かつて、多くの日本車メーカーが競い合うように「ステーションワゴン」のカテゴリーでニューモデルを登場させていた時期がある。
そのきっかけでもあり、台風の目となったのがスバルレガシィツーリングワゴンであることは間違いないだろう。
レガシィツーリングワゴンの歴代のモデルのなかで、特に人気が高かったのは2代目のBG型ではないだろうか。
今回、ステーションワゴンの栄枯盛衰を振り返ってみたい。あくまでも「また盛りあがって欲しい」という願いを込めつつ・・・。
文/松村透
写真/トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱、メルセデスベンツ、ボルボ
■レガシィツーリングワゴンが登場するまで、ワゴンはマイナーな存在だった
セダンが日本車の王道だった時代、ワゴン(バン)はどちらかというとマイナーな存在であり、街中で見掛ける機会も少なかった。お洒落な実用車というよりも商用車のイメージが強かったかもしれない。
そこへ新たな風を吹き込んだのが、1989年にデビューしたスバルレガシィツーリングワゴンだ。スタイリッシュな外観、ハイパワーなエンジン、ステーションワゴンという新しいカテゴリーの誕生だ。
流行に敏感な若い世代のクルマ好きがこれに飛びついた。RVブームだ。夏は海やキャンプ、冬はスキーなどのウインタースポーツを目指す「リゾートエクスプレス」として確固たる地位を確立した。
■2代目レガシィツーリングワゴンでステーションワゴンブームはピークに
その後、1993年にデビューした2代目レガシィツーリングワゴン(BG型)の人気はすさまじいものがあった。
なかでも上級グレードにあたる「GT」に搭載されたEJ20G型エンジンは、水平対向4気筒DOHCシーケンシャルツインターボはボクサーエンジン特有の音を発した。
さらに、社外品のマフラーに交換することでこの音色がより強調された。この音は「ボクサーサウンド」と呼ばれ、スバリスト以外のクルマ好きをも魅了したのだ。
しかし、この特徴的なボクサーサウンドは、モデルチェンジを重ねるたびに音量が抑えられるようになり、当時のスバリストたちは複雑な心境を抱いたようだ。
■輸入車でもメルセデス・ベンツEクラスワゴンやボルボエステートも人気に
当時、国産ステーションワゴンとして頂点に君臨していたレガシィツーリングワゴンだが、それを上回る存在がいたことを忘れてはならない。
メルセデスベンツEクラス(ミディアムクラス)ステーションワゴンや、ボルボエステートといった輸入車勢だ。
レガシィツーリングワゴンが全盛期の頃は、メルセデス・ベンツSクラスやセルシオといった高級車は「最上級モデルが売れた」時代でもある。
当時を知る人であれば、より豪華かつステータスの高い、いわば「威張れる」「見栄が張れる」クルマがエライとされたことを覚えているだろう。
そのため、ステーションワゴンにもヒエラルキーが存在したことはいうまでもない。
メルセデスベンツEクラス(ミディアムクラス)ステーションワゴンを筆頭に、ボルボ960や850系のエステートが続き、その次にレガシィツーリングワゴンといった具合だ。
メルセデスベンツAクラスや、ボルボV40といったエントリーモデルがデビューするのは90年代末のことだ。
当時は日本国内における輸入車のシェアは5%台で推移していた時代。現在は9.3%(2021年11月現在/JAIA調べ)であることを考えると、今以上に少数派だったことが分かる。
■国産メーカーも相次いでレガシィツーリングワゴンのライバル車を発売
高級車でもスポーツカー&クーペでもない「ステーションワゴン」という新たなカテゴリーが確立したことを、他の日本車のメーカーが見逃すはずはない。
レガシィツーリングワゴンがデビューしたあと、各自動車メーカーからこれだけのステーションワゴンに位置付けられるモデルが誕生した。実際にどれくらいあったのか? 発売されたモデルを50音順にピックアップしてみた(バンを除く)。
懐かしいモデルや、すっかりその存在を忘れてしまっていたモデルもあるだろう。いまでは街中で見掛ける機会も減り、その多くがひっそりと姿を消していったのは寂しい限りだ。
