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 北米の車両販売において常にトップ3を独占するのが、フルサイズピックアップである。そのピックアップだが、2020年代に入ってもさらにモンスター化は止まらない。そんななかベンツの名門チューナーでさえ、ハイパワーピックアップをアメリカ市場に投入するなどホットな話題には事欠かない。

 そこで、日本にあまりなじみのないディープな北米フルサイズピックアップの実態や魅力について触れていきたい

文/石川真禧照写真/フォード、GM、ステランティス、トヨタ

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■ ブラバスからはメルセデスAMG Gクラスベースのピックアップが登場

ブラバス800XLP。Gクラスをベースにピックアップトラックにしただけにとどまらず、エンジンから内装まですべてにスペシャルに仕上げられたモデルだ。さまざまな派生モデルも存在する

 主にメルセデスAMGのクルマをベースにさらにチューニングしたスーパースポーツを製作しているブラバスが、AMG G63をベースにスーパーピックアップを発表した。Gクラスといえば、オフロードSUV。ワゴン形状のクルマだが、ブラバス800XLPはリアドアのうしろからボディを切り、荷台としている。つまりトラックにしたのだ。

 AMGをベースにしたトラック? といぶかる人もいるかもしれない。しかし、実は乗用ユースを目的としたピックアップトラックは世界的なマニアが存在するカテゴリーなのだ。

Gクラスワゴンのボディ後部の屋根と車体を切り取って荷台にしてしまうなんて、カワイイもの。グーグルで「ロールスロイスのピックアップ」と検索すれば新旧ロールスロイスのトランク部分やリアシート部分からトラックの荷台に改造したクルマがゴロゴロ出てくる。

■北米市場での売り上げ上位はフルサイズピックアップモデルの独壇場なのだ

 ロールスロイスだけではない。フェラーリやベントレーにもピックアップは存在している。それだけピックアップマニアが多いということなのだ。

 ベースになるピックアップだって、「リアに荷台を付けたトラックなんて、マイナーな存在」と悔ってはいけない。

 例えば、北米市場の販売台数ベスト5を調べてみると、2021年は1位がフォードF150で72万6004台、2位はダッジラムで56万9788台、3位はシボレーシルバラードで52万9765台。これがベスト3。4位にはトヨタRAV4、5位にホンダCR-Vが入っている。RAV4とCR-Vは日本でもおなじみのSUVということはわかる。

 では1位のフォードF150や2位のダッジラム、3位のシボレーシルバラードというのはどのようなクルマなのだろうか。

■北米での熾烈な販売競争が、ピックアップトラックの超絶進化をもたらしている

フォードF150は北米のベストセラー車である。V6 2.7L~3.5LのターボエンジンとV8 5Lの自然吸気エンジンをラインナップ。2022年モデルよりEVも追加された

 実はこの3車は荷台付きのピックアップトラックなのだ。つまり、北米で売れているクルマの上位3車は、ピックアップトラックということになる。しかも、この3車は全長が5.9m、全幅2.5m、全高2mという超ビッグサイズなのだ。アメリカのユーザーはこういうクルマに好んで乗っている。EVやHVが話題になっているのはごくかぎられた試乗なのだ。

 日本にはこの3車は正規輸入されていないが、熱心なピックアップファンは存在する。ボディサイズは小さいが、トヨタハイラックスサーフや一時期逆輸入されていた三菱トライトンというピックアップもある。

 最近ではジープが、グラディエーターというジープラングラーをベースにした4ドアのピックアップを日本市場に投入。輸入、販売していたが、ローンチ時の販売価格770万円、400台限定が、発表から3カ月で完売してしまった。

 このクルマも全長5.6m、全幅1.9m、全高1.85mのピックアップだ。エンジンはV6の3.6L、284psのガソリン仕様だが、ジープを生産するステランティスは、3月に450psを発生する「ハリケーン」というハイパフォーマンスエンジンを発表している。

