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 来日中のバイデン米大統領は23日、岸田文雄首相とともに記者会見に臨み、台湾有事の際に米国は軍事的に関与することを明らかにした。歴代政権が曖昧にしてきた台湾有事の際の米国の対応について明言したことは、日本にとって台湾有事は日本の有事であることを意味する。

■バイデン米大統領「Yes」

会見するバイデン米大統領(ANN News CH画面から)

 バイデン米大統領はこの日、首脳会談後の共同記者会見で、記者の質問に答える形で武力による関与を肯定した。記者の質問は「ウクライナの紛争には米国は軍事的に直接関わりたくない一方で、台湾を防衛するためには直接関わりますか」というもの。これに対して「Yes」と明言したのである。

 「本当に?」と畳み掛ける記者に対して「そういったコミットメントを米国は示している」と加えた(ANN News CH・“有事の日米首脳会談” バイデン氏、台湾有事の際は「防衛に関与」)。

 米国の台湾政策は台湾関係法(Taiwan Relations Act)がベースになっている。

【台湾関係法第2条b項】

米国のポリシーは…

(4)平和的な手段以外によって台湾の将来を決定しようとする試みは、ボイコット、封鎖を含むいかなるものであれ、西太平洋地域の平和と安全に対する脅威であり、合衆国の重大な関心事と考える。(to consider any effort to determine the future of Taiwan by other than peaceful means, including by boycotts or embargoes, a threat to the peace and security of the Western Pacific area and of grave concern to the United States;)

(5)防御的な性質の武器を台湾に供給する。そして…(to provide Taiwan with arms of a defensive character; and)

(6)台湾の人々の安全または社会、経済システムに危害を与える、どのような武力行使または他の強制的な方法にも対抗できる米国の能力を維持する。(to maintain the capacity of the United States to resist any resort to force or other forms of coercion that would jeopardize the security, or the social or economic system, of the people on Taiwan.)

 これを読めば分かるが、台湾の味方をするものの、軍事的に介入するかどうかは明記されていない。歴代大統領も明言しないことで、中国に対する抑止力としてきた。ところがバイデン米大統領は従来の曖昧戦略に別れを告げ、台湾防衛への強い意思を示したのである。

■台湾は歓迎し中国は反発

 当然のように中国は反発する。中国外務省の汪文斌報道官は「強烈な不満と断固とした反対」を表明した上で「主権や領土の保全など核心的利益に関わる問題で、中国にはいかなる譲歩の余地もない」とした(産経新聞電子版・中国「言行慎め」 米大統領の台湾防衛発言に反発)。

 案外知られていないが、中国は台湾が独立を宣言した場合等には武力を含むいかなる手段を使っても阻止するという法律が存在する。これは中国大使館のHPに日本語で全文が掲載されている。

反国家分裂法

第8条:「台独」分裂勢力がいかなる名目、いかなる方式であれ台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、または平和統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式その他必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる。…

 他国への非平和的手段の行使を法律で明記している国家は、世界でも中国ぐらいではないか。それも人口2000万人以上、民主的手段で国家元首を選出している国家への侵攻である。

 中国は一定の条件の場合、台湾に軍事侵攻すると法律で定めており、その場合、米国は軍事的に介入するとしたのであるから、米中が台湾で軍事衝突する可能性は飛躍的に高まったと言える。中国からの脅威にさらされている台湾にとっては、これ以上ないバイデン大統領の言葉である。

 台湾の外交部は「心から歓迎し感謝する」とのコメントを発表。さらに「台湾海峡の安全に対する中国の挑戦が国際社会の懸念を引き起こしており、私たちは今後、米国や日本などと連携を深めて共同で台湾海峡の安全を守っていく」とした(産経新聞電子版・バイデン氏防衛発言に台湾「歓迎し感謝」)。

■米中衝突で日本は…

 こうして米中が台湾をめぐって軍事衝突の可能性が高まる中、日本はどうすべきなのか。中国が直接、日本を攻撃することは考えにくいが、米国が攻撃された場合、集団的自衛権の行使が見込める。

 この集団的自衛権は国連憲章51条に規定されている。

【国連憲章51条】

「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。…」

防衛省(撮影・松田隆)

 国連加盟国の日本も当然に集団的自衛権は有しているが、従来の政府見解は「有しているが行使はできない」というものであった。つまり台湾をめぐって中国が米軍を攻撃したとしても、日本は米軍を助けることはできないというのが政府の見解であった。

 しかし、2014年7月1日、当時の安倍内閣は閣議決定で集団的自衛権の行使ができるように、憲法解釈を変更。もちろん、その行使には厳格な要件が存在する。自衛の措置としての武力の行使の新三要件と呼ばれるもので、この点は内閣官房のホームページに明示されている。

【自衛の措置としての武力の行使の新三要件】

・我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること

・これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと

・必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

(内閣官房・「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の一問一答

 日本海や東シナ海で米軍が攻撃されたら、あるいは日本国内の米軍基地が攻撃されたら、政府が新三要件から集団的自衛権の行使に踏み込む蓋然性は高い。まさに台湾有事は日本有事。台湾外交部のコメント「今後、米国や日本などと連携を深めて共同で台湾海峡の安全を守っていく」はそうした事情を含めてのものと言っていい。

■歴史の転換点

 今回のバイデン米大統領の発言により、台湾有事の際には日米台の連合軍と中国が戦う構図が出来上がったと言えるのではないか。

 ウクライナ侵攻によって米国は、このままでは中国の侵攻も現実的なスケジュールに乗ってくると考えたのかもしれない。我々日本人は、憲法9条があるから戦争にならない、巻き込まれないなどと考えない方がいい。

 ウクライナ侵攻が平和であった時代に終わりを告げた。日本人も一国平和主義の幻想から脱却し、現実の国際社会に目を向ける時が来た。バイデン米大統領の発言は歴史の転換点となり得ると思う。