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CX-3/5/8だけじゃダメ? マツダはなぜ似通ったSUVをラインナップしまくるのか?

 2022年3月9日に欧州マツダが発表した、2列シートの新型ミッドサイズSUV「CX-60」。国内向けも4月25日から先行予約が始まっており、発売開始は今秋の予定だ。

 マツダは数字二桁のCXシリーズで表されるSUVを、CX-60含め5車種、2023年までに導入予定としている。たしかに魅力的なモデルも揃えているように思えるし、実際に魅力的モデルがあるのも事実だ。

 しかしながら、一見するとどれも同じような車格のSUVであり、マツダのとって、そして消費者にとって「本当に全部必要なのか?」と疑問に思う。なぜマツダは似たようなSUVをラインアップしまくっているのだろうか。

文/吉川賢一、写真/MAZDA

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■すでに半数がSUVという現実

マツダのラインナップの約半数をSUVが占める。車に興味がない人が見るとかなり判別が難しい

 はじめに、マツダがグローバルの主要4市場でどういったラインアップを持っているのか、確認しておこう。

・日本市場
SUV:CX-3、CX-30、MX-30、MX-30EV、CX-5、CX-8、
その他:マツダ2、マツダ3(セダン、ハッチ)、マツダ6(セダン、ワゴン)、ロードスター、ロードスターRF

・欧州市場
SUV:CX-30、MX-30、CX-5
その他:マツダ2、マツダ2ハイブリッド(ヤリスハイブリッドのOEM)、マツダ3(ハッチ)、マツダ6、MX-5

・北米市場
SUV:CX-30、CX-30EV、CX-5、★CX-50(2022年3月発売開始)、CX-9
その他:マツダ3(セダン)、マツダ3(ハッチ)、マツダ6、MX-5、MX-5 RF

・中国市場
SUV:CX-30、CX-30EV、CX-4、CX-5、CX-8
その他:MX-5(ロードスターRF)、マツダ3(セダン)、マツダ6

 日本市場をはじめとして、現時点でも約半数がSUVのラインアップとなっているが、ここへさらに、新型SUVが5車種追加となる。

 具体的には、米国マツダの新工場で生産する「CX-50」をはじめとして、2022年から2023年にかけて、「CX-60」、「CX-70」、「CX-80」、「CX-90」を日本、北米、欧州地域に導入する計画だ。

 日本、ヨーロッパ向けには、標準ボディサイズのCX-60とCX-80(3列シート)、北米と中国向けには、ワイドボディのCX-70とCX-90(3列シート)だ。なお、CX-50はスモール商品群と分類されるが、それ以外の4車種はラージ商品群であり、後者こそがマツダの本命となる。

 マツダは、「企業存続には、「人と共に創る」マツダの独自価値が必須であり、成長投資を効率化しながら維持するとともに、CASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)への対応を、協業強化と独自価値への投資で進めていく」としている。

 そのための足場固めとして、「CX-60」、「CX-70」、「CX-80」、「CX-90」のラージ群商品について、「エンジン縦置きアーキテクチャーの開発」「直列6気筒エンジン(ガソリン/ディーゼル/X)とAWD」「プラグインハイブリッドと48Vマイルドハイブリッドによる電動化」を進めていく、としている。

 国内向けのCX-60には、エンジン縦置きの2.5L直4ガソリン+モーターのプラグインハイブリッド「e-SKYACTIV PHEV」をはじめとして、3.0L直6ディーゼル、ディーゼル+48Vマイルドハイブリッド、2.5L直4ガソリンがあるが、欧州仕様では、PHEVのみとなる。

 ラージ商品群には期待されていたストロングハイブリッドの電動モデルは現時点ないが、スモール商品群では、バッテリーEV(MX-30 EVモデルなど)の他にも、ロータリーエンジンを発電用としたハイブリッドを開発中だ。

 ストロングハイブリッドユニットは、今後、どのモデルに搭載されていくのかは未定だが、おそらく、販売主力のCX-5、CX-30、マツダ3などから搭載が始まるだろう。

■マツダはラージ群商品4車種で独自価値を進化させる

マツダは、直6エンジンやPHEV、マイルドハイブリッド、ロータリーエンジン発電技術などを「PHASE2」のマルチソリューションアーキテクチャーとしている。そして2025年以降、さらに「PHASE3」のEV専用アーキテクチャーを追加する戦略(2021年11月決算発表時の資料)