トヨタ:アベンシスワゴン、アルテッツァジータ、カムリグラシアワゴン、カルディナ、カローラワゴン、カローラフィールダー、クラウンエステート、クラウンワゴン、グラシア、セプターワゴン、スプリンターワゴン、スプリンターカリブ、プリウスα、ビスタアルデオ、マークIIクオリス、マークIIグラシア、マークIIブリッド
日産:アベニールサリュー、ウイングロード、ステージア、セフィーロワゴン、パルサーセリエS-RV、プリメーラワゴン、プリメーラカミノワゴン、マーチBOX、ルキノS-RV
ホンダ:アヴァンシア、アコードツアラー、アコードワゴン、エアウェイブ、オルティア、シビックシャトル、ストリーム、フィットシャトル
マツダ:アテンザスポーツワゴン、アテンザワゴン、カペラワゴン、ファミリアSワゴン、マツダ6ワゴン
三菱:ディアマンテワゴン、ランサーエボリューションワゴン、ランサーセディアワゴン、ランサーワゴン、リベロ、リベロカーゴワゴン、レグナム
スバル:インプレッサスポーツワゴン、インプレッサスポーツワゴンSTI、レヴォーグ
スズキ:カルタスワゴン、カルタスクレセントワゴン
ダイハツ:メビウス
光岡自動車:ヌエラ6-02ワゴン、リョーガワゴン、リューギワゴン
■やがてユーザーのニーズもステーションワゴンからミニバン、SUVへ・・・
1994年に初代オデッセイがデビューした直後、90年代半ばあたりから少しずつミニバンの勢いが増していった。
車高や全高があるミニバンはステーションワゴンのようにスタイリッシュではないが、室内が広く、快適で、荷物を積むスペースも広々としていた。
室内のウォークスルー機能やさまざまシートアレンジなど、ひと言でいうならステーションワゴンよりもミニバンの方が「圧倒的に使い勝手がいい」のだ。
これにスライドドア、さらに両側電動スライドドアを装備したミニバンであれば、ファミリー層のとってこれほど便利なクルマはない。
こうして、かつてのステーションワゴンと同様に、それまではどちらかというとニッチなクルマだったはずのバンが「ミニバン」というポジションを確立していった。そして急速にそのシェアを伸ばしていったのだ。
その一方で、ミニバンでは所帯じみているし、野暮ったいと感じるユーザーがいたことも事実だ。
ミニバンのような快適性と実用性、そしてステーションワゴンのようなスタイリッシュな外観。トヨタハリアーに端を発する、これらを組み合わせたいいとこ取りの「SUV」が勢いをつけはじめた。
スタイリッシュな外観を持つSUVは若い世代のクルマ好きにも受け入れられ、ファミリー層だけでなく独身のユーザーが所有するケースも珍しくなくなった。
■まとめ:日本におけるステーションワゴンの未来とは?
いまや、ステーションワゴンとして新車で購入できる日本車はトヨタカローラツーリング、マツダ6ワゴン、スバルレヴォーグ、スバルインプレッサスポーツの4車種しかない。
むしろ、輸入車の方が選択肢は豊富だ。特にドイツ車はメルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンをはじめ、いまやポルシェにもステーションワゴンが存在する。しかし、バブル期と変わらず、輸入車はどれも総じて高価だ。
たとえばDINKs(結婚していて子どもがいない夫婦)や単身者であれば、多くの場合、ミニバンは不要だろう。
また、子どもがいる世帯でも、住まいの駐車場が立体式であれば、SUVだと止められないケースも少なくない。いざとなればセカンドシートを倒して広大な荷室に早変わりだ。
ミニバンでもSUVでもない、ましてやセダンでもない。ステーションワゴンに乗りたいんだ!!というユーザーが少なからず存在する。
これから先、かつてのステーションワゴンブームのような勢いはもう難しいかもしれないが、何とかこの「ステーションワゴン」というカテゴリーの火が消えることのないよう、切に願うばかりだ。
【画像ギャラリー】1990年代に圧倒的人気を誇ったステーションワゴンブームの栄枯盛衰 今どうなった?(15枚)画像ギャラリー投稿 1990年代に圧倒的人気を誇ったステーションワゴンブームの栄枯盛衰 今どうなった? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。