トヨタの高級ミニバン「アルファード」。2002年から発売が開始され2度のフルモデルチェンジを経て、現在販売されているのは2015年に発売された3代目。購買者のターゲットはワンランク上のミニバンを求めるファミリー層だ。広い室内に快適なシートを備えることから、アルファードは経営者の社用車や政治家の公用車としても活躍している。
都内のディーラーで話を聞いてみると、ユーザーの年齢層は30代から50代が全体の80%を占め、その中でも40代が30~40%程度を占めるというから、中高年で年収700~800万円程度の比較的所得が高いファミリー層が中心であることが推定できるだろう。
しかしその人気はファミリー層にとどまらない。独身の若者の間でも高い人気を誇り、高級ミニバンの人気ランキングではたえずトップを続けている。
では平均年収中央値が約300万円といわれている20代の若者たちが「アルファード」を購入することができるのか。ネット検索をすると「年収を超えるローンは組めない」、「年収300万円でアルファードを購入するのはほとんど難しい」と書かれているのを散見する。本当にそうなのか。
文/松崎隆司(経済ジャーナリスト)
写真/TOYOTA、AdobeStock、ベストカーWeb編集部
■ローンを組む際に調べる項目は…
「アルファード」を扱うトヨタ系列のディーラーに話を聞いてみると、意外にも次のような答えが返ってきた。
「私たちは、クルマを購入していただく場合には年収がいくらであるかといったことは、商談の段階では聞きません。年収がいくら以上でなければ購入できないという考え方ではないのです。むしろローンを組む場合は、分割払いの期間(1年(3回)から8年(96回))によって月々の支払いがいくらになるのかを伝え、それを支払うことに納得していただけるかどうかということが大切なのです」(トヨタ系列販売店担当者)
ここでトヨタのディーラーローンとはどのようなものなのかを簡単に説明しておこう。
顧客がディーラーに自動車ローンの申し込みをすると、ディーラーは申請書に必要事項を書き込んでもらい、それをファイナンス会社に送付して信用調査を依頼し、融資が可能だと判断されれば自動車ローンの承認を行うことになる。その期間は1日程度だという。
「審査の際に提出するのはクレジットカードを作る時のような個人情報が提出されることになります」(同)
では提出された個人情報を元にファイナンス会社はどのような審査を行うのだろうか。
提出される個人情報には顧客の属性(年齢・年収・勤務先・勤続年数・居住状況・家族構成等)だ。そしてファイナンス会社は統計的モデルに基づく個人や企業の信用度を点数化するスコアリングシステムを活用して与信審査を行う。
具体的には顧客の属性や個人の借り入れ状況や金融事故などのデータが蓄積される信用情報機関の情報を解析し判断するという。そのため金融関係者も年収の多さではなく、「安定してローンを払い続けることができるかどうかが与信審査を行ううえで重要なカギになる」(ファイナンス会社幹部)という。
「安定してローンを払い続けるには、年収がいくらあるのかというよりも、収入が安定しているのか、他社への弁済状況に問題がないのか、複数の金融機関から借り入れをおこなっていないか、過去に延滞やトラブルなどがないのか、といった点が重要視されます」(同)
■借りられる金額は法律で上限が決まっている
そうはいってもファイナンス会社は債務者保護の観点から融資できる上限が、法律で規制されている。いわゆる大学入試共通一次試験での足切りのようなものだ。割賦販売法では2010年12月改正法施行から、「支払可能見込額」を超えるクレジット(ローン)契約は原則としてできないと規定している。
「支払可能見込額」とは利用者の年収から生活を維持していくために必要な支出や債務などを除き、利用者が無理なくクレジット代金として1年間に支払うことができる金額である。
それは「(年収)-(生活維持費)-(クレジット債務)」という基本的な計算式で算出することができる。
基本となる1年間の「生活維持費」は法律で機械的に決められており、世帯(同一生計)の人数、住宅所有の有無、居住地などによって異なるという。「クレジット債務」は向こう1年間のクレジット代金の年間支払い予定額だ。これは自社だけではなく「指定信用情報機関」を利用し、他社のクレジット債務を確認することが法律で義務付けられている。
クレジット債務は「1回払い以外の分割債務」のことを指すが、住宅ローンのような有担保ローンは含まれない。ただ携帯電話の通話料のように携帯電話本体の分割料金が含まれているものなどはその対象となり、さらに「クレジット会社によってはガス水道料金などクレジットで払っている1回払いのものもまとめて指定信用情報機関に申請している場合もある」(経済産業省関係者)という。ポイント欲しさになんでもクレジットカードで支払っていると、信用保証情報の上では実態以上に大きな債務を抱える債務者として扱われ、マイカーローンが組めないという事態に陥りかねないから要注意だ。
■年収だけでなく家族の数やクレジット利用状況も考える必要あり
では年収300万円の独身男性(親と同居、家賃支払いなし)と年収500万円の男性(4人家族で住宅ローンを抱え、クレジット債務が年間150万円ある)は「アルファード」のハイブリッドモデルで代表的な「SRハイブリットCパッケージ」(車両価格(税込み)572万円)をローンで購入することができるか、実際に5年ローンで試算してみよう。
トヨタモビリティ東京の見積もりシミュレーションを活用すると5年60回払いの場合は一回が11万3300円(支払い総額は680万2428円)となる。つまり1年間に支払わなければならない金額は135万6000円になる。
年収300万円の男性の支払可能見込額は「300万円-90万円-0円=210万円」。一方で年収500万円の男性の場合は「500万円-240万円-150万円=110万円」となる。
年収500万円の男性は支払可能見込額が1年間に支払わなければならない「アルファード」のローンの額を下回っているので、これではローンを組むことはできない。つまり支払可能見込額だけで判断すると年収300万円の男性は「アルファード」を購入するためのローン組むことができるが年収500万円の男性はローンを組むことができないという事になる。つまり年収の高低で審査が決まるわけではないということだ。しかもここで指摘しているのは最低基準であり、具体的な審査はどのような判定基準で審査が行われているかは外部にはわからないようになっている。
しかも支払可能見込額が支払額を下回っているからといって絶対に審査を通らないかというと、かならずしもそうではない。クルマが生活必需品である場合には除外規定がある。
さらに年間の支払額を支払可能見込額の範囲を超える場合でも頭金を増やしたり、残価設定ローンなどを活用したり、年間の支払い額の上限を下げたりするという事もできる。本当に乗りたいクルマがあれば、自分であれこれ考えるよりも最寄りのカーディーラーと相談したほうがいいのかもしれない。
■まとめ
クルマを所有するということは、車体価格以外にも重量税や自動車税などの税金、登録諸費用が発生し、さらにガソリン代や車検、自賠責保険、維持費もかかる。余裕を持ったローンを組んでいく必要がある。
実際、販売店では「『アルファード』のユーザーの4割は残価設定ローンを活用している」(トヨタ系列販売店担当者)という。
要は、自分がどのようなライフスタイルを楽しみたいのか、どこまでクルマにお金をかけることができるのかを、しっかりと把握しすることが重要なのではないだろうか。
【画像ギャラリー】もうすぐ現行型最後の小変更が実施されるアルファードと新型アルファード(予想CG)(11枚)画像ギャラリー投稿 年収いくらあればアルファードが楽勝で買えるのか? 年収とローンの意外と複雑な関係 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。