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 日本で中国のクルマを見ることはまだ少ないが、中国に行けば日本車は大人気だ。日本では廃止されたモデルや、人気ではなくなったボディタイプの車も中国では未だ根強い支持を集める。こうした中国での売れ筋である日本車を見ることで、中国独自の自動車文化を紐解くことができる。今回はそんな中国での日本車事情を紹介してみたい。

文、写真/加藤ヒロト(中国車研究家)(メイン写真はB18型日産シルフィ)

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■中国年間販売台数ベスト20車のうち日本車が7台

 一般社団法人 日本自動車販売協会連合会が発表した2021年の乗用車販売台数を通称名別順位で見てみると、上位5車種のうち3車種がヤリス、ルーミー、ノートと5ナンバーサイズのコンパクトカーになっている。もちろん、これは日本特有の道路事情などを総合的に鑑みて、今の日本の消費者層が求めているものを如実に反映しているものと言える。

 では、中国における2021年の乗用車(セダン系+SUV)販売台数ランキングはどうだろうか。

1位/日産 シルフィ…500,160台
2位/上汽通用五菱 宏光 MINIEV…426,484台
3位/フォルクスワーゲン ラヴィダ…393,496台
4位/ハヴァル H6…370,438台
5位/トヨタ カローラ…321,912台
6位/長安 CS75…281,862台
7位/テスラ モデル3…272,972台
8位/ビュイック エクセルGT…263,017台
9位/上汽通用五菱 宏光…255,922台
10位/フォルクスワーゲン ボーラ…248,388台
11位/フォルクスワーゲン サギター…235,607台
12位/吉利 博越…224,895台
13位/トヨタ レビン…222,818台
14位/トヨタ カムリ…216,764台
15位/ホンダ CR-V…213,791台

16位/吉利 帝豪 EC7…209,471台
17位/ホンダ アコード…201,329台
18位/BYD 宋…200,870台
19位/テスラ モデルY…200,131台
20位/トヨタ RAV4…199,675台

 上位20位の中に日本車はセダンを主体に7台がランクインしている。堂々1位は意外に思う人も多いだろうが50万160台が販売された日産シルフィ(軒逸)だ。

 日本では人気の低迷により長い間モデルチェンジされることなく2021年10月に販売を終了したコンパクトセダンだが、中国では毎年50万台前後販売されているランキング上位の常連だ。

2021年に中国市場で最も売れたクルマはなんと日本では生産終了した日産シルフィ(この写真はB17型「シルフィ クラシック(軒逸 経典)」)

 もちろんこの販売台数は最新モデルのB18型に加え、併売されている先代のB17型「シルフィ クラシック(軒逸 経典)」、B17型がベースの純電動モデル「シルフィ ゼロ・エミッション(軒逸 純電)」が合わさった数字だが、それでも人気なのは間違いない。それらに加え、2021年11月にはB18型をベースにした中国初のe-POWERモデル「シルフィ e-POWER(軒逸 電駆版)」も発売されたことにより、今後より一層シルフィの選択肢が増えることとなる。

 売れ筋車種において最新モデルとひとつ前のモデルを併売するのは中国ではよくあることだ。また、単に先代モデルを併売するだけでなく、その先代モデルをPHEVやEVモデルにして販売する手法も増えている。

 カローラ(卡羅拉)と姉妹車のレビン(雷凌)も最新モデルとともに、先代モデルのPHEV版を販売している。ちなみに一汽トヨタのカローラも人気車種で、乗用車全体では5位の32万1912台、セダンでは日産 シルフィ、フォルクスワーゲン ラヴィダに次いでの売れ筋車種である。また、姉妹車の広汽トヨタ レビンは乗用車全体で13位の22万2818台となる。

■合弁会社のルールと「セダン」人気

「一汽トヨタ」や「姉妹車」のワードが登場したので、ここで中国特有の自動車事情「合弁会社」をおさらいしよう。中国は輸入車に対して高い関税をかけており、それを回避するために自動車会社は余程の高級車やハイパフォーマンスモデルじゃない限りは、中国国内での生産を行おうとする。そして中国国外のメーカーが中国で生産設備を持つためには、中国国内のメーカーとの合弁会社を設しなければならないというルールがつい最近まで存在した。

 日本のメーカーで言うと、トヨタは第一汽車との「一汽トヨタ」と広州汽車との「広汽トヨタ」、日産は東風汽車との「東風日産」「東風インフィニティ」「鄭州日産」、ホンダは東風汽車との「東風ホンダ」と広州汽車との「広汽ホンダ」「広汽アキュラ」、三菱は広州汽車との「広汽三菱」、マツダは長安汽車との「長安マツダ」などの合弁会社が存在する。

