もっと詳しく

 最近はスペアタイヤを搭載しない乗用車が増えて来ましたが、それはトラックも同じです。

 耐荷重などからテンパー(一時)タイヤが使えない大型車は、装着タイヤと同サイズの100kg近いスペアタイヤを「スペアキャリア」で巻き上げています。岡山県で2人が亡くなったスペアタイヤ脱落事故は、スペアキャリアが錆で破断したことが原因でした。

 事故を受けて大型車の点検基準などの法改正が行なわれました。現役タイヤマンのハマダユキオさんが、スペアタイヤの脱落防止と、上手な活用・点検方法を解説します。

文・写真/ハマダユキオ


スペアタイヤの無いトラックも増えてきた

 最近の乗用車にはパンク修理キット等の搭載でスペアタイヤが無い車両も多くリリースされております。

 ご存知の方も多いと思いますが、スペアタイヤを搭載しない理由は、室内空間の確保、道路状況が良くなってパンクする頻度が下がっている、スペアタイヤを一度も使用せずに破棄される事が多い、緊急時のロードサービスの充実、等が挙げられます。

 乗用車ですと小さくて細いテンポラリータイヤ(テンパータイヤ)なら、トランクや荷室のスペース確保で充分賄えそうですが、トラックやバスでは耐過重的に厳しいそうです。

 そこでトラック・バスではスペアタイヤを搭載している車両に関しては同サイズ、或いは装着サイズに近いサイズを搭載しております。

 搭載している車両と書きましたが、最近は車両側の装備が増え、搭載スペースのない場合はスペアが無い車両もチラホラ見かけます。スペア搭載に関しては法律上の縛りは無く、スペアタイヤ無しでも登録・車検はOKです。

トラック用のスペアタイヤ

 ただし、スペアタイヤを搭載してる車両は車検・点検時に様々な点検項目があります。

 まずスペアタイヤのタイヤサイズは車両に装着してるサイズを搭載するのですが、車両によってはフロントとリアのサイズが違う場合がございますね。

 例えば、トラクタヘッドでフロントが295/80R22.5、リアが275/80R22.5または11R22.5の組み合わせがあります。この場合のスペアタイヤ搭載サイズは295/80R22.5になります。

 本来ならばフロントとリアの両サイズを搭載するのが安心ではありますが、やはり搭載スペースが無いという事と、ダブルタイヤのリアは4本或いは8本あり、1本がダメだとしても残り3~7本で安全な場所や近くのタイヤ屋まで移動してのリカバリーが可能です。

 しかしフロントではそれが無理な場合もあります。左右1本ずつでフロント回りを支えてる為、早急に対処する必要があり、たとえスペア交換が可能だとしてもリア用の少し小さいサイズのタイヤでは過重不足やサイズ違いの外径差による影響が出ます。

 このためトラックのスペアタイヤにはフロント装着サイズを搭載しているのです。なので、出先でのパンク等でやむなくリアにフロントサイズのスペアタイヤを装着した場合は、速やかに正規サイズへの換装をお願いします。

 リア4本中一本がフロント用で外径の差がある場合は、走行中にダブルタイヤの片方しか接地できず過重オーバーになる可能性が高く、最悪の場合、正常なタイヤまで故障しかねませんので、あくまでも応急措置という事でお願いします。

事故を受けて法改正が行なわれました

 大型車のスペアタイヤに関して、2018年に道路運送車両法も一部改正されました。以下改正の概要です。

(1)自動車点検基準の一部改正(事業用自動車等の定期点検の基準を定める別表第3及び別表第4の改正)

車両総重量8トン以上、又は乗車定員30人以上の大型自動車の3ヶ月ごとに行う点検項目に次に掲げることを追加します。

●スペアタイヤ取付装置の緩み、がた及び損傷
●スペアタイヤの取付状態
●ツールボックスの取付部の緩み及び損傷

(2)自動車の点検及び整備に関する手引(平成19年国土交通省告示第317号)の一部改正

(1)により追加する点検の方法として、次に掲げることを定めます。

●スペアタイヤ取付装置に緩み、がた及び損傷がないかをスパナ、目視、手で揺するなどして点検すること
●スペアタイヤが傾きや緩みなく確実に取り付けられているかを目視、強く押すなどして点検すること
●ツールボックスの取付部に緩み及び損傷がないかをスパナ、目視などにより点検すること

 この改正は数年前に起きた岡山県でのスペアタイヤ脱落による死亡事故がきっかけとなったものです。

 トラック・バスのスペアタイヤは車両装着サイズと同サイズであるため、サイズにもよりますが約60kg~100kg近くになります。この重量物を人力で格納・収納するのは困難なため、「スペアキャリア」というホイールのセンターの穴にはめ込み、チェーンで巻き上げる装置があります。

 叡智を結集して作り上げたこの装置は、人力でもギア比の関係でスムーズかつ軽労(条件によります)でたいへん便利なモノですが、使用条件の厳しい環境であるため、スペアキャリア本体、歯車、チェーン、スペアタイヤのホイールなどに錆びやそれに伴う固着・腐食等が発生しやすくなっています。

 使用頻度も低いため放置しがちですが、岡山の事故の原因も巻き上げるチェーンの錆びによる破断なので、やはり定期的な点検が必要となります。

死亡事故も!? 大型車のスペアタイヤ脱落防止と上手な活用方法
スペアキャリアで巻き上げられたトラックのスペアタイヤ

スペアタイヤの活用方法

 スペアタイヤを使う状況が無いというのは、トラックの運行を考えれば素晴らしい事なんですが、新品・未使用のまま使用期限を迎えて破棄、或いは劣化によって交換するのではもったいない気がします。

 スペアタイヤの活用方法として次のようなものがあります。

●新車の時の新品スペアタイヤは、一回目のタイヤ交換時にトレッドパターンが同じであればスペアタイヤを絡めて交換する

●タイヤ交換時にスペアとしては充分使えそうなタイヤと新品スペアタイヤを交換して一時ストックしておき、偶数本や纏まった本数になったらタイヤ交換対象車両に廻す

●単純にタイヤ交換時にはスペアタイヤを含めて定期的に入れ替えをする。作業は増えるが、定期的にスペアキャリア本体を使用する事により固着防止や点検にもなる

 スペアタイヤの脱落防止と、本当にいざという時にスムーズなスペア脱着ができるように、スペアタイヤの上手な活用・点検をお願い致します。

投稿 整備不良は死亡事故に直結!! 大型車のスペアタイヤ脱落防止と上手な活用方法自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。