 スーパーエンジン投入の理由は、ライバルたちへの対抗策。ピックアップトラックの世界は超絶なパワー競争になっているのだ。

■ブラバスは800ps、対するアメリカ勢もどんどんハイパワーモデルを発売して迎え撃つ

 実は、ブラバスのスーパーピックアップもアメリカの富豪たちをターゲットにした展開なのだ。AMG製のV8、4Lツインターボガソリンエンジンは800ps、1009Nmを発生する。これはノーマルのAMG G63のエンジンよりも215ps、156Nmもアップしている。

 しかし、アメリカのライバルたちも凄い。ノーマル仕様のモデルでも、フォードF150ラプターは、3.5L、450psの10速ATを備え、FOXレーシングのサスペンションを装備している。ダッジラムTRXは、6.2Lスーパーチャージャーで、702ps、884Nmを得て、サスペンションはビルシュタインを装着している。

 シボレーシルバラードトレイルボスも、V8、6.2Lの420ps、624Nmをノーマル仕様で絞り出している。

 北米ビッグ3とはボディサイズがひと回り小さい(といっても全長5.6m、全幅2m、全高1.8m)トヨタのピックアップだが、最強モデルの「クルーマックス」はV8、5.7Lの381ps。V6ツインターボは3.4L、389psを用意していた。最新モデルではハイブリッドで437ps、790Nmの仕様を登場させている。

■ピックアップトラックも普通にレースで活躍するのが北米なのだ

 なぜ、北米市場ではこんなビッグサイズのスーパーピックアップに次々とニューモデルが登場するのだろうか。

 理由のひとつは販売台数だ。北米の販売台数のベスト3をピックアップが占めているということは、ファミリーカーとして認知され、人気があるということ。ユーザーが多ければ当然、いろいろなニーズもある。だから2ドアの2~3人乗りと4ドアの5人乗りがある。

 おとなしいエコモデルもあるが、スポーティさを好む人たちもいる。なかにはスーパースポーツを欲しい人もいる。メーカーとしてもイメージリーダーになるようなモデルを設定したくなるわけだ。

 もうひとつの理由は、アメリカでいかにピックアップが定着しているかということだが、全米自動車競争協会(NASCAR)が主催するレースは、市販車を改造したストックカーレースなどが人気。全米でレースを行なっている。その3大レースのひとつにトラックレースシリーズが入っているのだ。

 レースはフォード、GM、トヨタがワークスチームを送りこみ、激しいポイント争いを繰り広げている。その参加チームに、服部茂章氏というかつてトラックレースに出場していた日本人がチームオーナーになり、現在も参戦している。日本では話題になっていないが、優勝も獲得するなどその名は知られている。

■実際に運転するとやはりデカい。日本で乗りこなすにはそれなりの覚悟が必要だ

日系メーカーも追従するが、現状デトロイト3の牙城を崩すまでの勢いには至っていない。今年誕生の3代目タンドラはTRD仕様を前面に出すなどさらなるアクティブさを前面に打ち出す戦略のようだ

 このように全米を転戦するレースが行なわれていることもスポーツピックアップが人気な理由なのだ。

 実際にハンドルを握ってみると、その魅力はさらに高まる。 

 日本には正式に輸入されていないが、ビッグサイズスポーツピックアップの試乗は、運転席によじ登ることからはじまる。そして、その走りはハイパワーを4輪に駆動するが、後輪は荷台なので、どうしても軽くなってしまう。そのコントロールが走りの楽しさでもある。そこには、スポーツセダンやSUVにはない走りのワイルドさがある。

 しかし、そのボディサイズは日本ではもて余すというよりも、ダンプカーを運転している感じ。やはり全長5.5mが一発でUターンできるような道路環境が必然だろう。

 そして、トヨタはハイブリッドモデルを発表しているが、V8の大排気量エンジンが主流では、燃費に関しては絶望的といってもよい。でも、全米ではファミリーカーとして人気があるということは、この燃費でも認められているということでもある。

 ラージサイズのスーパースポーツピックアップは、この先もアメリカならではのホビーカーとしてその地位を保ち続けるのだろう。

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