 この合弁会社を設立しないといけないルールは、テスラの中国進出をきっかけに廃止されていくことになる。テスラは2018年に中国国内の生産を行うために上海に工場を設立したが、現地法人の名前は単に「テスラ(上海)」となっており、中国国内のメーカーと合弁を組んでいないことがわかる。これは2018年に電動車の生産に限り合弁会社の設立が不要となった新しいルールによるもので、その後段階的に2020年に商用車の生産、そして2022年に全ての自動車の生産において規制の撤廃がなされた。

 冒頭で紹介した日産 シルフィも、東風汽車との「東風日産」が生産・販売をおこなっている。中国ではもちろん世界的な流れである「クロスオーバーSUV」も人気で各メーカーともにさまざまなモデルを拡充させているが、それと同時にいまだにセダンへの根強い人気があるのも事実。古き良き乗用車の形状であるセダンに憧れを持つものが多いということの表れなのかもしれない。

 例えばフォルクスワーゲンのラインナップを見ても、上汽フォルクスワーゲンと一汽フォルクスワーゲンの2つの合弁会社を合わせてSUVは13車種、セダンは12車種と、SUVとほぼ同じ数のセダンの選択肢を用意している。

この根本的な中国におけるセダン人気に加え、「性能が良い」「故障が少ない」「経済的である」といった日本車への評価が合わさり、シルフィはここ5年間で乗用車販売台数トップ5の常連となっている。

 また、シルフィ特有の事情で言えば、最新モデルが11万9000元(邦貨換算:約237万4000円)で販売されているのに対し、併売される先代モデルが9万9800元(約199万1000円)と安価なことも人気の大きな要因となっている。

■アルファードは中国でも大人気

 シルフィ以外にも中国で絶大な人気を誇る日本車が、トヨタのアルファードだ。中国では広汽トヨタからアルファード、一汽トヨタからはヴェルファイアが「クラウン ヴェルファイア」として販売されており、両合弁会社のフラッグシップとなっている。アルファードは日本でも幅広い消費者層に人気だが、中国での認識はれっきとした高級車。その一因が価格帯だが、これはアルファードとヴェルファイアが中国国内では生産されておらず、輸入車扱いで15%の関税が課されていることも理由のひとつ。

トヨタアルファードの中国仕様

 中国で販売されているアルファードは、日本でのHYBRID Executive Loungeに相当し、日本では759万9000円から販売されている。一方で、中国では3つのグレードが83万9000元(約1673万7000円)から92万元(約1835万3000円)の間に設定されており、日本の約2.5倍の値段となっている。しかし、実際の販売価格はディーラーが自由に価格を設定できるため、さらに数百万円が上乗せされる場合もある。メーカー希望小売価格で手に入れられる人はほとんどいないと考えていいだろう。

 関税以外でさらに値段を高額にさせる要因の一つが、輸入できる台数だ。アルファードとヴェルファイアはひと月に限られた台数しか輸入できないため、当然正規ディーラーで新車として手に入れるハードルも高くなる。優先的に納車するために前述の上乗せ料金を払うこともできるが、それ以外には新古車を買うという手段がある。

 ここでさらに驚きなのが、新古車の価格も新車の2倍近い価格で売られているという点。中国の中古車サイトを覗いてみると、ナンバープレートが交付されていない新古車が150万元(約3000万円)という超高価格で掲載されているなんてことも当たり前だ。

 また、走行距離5万キロの2019年型ヴェルファイアでも新車価格より高い93万8000元(約1854万2000円)で販売されている。いかにこの2車種のリセールバリューが半端ではない状況となっているのかがわかる。人気に火がつく元々のきっかけは香港の映画スターなどがみんなアルファードで移動していることからとも言われているが、ここまでの「狂気」とも言えるほどの人気を集めることになるとはその当時、誰も予想しなかっただろう。

 一概に「日本車が人気」と言っても、人気の車種を詳しく見てみると、それぞれ人気の理由や、取り巻く状況も千差万別なのが見えてくる。よく「EVでは出遅れているから中国では影響力が弱い」と言われがちな日本車だが、決してそうではない。トヨタが満を持して世に送り出すEVブランド「bZシリーズ」も、中国向けモデルは中国国内での生産が決定している。日本勢のEVが出揃う今後、市場と消費者にどのような影響を与えていくかが楽しみだ。

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