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 メルセデスベンツなどの欧州プレミアムブランドは必ずと言っていいほどセダンとワゴンをラインアップしている。しかも現地では相当数支持されているワゴンだが、なぜか日本を代表する高級ブランド「レクサス」には今も昔も該当モデルはなし。一体なぜか!?

文/清水草一、写真/SUBARU、LEXUS、メルセデスベンツ、BMW、アウディ、TOYOTA、MAZDA

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■日本市場はワゴンを下に見ている!? 成功したのはレガシィ程度

ワゴンといえば商用車というイメージが根強かったが、それを払しょくしたのが1989年登場の初代レガシィツーリングワゴンだ

 欧州プレミアムブランドは、必ずセダンとワゴンをラインアップしている。中でもドイツ御三家は別格。メルセデスでは「ステーションワゴン」、BMWでは「ツーリング」、アウディでは「アバント」と、それぞれ歴史ある呼称を持ち、セダンに劣らぬステイタスを誇っている。

 もうちょっと詳しく書くと、セダンが保守本流なのに対して、ステーションワゴンは「セダンの実用性を高めた、カジュアルでスポーティなボディタイプ」である。走りはセダンとほぼ同等で、ラゲージの積載性だけ向上させたモデルと言っていいだろう。

 日本では、初代レガシィツーリングワゴンが「和製ボルボ」としてその地位を確立するまで、ステーションワゴンは配達用のライトバン扱いだった。当時の日本人のライフスタイルでは、クルマで遊びに行く際、そんなにいろいろ積むものがなかったのだ。

 よって、荷物を積むクルマ=働くクルマ。一段低く見られたのである。

 だが、バブル期以降、日本人の生活がより欧米に近づき、さまざまなアクティビティを楽しむようになるにつれ、ステーションワゴンの地位も向上し、90年代半ばにはワゴンブームが到来。ステーションワゴンはカッコいいものとして定着した。

 その後ワゴンブームは退潮を迎え、多くのモデルが姿を消したが、ドイツ御三家では相変わらず健在だ。つまりステーションワゴンは、主に高級ブランドで生き残っている。

■レクサスにワゴンがないのは生い立ちにワケあり!?

すべてを原点に返って作るという源流主義によって誕生した初代セルシオ。いまのレクサスにも受け継がれている

 ところが、日本唯一の高級ブランドであるレクサスは、いまだかつてステーションワゴンを登場させていない。一体なぜだろう。

 これには、レクサスブランドの生い立ちが深く関係している。

 レクサスが誕生したのは1989年。場所は北米だった。レクサスはまず北米でのみ展開され、日本で販売が始まったのは2005年からだ。

 80年代、北米で人気があったのは、ピックアップトラック、SUV、セダン、スポーツカー、そして小型のハッチバックで、ステーションワゴンはそれほどメジャーとは言えなかった。

 荷物を積むなら、ピックアップトラックやSUVのほうが有利。複数台所有が当たり前の自動車社会アメリカでは、中間的な存在のステーションワゴンは、逆に中途半端であり、ややマイナーな存在だった。

■欧州のワゴン人気は走りの良さが要因

 欧州も、北米ほどではないが自動車社会で、複数台所有は一般的だったが、それでもステーションワゴン人気が高かったのは、走りの良さが原因だ。

 ドイツ・アウトバーンは速度無制限。イタリア、フランス、スペインなど近隣諸国には速度制限があったが、取り締まりはないに等しく、欧州大陸の高速道路は、事実上ほぼ速度無制限だった。

 超高速域では、重心が高くて車重が重くて空気抵抗も大きいSUVは圧倒的に不利で、セダンやステーションワゴンに対抗できない。だからこそ、実用性と高速性を兼ね備えたステーションワゴンが人気を集めたのだ。

 北米でスタートしたレクサスは、まず高級車の本丸たるセダンから参入し、続いてRX(日本名ハリアー)でSUVに進出。大成功を収めた。

■レクサスは欧州で当初大苦戦……最初に成功したのはSUVだった

1998年の登場直後から大ヒットモデルとなったレクサスRX(写真は2015年登場の現行型)

 実はレクサスは、誕生の翌年、1990年から、欧州でも販売が始まっている。しかし欧州では欧州製高級車ブランドの壁はあまりにも厚く、長年まったく売れなかった。

 北米では大成功した初代LSも、欧州ではドイツ御三家の前にまるっきり歯が立たず、壊滅的に売れなかった。欧州に建設された立派なレクサス店の店舗は、「採算を取るのに1万年かかる」と言われたほどだ。

 欧州が最初に認めたレクサスは、SUVのRXだった。「レクサスも、SUVならまあまあだね」みたいな形である。認められたといっても、現在でも欧州におけるレスサスのシェアは微々たるもので、メルセデスの10分の1程度にとどまっている。

 繰り返すが、レクサスが誕生したのは1989年で、当時北米ではステーションワゴンはそれほど人気がなく、90年代に入ると、レクサスRXの大ヒットもあって、クロスオーバーSUV全盛期に突入する。

 レクサスブランドはクロスオーバーSUVの「元祖」。その後次々にモデルラインナップを強化し、順調にシェア拡大して行った。今やレクサスの販売台数の大半がSUVである。

■レクサスにワゴンがないのはタイミングのせい!?

 そういった経緯を考えると、レクサスがステーションワゴンに進出しなかった理由は、「出す理由がなかったから」と言うことになる。

 もちろん、レクサスのステーションワゴンを望む声がゼロだったわけではない。特に日本では、ドイツ製ステーションワゴンの人気が高く、レクサスのステーションワゴンが欲しいという声は、それなりに存在した(過去形)。

 しかし、レクサスの本丸はあくまで北米、そして中国だ。昨年の地域別の販売台数は、このようになっている。

 北米   約33.2万台
 中国   約22.7万台
 欧州   約7.2万台
 日本   約5.1万台
 中近東  約2.8万台
 東アジア 約3.0万台

 北米や中国では、ステーションワゴンは消滅状態に近い。今や欧州でも、ステーションワゴンが売れているのはドイツ車だけ。その他のブランドはどんどん撤退している。日本車も同様だ。

 レクサスは、ステーションワゴンに進出するタイミングを逃しているうちに、いつのまにかステーションワゴン市場自体がなくなった、ということだろう。

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