Mercedes-Benz 300 SLR “Uhlenhaut Coupe”
2台だけ作られた300 SLRのロードリーガルバージョン
300 SLRは、メルセデス・ベンツの伝説的なレーシングスポーツカーだ。F1マシンのW196Rをベースに仕立てた2シーターレーサーは、ミッレミリアやツーリスト・トロフィ、タルガ・フローリオ、世界スポーツカー選手権などで数々の勝利をメルセデス・ベンツにもたらした。
その300 SLRには、たった2台のみのロードリーガルバージョンが存在する。うち1台は、本モデルを設計したルドルフ・ウーレンハウトが個人で所有していたことから「ウーレンハウト クーペ」とも呼ばれてきた。
フェラーリ GTOの記録を大きく上回る落札額
今回、メルセデス・ベンツ クラシック所蔵の超稀少な300 SLR ウーレンハウト クーペがオークションに登場。135万ユーロ(約182億円)で落札された。
2018年には1963年型「フェラーリ GTO」が7000万ドル(約89億1000万円)で落札されており、それが自動車の最高売却額とされてきた。今回、300 SLRはその記録を塗り替え、「史上最も高価なクルマ」となった。
2022年5月5日にメルセデス・ベンツミュージアムで実施された競売は、コレクターズカーの世界で最高峰のオークションハウスとして知られるRMサザビーズが担当。出品された300 SLR ウーレンハウト クーペは、メルセデス・ベンツ クラシックが非公開車両として所蔵していたコレクションの一部であった。
収益は若者の学習を支援する基金の設立に活用
落札したのは匿名の個人コレクターであり、今後もしかるべき機会には当該車両を一般公開することに同意しているという。また、もう1台のオリジナル300 SLR クーペは引き続きメルセデス・ベンツが所有し、シュトゥットガルトのミュージアムの展示車両として活躍する。
今回のオークションで得られた収益は、「メルセデス・ベンツ基金」の設立に用いられる。同基金は“持続可能な未来に向けた若者の学習、取り組み、アクションを支援するグローバルな奨学金プログラム”を提供する機関となる。
伝説のレーサー、300SLRとは
伝説のレーサー、300 SLRは1955年に誕生した。車名は、搭載する排気量3.0リッターエンジンを示す“300”に、Sport Leicht Rennen(Sport Light Racing)の頭字語を組み合わせたもの。
設計は当時のチーフエンジニアであったルドルフ・ウーレンハウトが担当。軽量なスペースフレームシャシーを採用し、フロントミッドに直接燃料噴射機構を備えた直列8気筒DOHC自然吸気エンジンを縦置き搭載している。当時最新のギヤボックスやブレーキも積極的に導入していた。シャシーは総数9台が作られ、うち7台がロードスター仕様であった。
1956年シーズンを見据えて開発されたのが2台のハードトップバージョンである。構造的に鋼管スペースフレームのサイドシル部分が高いため、乗降性を考慮してガルウイングドアを採用。エンジン最高出力は302ps、最高速度は289km/hを誇ったものの、メルセデス・ベンツが1955年シーズンの終わりにレース活動から撤退したことを受け、このクーペ仕様が競技に参加することはついぞ無かった。
2台のクーペのうち1台はメルセデス・ベンツが保管し続け、残る1台はカンパニーカーとしてテスト部門トップのルドルフ・ウーレンハウトに供された後にメルセデス・ベンツが引き取って所有してきた。