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ランエボ躍進の原動力となった名エンジン!! 4G63の進化と搭載車の実力

 三菱自動車はかつて世界ラリー選手権(WRC)に多くのマシンを送り込み、数々のラリーで優勝を遂げている。その中でも勝つためにベース車から開発されたのがランサーエボリューションだ。

 その心臓部には2リッター4気筒ツインカムターボエンジン「4G63」が搭載されていた。出力こそ280psであったが、最終モデルは40kgmを超える強大なトルクを誇った。この名エンジンの進化の歴史を振り返ろう!

文/斎藤 聡、写真/MITSUBISHI

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■WRCを席巻した三菱の至宝

ランエボのエンジンとして知られている4G63型エンジン。最初は1987年、6代目ギャランVR-4に搭載された

 4G63型エンジンと言えば、ランエボのエンジンとして知られている。ここではこの名機4G63の進化について紹介してみよう。

 三菱のエンジン呼称は、一桁目の4が気筒数を表し、2桁目が燃料区分。ちなみにA、B、Gがガソリン、D、Mがディーゼルとなる。3桁目がエンジンシリーズを表している。

 これはペットネームと呼ばれるもので、バルカン、オリオン、サターン、ネプチューン、アストロン、シリウスとあり4G6シリーズはシリウス。4G63は4気筒のガソリンエンジンで、シリウスエンジンシリーズで排気量が2Lであることを示している。

 三菱ではターボの有無やカムシャフトの数は基本的に表記されない。そのためランエボやギャランだけでなく、RVRやエアトレック、デリカなどにも4G63型エンジンは搭載されている。

 また、最初の数字を表記せずG63Bと表記されることもあった。Bは昭和48年排ガス規制対策やサイレントシャフトによって振動対策を施した2世代目のエンジンを示している。

 ちなみにG63Bは4G63の前身となるエンジンで、1981年に輸出向けに販売されたランサーEX2000ターボに搭載されていた。その後G63BはスタリオンGSR-Vにも搭載されている。

 ここではランエボに搭載されていた4G63型=2L直4DOHC16バルブ・インタークーラーターボを中心に進化を見ていきたいと思う。

■4G63とランエボの歴史

1992年登場の初代ランサーエボリューション。ランエボII登場以降は「エボI」と呼ばれるようになった

 このエンジンが4G63の呼称で最初に搭載されたのは6代目ギャランVR-4だった。87年のデビュー当初は205馬力/30.0kgmの出力だったが、89年のマイナーチェンジで220馬力/30.0kgm、90年には240馬力/31.0kgmまで出力アップする。

 そして92年にランサーエボリューションがデビュー。圧縮比を7.8から8.5に引き上げるとともに、ピストン及びコンロッドの軽量化、ピストンリングのフリクション軽減、大型インタークーラー及びオイルクーラーの採用、大径エキゾーストシステムの採用などで250ps/6000rpm、31.5kgm/3000rpmにパワーアップ。

 デビューしたランエボはWRC制覇を目論んで開発されただけにその速さは強烈で、極太のトルクで豪快に加速していく、そんな印象のクルマだった。操縦性は意外なほど安定性重視で、簡単には破綻をきたさない操縦性だった。ありていに言えば曲がりにくいクルマだった。

 ランエボと4G63の運命は、ほぼ同時にデビューした最大のライバルの存在によって、ここから約20年にわたって一時も歩みを止められない過酷な開発競争に入っていく。

 94年1月エボIIが登場。搭載する4G63はバルブリフト量をアップ。マフラーの背圧低減、過給圧アップによって260馬力にパワーアップ。

 試乗して強く印象に残っているのはものすごく曲がるようになったこと。ライバルがものすごくよく曲がったためエボIは曲がらないといわれ、大幅にサスセッティングに手が加えられたのだ。

 エボIIIになると4G63は圧縮比を8.5から9.0にアップ。ターボもタービンのコンプレッサーホイールの形状を変更。それに合わせてフロントパイプを54mmφから60.5mmφ位拡大。背圧の低減を図って260馬力とし10馬力のパワーアップを果たす

 圧縮比アップの効果は絶大で、エンジン自体のピックアップが良くなったことから、エンジンのレスポンスの良さが印象に残っている。ただ、ブーストアップ程度でもガスケット抜けなどのトラブルが起きやすく、チューニング素材としては気難しいエンジンだった。

■劇的進化を遂げたエボIV

1996年登場のランサーエボリューションIV

 95年10月のランサーのフルモデルチェンジを受け、翌96年8月にエボIV発売。4G63はエンジンの搭載位置を左右逆転(ミッションを新設計しカウンターシャフトが廃止になったため)。

 そしてこのエンジンで280ps/6500rpm、36.0kgm/3000rpmを達成。エボIIIで行った圧縮比アップの対策を含め大幅な手直しが行われた。

 圧縮比を9.0から8.8に変更し、バルブタイミングも変更(オーバーラップ増)。ガスケットをカーボンからメタルに変更。鍛造ピストンを採用(スカート部を肉薄化して軽量化)。強化コンロッドの採用。ツインスクロールターボを採用するとともに、排気マニホールドからタービンホイールまでを完全デュアル化して排気干渉を低減など多岐にわたる。

 エンジンの吹き上がりの抜けが良くなりクリアなパワー感になった。10馬力のパワーアップもさることながら、31.5→36.0kgmの大幅なトルクアップに驚いた。鋭い吹き上がりと迫力の加速性能が印象的だった。

