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5月12日付「西日本新聞」1面に掲載されたスクープ「ウイグル人口増加率  急減」。

前編では特ダネを掴んだ経緯について西日本新聞中国総局長の坂本信博記者に聞いたが、後編では冬季五輪1年前に放った、もう一つのスクープ記事の話など、ウイグル族に関する調査報道にかける思いを聞く。坂本記者の過去記事はこちら

zoomでのインタビューに応じる西日本新聞中国総局長の坂本信博記者

「中国叩き」が目的ではない

坂本記者は大量の統計データを分析し、冬季北京五輪開幕1年前の21年2月、「ウイグル10万人不妊手術 中国強制?5年で18倍」との1面見出しで記事を出した。だが、決して中国叩きがしたいわけではないと言う。

中国政府を叩いたり中国の人々を貶めたりすることが目的ではありません。新疆ウイグル自治区で起きている事実を知り、それを報道することによって現地の状況が少しでも改善されたらと思っています。

報道の自由がない中国では、我々のような海外メディアの記者が事実を伝えることで、少しでも人権抑圧のブレーキになるかもしれない。目を向け続けることが抑止につながればと願っています。

SNS上などでは、ウイグル族へのジェノサイドが起きていると訴えているドイツ人研究者エイドリアン・ゼンツ氏と同列に語られることもあるが、あくまで是々非々の立場で中国を見ているという。

欧米のメディアや研究者がしばしば訴える「強制労働」が現在も実際に行われているかどうかは、私にはまだ検証ができておらず、明確には判断できません。

私が提示したのは、中国の当局が自ら公表してきたデータが示す不妊手術の急増や人口増加率の急減という事実であり、ウイグル族に狙いを絞った人口抑制の実態です。現地ルポも含め、自分自身で確かめたものを報道してきました。

高齢ウイグル族の男性の頭上には中国の国旗が(Christian Ader)

インタビュー中に伝わってくる緊張感

坂本記者がウイグル族に関する調査報道を記事化したあと、21年9月刊行の「中国統計年鑑」では、30年以上公表されてきた地域別出生率の項目が、なくなった。

ある時期まで、少数民族集住地域での不妊処置件数の増加や人口増加率の低下は、地方政府にとっては中央に対してアピールできる成果だったのではないかと考えられます。統計データの非公開は、かつての“成果”が、現在は“不都合な事実”に変わったという証しだと言えます。

zoomでの取材中、坂本記者は「ウイグル族」「新疆」などの言葉を避け、「あの民族」「現地」といった代名詞を使う場面が多かった。インタビューのやり取りを当局が“傍聴”している可能性もゼロではなく、中国国内の緊張感が伝わってきた。

坂本記者は中国という国の魅力についても、こう語った。

56の民族が暮らす多様性と奥深さ、地理的に広大で文化や風土が豊かである点。大らかで人情味のある人が多いのも、中国の好きなところです。

西日本新聞の中国報道は、全国紙では報じないような独自の切り口を感じさせるものが少なくない。今後も注目していきたい。(終わり)