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最近の新型EVがクロスオーバーSUVばかりな単純だけど大事な理由と事情

 世界的な環境問題への意識の高まりから、内燃機関からバッテリーEV(以下、BEV)へのシフトが急速に進んでいます。日本でも、多くのメーカーが新型のBEVを投入し、今後のBEVの投入計画を公表していますが、なぜか、その多くがクロスオーバーSUVです。

 なぜBEVにはクロスオーバーSUVが多いのでしょうか。

文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:TOYOTA、SUBARU、NISSAN、MAZDA

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クロスオーバー人気にあやかっているだけではない

 一昨年末から今年にかけて、日本国内でも次々と新型のBEVが導入され、ほぼすべてのメーカーが今後の具体的なBEV戦略を公表しています。

 BEVのパイオニアとして2010年から販売が続く日産「リーフ」、そして2021年に登場したホンダ「Honda e」、マツダ「MX-30」に加えて、2022年3月ごろから日産「アリア」の納車が開始となっており、トヨタの「bZ4X」/スバル「ソルテラ」も、それぞれ5月12日から受注を開始(bZ4Xはリースのみ)。5月20日には、日産/三菱による軽サイズのバッテリーEV「サクラ」/「ekクロスEV」も発表となりました。ほかにも、メルセデスベンツからは「EQA」や「EQC」、BMWからはBMW「i4」など、輸入車では、実にさまざまなメーカーがBEVをラインアップさせていています。

 上記の動向から特徴的なのは、冒頭でも触れたように、ここ数年に登場しているBEVにはクロスオーバーSUVが多いこと。現在人気の高いクロスオーバーSUVでBEV化を進めるのは当然といえば当然ですが、実はそれだけが理由ではありません。

日産「アリア」。バッテリー容量66kWhのB6と91kWhのB9、それぞれに2WDと4WD(e-4ORCE)を用意。航続距離はB6が470km(2WD)、B9が640km(2WD)だ

ガソリンに対して2~3倍の容量のリチウムイオン電池が必要

 BEVでは、実用的な航続距離を達成するために大量のバッテリーを搭載する必要があります。これは、リチウムイオン電池のエネルギー密度が、ガソリンに対して大きく劣るためです。

 BEVのリチウムイオン電池が、どれくらい必要かを簡単に見積もってみましょう。ガソリンのエネルギー密度12,000Wh/kg(9,000Wh/L)に対して、リチウムイオン電池のエネルギー密度を250Wh/kg(700Wh/L)と仮定します。エンジンの熱効率は一般走行で15%程度なので、実際のガソリンのエネルギー密度は1,800Wh/kg(1,350Wh/L)に低下します。それでも、ガソリンと同等の航続距離を得るためには、BEVでは重量比でガソリンの7.2倍、容積比で1.9倍のリチウムイオン電池を搭載する必要があるのです。

 上記は特定の仮定に基づいた試算であり、実際にはバッテリーの性能や車両条件に大きく依存しますが、おおよそガソリン車の燃料の2倍~3倍(容積比)のリチウムイオン電池を搭載する必要があることになります。もちろん、小型車や航続距離の短いBEVでは、バッテリー搭載量は少なくてすみますが、ガソリン車と同等の400km以上の航続距離を実現するためには、大きなバッテリーを効率よく搭載しなければならず、実はこれこそが、BEVにクロスオーバーSUVが多い理由なのです。

搭載性と運動性能、そしてCAFEで有利に

 BEVにクロスオーバーSUVが多い理由は、バッテリーの搭載性に優れることと、SUVの性能との相性がいいことにあります。具体的には以下の通りです。

・スタイリングを崩すことなく床下にバッテリーを搭載可能
 セダンやハッチバックに比べて、クロスオーバーSUVは車高と地上高が高いので、大容量のバッテリーを搭載しやすく、多少バッテリーによって床面がかさ上げされても、スタイリングへの影響が抑えられる

・低重心化によって従来SUVよりも安定した走りを実現
 SUVは、もともと悪路や雪路なども走破するように設計されていますが、重いバッテリーが主にホイールベースの間の床下に搭載されることで、クルマの重心が車両中心に近づき、かつ下がるので、さらに走行性能・走破性が向上。また、エンジンよりもモーターの方が応答性に優れているので、4輪の駆動力をきめ細かく制御することも可能に

・CAFE規制の燃費向上に貢献
 SUVは、車重が重く空気抵抗が比較的大きく燃費が悪いため、メーカー全体の燃費で規制するCAFE(企業別平均燃費基準)において、足を引っ張っている傾向。そうしたSUVをBEV化することで、マイナス要因を減らすことが可能

とはいえ、今後は、セダンやハッチバックでも

 とはいえ、欧州を中心に、世界中でBEVへの転換が待ったなしとなった状況下では、全方位のBEV化が必要であり、コンパクトカーやハッチバック、セダン、ミニバンもBEV化しなければ、カーボンニュートラルを達成することはできず、世界が環境保全先進国に求められる水準を満たすことはできません。

 SUVのBEV化が有利であることは確かですが、2010年に初代が登場したBEVの先駆者である日産リーフはハッチバック。現時点では、上記のような理由でSUVタイプのBEVが多いですが、BEV化で日本より先行している欧州メーカーは、クロスオーバーSUVだけでなく、すでにセダンやハッチバック、商用車など幅広くBEVを揃えており、今後リチウムイオン電池の高性能化と低コスト化が進めば、クロスオーバーSUVにこだわることなくBEV化が加速していくと思われます。

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