 操縦性に関しては初採用のAYCの出来がいまひとつ。それが影響しているのかリヤ回りの重さ感や鈍さが気になった。

 98年1月エボV発表。4G63はエボIVで大幅な手直しを行ったためエボVでの変更は少なめ。ただしツインスクロールターボのノズル面積の拡大によって最大トルクが36.0kgmから38.0kgmへとさらに向上している。

 AYCの熟成が急速に進み、恐ろしくよく曲がるエボが完成した。

 エボVIは99年1月発表。エンジンスペックには変更がないが主に冷却性能の向上が図られた。

 オイルジェットクーリングチャンネル付きピストンが採用されるほか、冷却水レイアウトの変更やオイルクーラーの大型化、ナンバープレートのオフセット配置など。またRSにチタンアルミ合金タービン(TD06HRA16G-10.5T)を採用した。

 タービンブレードの慣性力が50%低減し、ターボの吸気口径を58mmφから60mmφに拡大することでレスポンスを向上している。

 このチタンアルミ合金ターボの威力は絶大だった。ターボの効きだしが明確にわかるくらい素早く、ターボラグを意識しなくてもよいレベルまで熟成した。

 操縦性の面ではフロントのロールセンターを30mm下げたことで、ストリートユースでは荷重移動がしやすくなったがスポーツドライブやモータースポーツユースではロールの増大がデメリットとなった。

■世代を経るごとに洗練されていくエボシリーズ

1999年登場のランサーエボリューションVI。ここから足回りがさらに改良され、トミ・マキネンエディションの登場へと続く

 その足回りの問題を改良したのがエボVIトミー・マキネン仕様。ロールセンターを戻し、さらに車高を10mmダウンしターマック仕様が標準となった。

 エンジン回りではGSRにチタンアルミ合金ターボが標準装備(RSはオプション)となった。こちらのターボはTD05HRA-15GK2-10.5Tで、エボVI RSのものと比べるとコンプレッサーホイール径が小径化したことと翼形状の変更によってハイレスポンス化している。

 このほかターボコンプレッサーの改良によってGSRの最大トルクの発生回転数が3000rpmから2750rpmと低くなっている。

 2001年1月フルモデルチェンジしたランサーセレスをベースにエボVIIが登場した。ターボをメタルターボのTD05HR-16G6-9.8Tに変更。吸気系の改良によって吸気抵抗20%低減。最大トルクは39.0kgm/3500rpmに向上。RSはチタンアルミ合金TD05HRA-16G6-9.8T。

 エボVIIの剛性の高いボディに驚かされた。タイヤの様子やサスペンションの動きが逐一正確に伝わってくる。しかもACD、AYCによる4駆動制御機もはっきり感じることができた。あえて言えば、足回りが硬めでスイートスポットが狭い印象がある。

 エボVIIIは、アルミ製鋳造ピストンと鍛造構成コンロッドを採用。信頼性を向上させている。また、過給特性の見直しによって最大トルク40.0kgmを実現。ターボはGSRがメタルターボのTD06HR-16G6-9.8T、RSにチタンアルミ合金のTD05HRA-16G6-9.8Tを装備(GSRはオプション)。

 リヤ左右のトルク配分量を2倍にしたスーパーAYC (GSR)の採用によって、さらにぐいぐい曲がるようになった。このクルマにアンダーステアはあるのか? と思えるくらい曲がりやすかった。エンジンはいよいよパワー感、トルク感が骨太な印象になった。

 2004年、エボVIII MRはターボをTD05HR-16G6-10.5Tに変更したことで最大トルク40.8kgmを達成。

■WRC撤退とともに迎えた終焉

2006年登場のランサーエボリューションIX MR

 2005年に登場したエボIXで4G63はインテーク側に可変バルブタイミング機構を備えた4G63 MIVECへと進化した。

 RSとGTはタービンホイールがチタンアルミ合金、コンプレッサーホイールにマグネシウム合金のターボTD05HRA-16G6mC-10.5T、GSRは同じサイズのメタルタービンTD05HR-16G6-10.5Tに変更。RSとGTは最大トルク41.5kgm(GSRは40.8kgm)まで高めている。

 エンジンはMIVECの効果なのか、全域でレスポンスしてくれるものになった。RSにチタンアルミ合金+マグネシウムターボは、素晴らしくレスポンシブルで、風量のあるターボが素早く反応するところに不思議な感覚があった。

 そして4G63の最終型になるのがエボIX MRだ。GSR、RSいずれもチタンアルミ合金ターボで、型式はTD05HRA-155G6C-10.5T。コンプレッサーホイールの入り口径を小径することでレスポンスの向上を図っている。オプションでチタンアルミ+マグネシウム合金ターボも設定。

 エンジンは全域パワフルかつトルクフルだし、足回りはしなやかで懐が深いし、限界領域のコントロール性はすこぶるいいし、AYC、ACDはその恩恵をシリーズ中もっとも強く感じられる。

 このクルマならどんな場面でも早く確実に走ることができる、そんなふうに感じさせるまさにコンペティションマシンとしてのエボシリーズの集大成といったクルマでした。

 また、三菱は2005年12月にWRCからの撤退を発表。4G63もその進化の歴史にピリオドを打ったのだった。

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