブリッドの駆動用電池は20kWhと大容量で、充電された電気により85kmを走行できる。ハイブリッドシステムは、基本的には前後に搭載されたモーターによって駆動され、モーターには駆動力を機敏に増減できる特性がある。そのために電子制御により、ブレーキまで含めた4輪の綿密な制御を実現させた。
この効果により、アウトランダーは全高が1700mmを上回って車両重量もすべて2トンを超えるが、走行安定性が優れている。カーブを曲がっている時にアクセルペダルを踏み増しても、旋回軌跡を拡大させにくい。
以上のようにアウトランダーには、ほかのSUVとは異なる特徴が多い。フロントマスクから内装の造り、プラグインハイブリッドと3列シートの組み合わせ、モーター駆動を生かした積極的に攻められる運転感覚など、いずれもアウトランダーならではの魅力だ。
■独自性の表現に成功している
デリカD:5も含めて、今の三菱車は、ほかのメーカーやブランドとは違う独自の路線を歩んでいる。三菱は本来そのようなメーカーだったが、改めて特徴を際立たせるようになった。
そして今のミニバンやSUVにとって、デリカD:5やアウトランダーのような個性はとても大切だ。人気のカテゴリーとあって車種が多く、ミニバンは車内の広さを重視するから外観が似たデザインになりやすい。SUVも今では新車として売られる小型/普通車の約30%を占めるから、特徴を明確に表現しないと埋もれてしまう。
その意味でダイナミックシールドは、古くからSUVを手がけてきた三菱の伝統と技術を上手に表現している。しかも多くのユーザーが見てカッコよく感じられるから、優秀なフロントマスクといえるだろう。
また、今の三菱の軽自動車は、日産と共同開発され、基本部分を共通化している。開発の過程では三菱の思いどおりにならない面も多かったと思うが、eKクロスやeKクロススペースは、軽自動車の厳しい寸法的な制約のなかで、ダイナミックシールドのデザインを自然な見せ方で表現した。
■2022年は三菱リベンジの年になる!
eKクロスやeKクロススペースのデザイナーと開発者は「日産と作業を進めるには、コミュニケーションを図る能力が特に大切」と語る。今のeKシリーズでは、開発は日産が受け持ち、生産は三菱が担当している。この提携のなかで、日産デイズ&ルークスと大半を共通化しながらダイナミックシールドを実現するには、日産との対話が何よりも大切なのだ。
そこまで三菱がダイナミックシールドにこだわる気持ちは、東京オートサロン2022年に出展された電気自動車の「K-EVコンセプトXスタイル」を見てもわかる。電気自動車だから、プラットフォームなどの中身は既存の軽自動車とは異なるが、フロントマスクはあえてeKクロスやeKクロススペースと共通性を持たせた。
これは電気自動車であることより、三菱車であることを優先させたからだ。日産が扱う軽自動車サイズの電気自動車も、V字型グリルを踏襲するが、K-EVコンセプトXスタイルほどブランド表現が濃厚なデザインにはならないだろう。
販売店によると「アウトランダーの納期は約半年」という。今のSUVには納期が1年以上を要する車種も多いから、アウトランダーは購入しやすい部類に入る。2022年はアウトランダーと軽自動車サイズの電気自動車により、三菱が本格的にリベンジする年になるのだと感じさせる。
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