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一見目立たないこのメルセデスS123は、テスラ製のバッテリーを搭載し、広範囲に渡って電気駆動に改造されている。そして現在、売りに出されている。

クールなアイデアか、許されざる罪か?一見するとスタンダードモデルのようなこの「メルセデスS123エステート」は、完全なレストアの過程で、無情にも電気駆動に改造された。現在、この個体は売りに出されている。その値段は?お得感なし!?

人気のあるクラシックカーを電気駆動で第二の人生を歩ませるという発想は、今に始まったことではない。レストモッドブームの到来で、内燃機関を取り外して、電気自動車に換装した自動車は続々と登場している。

例えば、リバイブ オートモーティブの「ポルシェ911(Gモデル)」、トーテム オートモービリの「アルファロメオGTジュニア」のニューエディション、EVウエストの「VW T2」など、例を挙げればきりがない。

ボンネットの下には、昔ながらの内燃機関ではなく、たくさんのケーブルが張り巡らされている。

電動化された「メルセデスS123」を、我々はまだ目にしたことはない。しかし、eBayでは現在、1983年に製造された「メルセデスS123」を電気自動車に改造したものが売りに出されている。

一見、完璧にレストアされたグレーのエステートカーだが、ボンネットの中を覗くと、クラシックカー愛好家や伝統主義者は、背筋が凍るような思いがするはずだ。内燃機関の代わりに、53kWの電動モーター2基からなる非同期式デュアルモーターを搭載し、カルダンシャフトに直接動力を伝達している。エンジン出力は106kW(144馬力)とされている。

200kmの電動航続距離

特に興味深いのは、バッテリーは、テスラ社のリチウムイオン電池で、63.6kWhの容量があり、約200kmの航続距離を確保できるということだ。充電にかかる時間は7時間という長時間を想定している。

この複雑な改造を行ったのは、すでにデロリアンDMC-12、アンフィカー、DKWに電気駆動を搭載しているイーキャップ モビリティ社だ。

完全に修復されたインテリア。このS123は、改造前に20万km以上を走行していた。

ポジティブなハイライト。電気自動車の「S123」はすでに新しい書類があり、Eナンバーでもすぐに登録が可能となっていることだ。改造前に、すでに21万km以上走行していたステーションワゴンは、ビジュアル的にもスーパークリーンな印象を与えている。しかし、それもそのはず、「S123」は完全に分解され、ボディに浸漬コーティングが施されているのだ。

また、インテリアも当時のイメージを保ちながらも一新された。インテリアは、ドアパネルやヘッドライナーも茶色のレザー張りだった。格納式タッチスクリーンを備えたラジオだけが、全体のイメージを損ない、他のスタイリッシュなインテリアと調和していない。

最後に、売主はなぜ電動「S123」を売りたいのか、という疑問が残る。このステーションワゴンは2021年に完成したばかりで、その後ほとんど使用されていないのだが・・・。オークションの開始価格は20,000ユーロ(約270万円)だが、69,000ユーロ(約940万円)で購入に興味のある人は即決で購入することができる。整備された「S123ステーションワゴン」の中古車が、5分の1程度の価格で購入できることを考えると、そのプレミアムは超高額である。パイオニアになるのは決してお得ではない。

【大林晃平】
メルセデスベンツの「S123」は名車である、と個人的には太鼓判を押したい。なぜならばその昔、300TD(ターボなし)が我が家にいたからで、その驚くほど頑強で丈夫なボディと全体のつくり、そしてごついシートなどが印象に強く残っている。5気筒のディーゼルエンジンに関しては、4速ATとの組み合わせでは周囲の交通に乗るのがやっとという加速であったが、いったん速度が上がってしまえば楽勝で、120km/hを保ったまま、燃料が切れるまでその速度で走り続けることができる、そんな車であった。

そういった素晴らしいボディとシートを持つ「S123」をBEVに改良する、というのはそりゃあいいかもなぁ、という気持ち半分、でもやっぱりあの重いけれど実用的で頼りがいあふれるエンジンじゃないのかという気持ち半分、と微妙な気持ちである。

もちろんこういう進化を私は全く否定していないし、BEVに変身してしまったほうが良いと思う車も多い。だがこの「S123」に関しては、愚直なまでに強固なボディと、黒子に徹した実用エンジンという組み合わせが最高だったがゆえに、ちょっと複雑な気持ちだし、価格を知ってしまうとその思いはさらに強まってしまうのである。

Text: Jan Götze
Photo: ebay.de/crokar