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水冷ハーレーはぶっちゃけ期待外れ? 魅力ナシ? 新型「ナイトスター」試乗記

 ハーレーダビッドソンと言えば、例外があれど空冷にこだわってきたメーカーだ。しかし、ハーレーの軽快モデルであるスポーツスターがついに水冷化。その第2弾にして正統後継と言える「ナイトスター」が5月から販売開始された。

 空冷スポスタの乗車経験豊富なライターがさっそく試乗を敢行。一体どんなジャッジを下すのか?

文/沼尾宏明、写真/HARLEY-DAVIDSON

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空冷スポスタ64年の歴史に幕を降ろし、水冷を選択したハーレー

 1903年に創業し、今やアメリカを象徴するブランドの一つでもあるハーレーダビッドソン。その魅力とは何か? 「鉄馬」とよく称されるように、独特な鼓動感を有し、ズシリと重い昔ながらのバイク、と筆者は考える。

 魅力の源泉となっているのが、プッシュロッドを持つOHV2バルブ空冷Vツインだ。時代ごとに大幅なメスを入れてきたとはいえ、1936年のナックルヘッド以来、ハーレーはこのエンジン型式を頑なに守ってきた。ドロドロとしたロースピードでの心地良い振動とサウンド、そして重い鉄のカタマリを手応えとともに操る感覚は、シンプルな「昔のバイクらしさ」にあふれ、ハーレーならではの持ち味と言える。

 しかし事件が起きた。ラインナップの中でスポーツモデルとして位置付けられる「スポーツスター」が2021年末、国内での生産を終了。空来スポスタ64年の歴史に幕を降ろし、水冷にバトンタッチしたのだ。

 こうして2022年1月に第1弾のスポーツスターSが発売。第2弾が今回試乗したナイトスターだ。スポスタSが「レボリューションマックス1250T」と呼ばれる1252cc60度Vツインを搭載するのに対し、ナイトスターは初の975ccVツインを採用。従来の空冷スポスタシリーズは1200と883の2本立てだったが、新世代の水冷でも同様に選択肢が用意されたのだ。

 ナイトスターは、伝統のスタイルを再現しているのも特色。先に登場したスポスタSは、角眼ヘッドライトにアップマフラーとファットタイヤを備えた未来的スタイルだったが、ナイトスターは丸眼にダウンマフラー、前輪100/90-19&後輪150/80B16という正統派フォルムとタイヤを備える。

いかにも正統派スポーツスターの装いを与えられたナイトスター。車体色は赤、黒、グレーの3色。188万8700~191万9500円

数値はショートストローク、高回転まで回るスポーティな乗り味を予想した

 乗る前の予想では、ハーレーらしからぬ「ヒュンヒュン回る軽快なスポーツバイク」を予想していた。空冷時代の883ccは、ボア76.2×ストローク96.8mmとかなりのロングストローク設定だったのに対し、ナイトスターの水冷はボア97×66mmという極端なショートストローク。高回転までスムーズに回る特性と予想したのだ。また、車重もスタンダードなアイアン883より35kgも軽い221kgにまで軽量化されている。

 実車を取り回してみると、やはり軽い。空冷時代は883でもズッシリ重かったが、スイスイ押し歩きできる。1250ccのスポスタSと軸間距離はほぼ同じなのに車体もコンパクトな印象だ。あの鉄馬の面影はほとんど感じられない。

ライダーは177cm&66kg。フラット気味のハンドルはやや遠く、軽く上体が前傾する。ステップは自然な位置にあり、違和感なし。ヒザと足首で車体をしっかりホールドできる

パワフルながら扱いやすく、低速ではあのテイストも残っている

 いざ走り出すと、空冷に比べて振動やサウンドが大人しい。とはいえ、同排気量帯の中ではかなり味がある部類だ。

 3種類の走行モードというシンプルな空冷時代ではありえない電子デバイスを備えており、最も力強い「パワー」を選んだ。すると極低速では適度なトルクがあり、扱いやすい。2~3速の守備範囲も広く、せわしなくギヤチェンジする必要がないのもラクだ。しかし3800rpm程度にさしかかると、グワッとパワーが盛り上がり、6000rpmまで一気に吹け上がる。