 ただ、現在ラインアップにあるCX-5と、これから登場するCX-50やCX-60とは、デザインも一貫性があり、大きさもさほど変わらない。クルマにあまり興味がない方にとっては、ほとんど同じクルマに見えるだろう。なぜマツダは、似たようなSUVでラインアップを拡充しようとしているのか。

 ラインアップ拡充は、王道の販売戦略だ。店舗やインターネット上で顧客が見たクルマに気がかりな点があった場合、すぐ横にある別のクルマと比べることができるため、他メーカーへ流れていくことをある程度防ぐことができる。

 既存のマツダ車オーナーに向けても、最新装備となった別のクルマが、新たな候補にあがりやすくもなる。規模の小さなマツダにとって、既存顧客が離脱することはもっとも恐ろしいこと。

 マツダ車販売店(若しくはホームページ)からの離脱を防ぎ、顧客をつなぎとめたい、というのがマツダの目的であり、食い合いを許してでも、ラインアップの拡充を図る、という考えなのだろう。トヨタが展開している「隙間が一切ないフルラインアップ」戦略と同様だ。

 そして、マツダの製造工場のしくみにも理由がある。マツダ車のメイン生産拠点は、広島県の本社工場(宇品第1、宇品第2)と三次事業所(エンジン製造)、山口県の防府工場の2カ所で、年間おおよそ100万台規模の車両製造をおこなっており、そのうち約5分の4が海外へ輸出されている。

 複数車種を同一ラインで組み立てる混流ラインとなっているため、車型が大きく異ならなければ、いろんな車種を効率的に製造する仕組みが整っている。

 また、ボディの基本骨格は同じとして、ホイールベースを少し伸ばして3列シートにしたり、トレッドを広げてボディ拡幅したり、といった小さな差別化であれば、開発車2台を並べて、走りの味付けを作り分けたりと、車両開発を同時進行しやすく、時間短縮(開発コスト削減も)にもなる。

 つまり、効率的に(小さな違いであっても)別のクルマとしてつくるしくみが整っているマツダにとって、似たようなクルマでラインアップを拡充することとは、販売を増やすためにもっとも効率的な方法であり、あえて新型車で用意することで「独自価値」を強めた商品として、差別化を図ろうとしているのだろう。

■「独自価値」の構築には忍耐力が必要か

CX-60に搭載される直6ディーゼルとマイルドハイブリッドを組み合わせたe-SKYACTIV D

 ここ10年のマツダ車のデザインや技術力は、誰もが認めるところだ。

 しかし、ラージ群商品4車種の目玉アイテムである「縦置きレイアウトの直6エンジン」は、すでにメルセデスやBMWといった欧州車メーカーが、何十年も前から行ってきた戦略である。

 そしてそうしたブランドに突如食い込める程、現在のマツダのブランドはまだ昇華していない。レクサスやトヨタであっても実現できていないハードルの高さだ。

 そのためマツダには「足場固め」として、2世代、3世代にわたりつくり続ける体力と、成功するまで諦めない忍耐力が重要だ。

 仮に、直6搭載の新型車が売れなくとも、1世代で諦めず、次モデルに向けて改善し、顧客へと訴え続ける「心意気」が、信頼関係を築きあげ、そしてそれがブランドをつくりあげる、ということに繋がる。

 1世代で「味見」したくらいで辞めてしまう程度の覚悟であれば、バッテリーEVへと戦略を全力で転換する方がよっぽどいい。

■まとめ

 以前マツダのエンジニアの方とお話しさせていただいた際、「限りあるリソースと、限りある人員で、いかに効率的に開発を行うのかは、マツダが永遠に背負っている課題だ」と話してくださった。

 企業規模は小さいマツダが、これだけの商品ラインアップを展開することは、企業努力の賜物だ。しかしながら、予想される懸念も山盛り。今後の戦略の成否はマツダの心意気にかかっている。

 ひとまずマツダは、「直6エンジンと縦置きプラットフォーム」で、世間の関心を集めることに成功した。

 だが、今のタイミングでマツダが見せるべきだったのは、マツダが「PHASE3」と呼ぶ、バッテリーEVを主体とした電動化戦略のほうだったのでは!?? という気がしてならない。それらの商品概要が見えてこそ、マツダの将来戦略が定まる。引き続き、マツダの動向に注目していきたい。

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