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さよならフーガ…歴代セドリック/グロリアの系譜と日産高級セダンの功績

 日産「シーマ」と「フーガ」が今夏、生産終了することが報じられた。「シーマ現象」という言葉まで生まれたほど、かつては人気のあったシーマ。またフーガは、名車セドリック/グロリアの系譜を継ぐ名門中の名門のクルマだ。

 セドリック/グロリアをはじめとして、ブルーバードやプリメーラなど、セダンに名車の多い日産だが、シーマとフーガの生産終了により、国内日産のセダンは、スカイラインのみとなる。

 シーマとフーガの生産終了に際し、セドリック/グロリアからつづく、日産高級セダンの功績を振り返ろう。

文:吉川賢一
写真:NISSAN

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伝統を受け継ぎながらも、常に最先端を歩んできた「セドグロ」

 日産の高級セダンとして一時代を築いた「セドリック」と「グロリア」。プリンス自動車が1959年から販売していた「グロリア」と、日産が1960年から販売していた「セドリック」が、両社の合併により姉妹車となったのは、グロリア4代目/セドリック3代目となる1971年に発売された230系からのこと。プリンス グロリアは、上皇陛下が皇太子時代に愛車とされていたことでも有名だ。

 「セドグロ」の愛称で親しまれた両モデルは、伝統的な後輪駆動のパーソナルセダンとして、流行のスタイリングや最新の装備を取り入れつつ、以降30年以上にわたって、ライバルのクラウンとしのぎを削ってきた。歴代モデルには、日本初や世界初となる技術/装備がいくつも搭載され、「技術の日産」を印象付けてきたモデルでもあった。

伝統と革新を見事に融合させてみせた、初代フーガ

 その伝統的を引き継いだのが、2004年10月に誕生した初代フーガ(Y50型)だ。2001年に登場したV35型スカイラインと同じく、フロントミッドシップにエンジンを縦置き配置する「フロントミッドシップパッケージ」(FMパッケージ)を採用したFR-Lプラットフォームと、53:47の理想的な前後重量配分をもつドライバーズセダンとして登場。当時のBMW5シリーズを開発のターゲットにしており、高い走行性能や快適性で、登場当時から非常に完成度の高いモデルであった。

 このY50フーガは、北米インフィニティの若者向けの高級ラージFRセダン「M(2014年にQ70と名称変更)」とモデル共用となっていたことで、若々しくスポーティなデザインが採用されていた。Y50フーガの開発の最終段階のころ、日産に入社したばかりの筆者は、日産のテストコース内で走るY50の偽装車両を見かけたが、非常にカッコ良いスタイリングに惚れ惚れしたことを覚えている。

 いまでこそ、高級車には20インチタイヤが当たり前となっているが、2004年当時は、高級セダンに19インチのタイヤホイールを装着した事例は珍しく、この初代フーガを皮切りとして、他の高級車メーカーも追従していった。2004年頃といえばすでにSUV人気も上昇し、ハリアーが高級車として認められるようになった時代であったが、そんな時代でも、初代フーガは十分な存在感と魅力を放っていた。

2004年に登場した、初代Y50フーガ。333馬力を発生する4.5L V型8気筒エンジンの450GTは、燃費は悪かったがパフォーマンスは高かった

高い実力を世界にみせつけた、現行2代目フーガ

 2代目フーガ(Y51型)は2009年11月に登場。初代のスポーティ路線を継承しつつ、筋肉質なボディラインに生まれ変わった。インテリアは大きくうねりのある、曲面を多用したダッシュボードパネルやドアトリムが特長で、木目調もしくは本木目のフィニッシャー、鈍い金属調の輝きを放つ仕上げなど、高級車の王道を行く高い質感だった。

 2010年11月には「フーガ HYBRID」を追加。北米市場向けのインフィニティ 「M Hybrid」は、0-400m加速で13秒903という記録を樹立し、「世界最速の市販ハイブリッド」として、当時のギネス世界記録に認定された。ポルシェパナメーラのタイムに勝るものであり、「ポルシェを抜いたセダン」として、一躍有名になった。

 その後は、ビッグマイナーチェンジや定期的な一部仕様向上などによって、ブラッシュアップはなされてきたが、フルモデルチェンジは行われることなく、すでに12年が経過する古いモデルとなってしまった。2015年のマイナーチェンジでは、エンブレムがインフィニティに変更され、2019年の仕様向上でまた日産エンブレムに戻される、という迷走もあった。

フーガの実力は、セドグロがあったからこそ

 セドグロから続いてきた日産の高級FRセダンの功績は、その集大成といえる「フーガ」が、欧州プレミアムメーカーと対等に戦える実力を示したことにあるだろう。

 90年代までは、国内向けの高級セダンとして続いてきたセドグロだったが、フーガは本格的な世界進出のために進化を重ね、スポーツセダンとしての実力をそなえつつ、プレミアムなつくり込みと最新技術で武装した。そうしたことができたのは、歴代セドグロをつくることで積み上げてきた経験と技術を持っていた日産だからこそできたことだ。

 フーガは(初代はそこそこ売れたが)大ヒットしたモデルではなかったが、スカイラインよりも上位のスポーティな高級セダンとして、十分にその名を残すことができたと思う。消滅してしまうのは非常に惜しいことだが、日産にとって「大きな資産」になったといえよう。

62年の系譜がここで終了

 2022年4月7日、マツダはラージ商品群の第一弾として、新型クロスオーバーSUV「CX-60」の日本仕様を初公開した。48V マイルドハイブリッドと組み合わせられる直列6気筒ガソリンとディーゼルエンジンは、今後、後輪駆動のセダンタイプ(MAZDA6後継車か?)への搭載も期待されている。バッテリーEVの必要性が、これだけ強く求められている中で、48V マイルドハイブリッドとの組み合わせとはいえ、いまから直6を出すというのは、ある意味、ぶっ飛んだ行動だ(嫌いではない)。

 かつては日産も、高級車向けの直列6気筒を使用していた時代もあったが、パフォーマンスに優れたV型6気筒のVQエンジンへと完全移行をしている。そしてそのV6も、e-POWERやバッテリーEVへと置き換わり、そのうち姿を消すのではと懸念されてもいる。もはやV6エンジンの新規開発をする予算も、気持ちもないだろう。マツダのように、ロマン溢れる直6を今からつくり直す、といった判断は、規模の大きな日産には、難しい。

 シーマとフーガの生産終了が本当であるならば、セドリック/グロリアから62年に渡ってつづいてきた日産の高級FRセダンの系譜はこれで途絶えることになる。筆者は、「フーガ」ブランドは終わりにして、「アリア」をベースにした「ラグジュアリーEVセダン」を、日産のかつてのフラッグシップセダン「プレジデント」として登場させるのが、日産の高級セダンが生き残るための唯一の方法だと考えていたのだが、それも叶わないのは残念でならない。法人からは、セダンタイプの需要はいまだにある。日産からの続報に期待したい。

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