 この領域はかなりパワフルだ。ただしスポスタSほどの暴力的な加速ではなく、手の内に辛うじて収まる。また、ややガサゴソした感覚があり、いわゆる高回転エンジンとも少し違う。例えばレブル1100の270度クランク並列ツインは高回転までシャープに吹け上がるが、もっと重々しい。

 そして6速100km/hでは3200回転程度と余裕たっぷり。6速はオーバードライブ的な印象だった。

 一方、3速2000回転あたりで街を流すと、フライホイールが回っているドロドロしたフィーリングがあり、マッタリ走りに意外な味がある。この領域では、回さない方が楽しい空冷スポスタの面影が感じられた。こうした二面性はナイトスターの面白さだろう。

 なお、中間の「ロード」モードでは、4000rpm前後の盛り上がりが抑えられ、「レイン」ではスロットルに対する反応もマイルドになる。気分や状況に応じて、特性を変更できるのがまさに現代的だ。

エンジンはスムーズに回り、極低速では扱いやすい。3800rpm程度からパワー炸裂。この加速が6000rpm程度まで続く

軽さと接地感を両立し、安心してコーナリングできる

 ハンドリングも空冷スポスタと大きく異なる。
 
 空冷時代は倒し込みこそ軽いものの、ズッシリとした重さを感じながら鉄のカタマリを曲げていく感覚。ただし飛ばすとフロントの接地感が希薄になりがちだった。

 しかしナイトスターは、かなり「普通のバイク」に近い。やや前傾するライポジもあり、前後ともしっかり接地感がある。リヤから向きを変えていくのは空冷と同じだが、体重移動などのアクションに対して従順に曲がっていく。燃料タンクをシート下に設定したことにより重心が低く、倒し込みやバンク中も安定感が高いのが特徴だ。

 鉄のカタマリ感は明らかに薄らいだが、それでも大型バイクを操っている感覚はやはりある。

 サスはややソフトな設定で乗り心地は優秀。バンク角も首都高や街中を走った程度では不足がなく、空冷時代のようにステップがすぐ接地することがない。神経質ではないエンジンの低回転域も相まって、Uターンもしやすかった。

 ネイキッド並みに曲がるレブル1100ほど軽やかなハンドリングではないものの、旧型と比べてスポーティに操る楽しみが増えた。個人的には、このエンジンでネイキッドが欲しいと思う。

 試乗時間は限られており、都内の下道と首都高を2時間ほど走った。街乗りの時間が長かったせいか、肩と背中が結構パンパンになった。小一時間ほど流したり、高速メインなら問題ないだろうが、オッサン(筆者は50歳)にロングランはややしんどいかもしれない(ちなみに純正オプションで手前に引いたプルバックハンドルも用意されている)。

空冷時代と違い、前後輪に接地感があり、安心して曲がれる。空冷時代より軽やかなハンドリングながら、大型バイクを操っている手応えはしっかり味わえる

筆者はやはり空冷派。それでも走りの面で確実にハードルが下がった!

 試乗の最中、撮影に同行したビッグツイン空冷1868ccを搭載するロードキングの排気音を聞きながら、ナイトスターには申し訳ないけれども正直「やっぱりコッチだよな」と思ってしまった。

 しかし事前に予想した「水冷スポーツバイク」を裏切って、ハーレーらしさが想像以上に残っていたのは確か(そういう意味では期待外れだった)。重くてドコドコした空冷の鉄馬とはまるで違うけど、伝統の味は薄口になりながら継承されている。これは空冷を愛するハーレーファンも一度体験してほしいところ。それでも満足できなければ、より大排気量の空冷ビッグツインもまだラインナップされている。

 ちなみにナイトスターの価格帯では、「クルーザー」カテゴリーに属するソフテイルスタンダード(空冷1746cc 187万円)も選択肢に入ってくる。買いやすい価格も魅力だった空冷スポスタと違い、大排気量で高額だったソフテイルの方が安いという逆転現象が起きているのだ。ただしソフテイルはナイトスターのような電子制御がなく、車重も300kgに迫る。それは昔ながらのハーレーファンにとってむしろ欠点ではなく、ラインナップに空冷が残されているのはありがたいことだ。

 いずれにせよ、現代的な走りを手に入れた新世代スポーツスターが、扱いやすさの面でハードルを下げたのは間違いない。空冷時代より確実に多くのライダーに受け入れられることだろう。できればもう少し安くしてほしかったというのが本音ではあるが……。

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