国土交通省が3月17日に車検証のICカード化を2023年1月1日から実施するため、関連する法制度を改正すると発表しました。
そこで、そもそも車検制度とはどんなものか? もっとアメリカのように車検制度そのものをなくすべきではないのか? もっと簡素化するべきではないのか? さらにいえば、これを機に車検制度を見直すべきではないか?
今回は、車検証のICカード化を期に、車検制度そのものについてもの申す!
文/高根英幸
写真/国土交通省、Adobe Stock(トビラ:kumi@AdobeStock)
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■すでにデジタル化されている車検証
国土交通省が発表した車検証のICカード化は、2023年1月1日(軽自動車は2024年1月1日から)から紙の車検証ではなく、ICカードとするもの。
ようやく車検証もデジタルになるのか、と感じた読者諸兄もおられるかもしれないが、実際には紙だからアナログ、というのは思い込みですでに車検証の情報はデジタル化されており、QRコードにより管理されている。
QRコードで重量税の情報や車検の予約番号の確認なども行なっていることを先日、筆者はユーザー車検を受けて体験した。
ICカード化によりペーパーレスとなるだけでなく、ディーラーなどの指定工場(いわゆる民間車検場)は工場内の検査ラインで検査して合格したクルマの新しい車検証を陸運支局や検査登録事務所で発行してもらう必要がなくなり、ネット回線を利用してICカードを上書きしてもらえば済むことになる。
つまり今回の改正は行政機関が目指しているOSS(ワンストップサービス)の一環で、引っ越しに伴う手続きの煩雑さなどを解消させることに付随しているものの、実際に恩恵を受けるのは自動車整備業者、それも民間車検場くらいのものだ。
■車検はどんどん簡素化されている
先日、筆者はユーザー車検で自分のクルマの車検を取得したが、2年前と比べてさらに検査は簡素化されていると感じた。
具体的にはホイールナットの締め付けをチェックしていなかった。といっても柄の長いハンマーでホイールナットをコンコンと叩き、鈍い音がすれば緩んでいると判定するもので、以前から全車両で実施している印象はなかった。
それでも小型トラックも混じっての検査ラインでのことだから、これは車種によってはちょっと問題があるのでは、と思ったくらいだ。乗用車に比べて、ホイール回りの負担が大きいトラックは、大型トラックでホイールナットの緩みからボルト破断によるホイール脱落事故が問題になっているからだ。点検不足で小型トラックでも同様の事故が起こらないとも限らない。
また3月の中旬のことだったが、検査ラインは2つのコースしか使っていないなど、非常に空いている印象を受けた。陸運支局の事務所内もガラガラだった。
誘導員の男性によれば、「ここ十数年で一番の少なさ」らしい。これから年度末に向けて混んでくるのかもしれないが、クルマの流通量が減って、車検を受けるクルマも減っている印象だ。
クルマを検査する検査員も2年前と比べて、さらに減っていると感じた。検査自体もクルマを持ち込んだドライバーが検査ラインで操作するだけで検査が進められていくほど、現在の車検は自動化されているのである。
クルマのメンテナンスフリー化が進んでいて、2回目(初年度登録から5年目)の車検まで、オイル交換以外のメンテナンスはほとんど必要ない、というクルマも珍しくない。ディーラーのスピード車検での不正行為は、こうしたクルマの信頼性の高さ、メンテナンスフリー性がアダとなってしまったという面もあるなら皮肉なことだ。
しかしせっかく車検証がICカード化されるのであれば、より効率良く国民の負担を減らせるものへと車検制度を変えていく必要があるのではないだろうか。欧米など他の自動車先進国と日本の車検制度を比較して、この先の日本の車検制度のあるべき姿を考えてみよう。
■改造が日本よりも自由な米国にも車検制度はある
改造が自由(自己責任)と思われているが、州によっては排ガス検査だけは義務付けているところもある。米国50州のうち、車検が存在しないのは8州だけだ。そのほかの州はブレーキと排ガス検査だけなど、非常に簡素化されているところが多く、費用も数千円レベルで手軽に受けることができるものとなっている。
そのほか、欧州やオーストラリアなどでも車検制度は存在する。大抵は新車から3、4年は免除されており、そこから2年ごと(国によっては毎年)に検査を受けることが義務付けられている。
日本の車検は高いと思われているが、それは自賠責保険や重量税、24ヶ月の定期点検などを含んだ総費用のことで、検査手数料自体は海外と比べても安い(千数百円レベル)ものだ。
日本の車検では、さらに点検によって消耗した部品を交換すれば、総費用は20万円を超えることも珍しくない。そのため車検費用の見積もりを見て、新しいクルマへの買い替えを検討する(営業マンが勧めてくる)というのが、日本の自動車販売業の基本パターンなのだ。しかし平均車齢が伸びていることから、この戦術もユーザーにだんだん通用しなくなっている。クルマが壊れ難くなったのも、その一因だ。
自動車整備業界を支えてきた収益の柱だったが、EVが増えていくことで今後業界は先細りしていくし、整備士も人材不足で確保するのが大変になる。そのため検査行程を簡素化してユーザーの負担も減らすことが、自動車業界を活性化させて日本の産業界や経済を盛り上げることにつながるハズだ。
日本も納税は別にして、車検は車両の安全性と排ガスだけにして、残りは自己責任でもいいのではないだろうか。日本の車検制度がしっかりしているからこそ、ドライバーは何の不安もなく安心してクルマを乗り回せているというのは事実だが、ここまで車検を厳格にする必要性は薄れているとも思うのだ。
なぜなら海外で日本車の人気が高いのは、リーズナブルで壊れないから。それは車検制度が簡素なものでも、クルマの高い信頼性によって日常の移動を確保出来ていることで築き上げられたものだ。
それでも日本では、念を入れて点検整備して車検に通している、というのが実情だ。もちろん点検整備によって、クルマの問題点が判明して安全に走行できているという面もある。
ユーザー代行車検によって車検だけをパスしたクルマが異音を発しながら(大抵はブレーキパッドの限界か、ベルトテンショナーの不良)走行しているクルマを見かけることもあるから、そのあたりは街頭の警察官なども積極的に指導するなどの対策が必要だろう。
納税も車検の目的としては大きいから、マイナンバーカードとも紐付けることで車検証のICカードでもマイナンバーカードでも納税や確認ができるようになれば、ユーザーのメリットにはなりそうだ。
同じことは中古車についてもいえる。海外では中古車販売店というのはあまり存在せず、中古車は個人売買するのが常識で、中古車販売店は初心者や多忙な人向けにサービスを提供する業者で、それ故にボラれることもあって如何わしい職業と見られている地域も存在する。
それに対して日本は、中古車市場というものがしっかりと確立しており、品質や保証もしっかりとした中古車がディーラー系での販売店で用意されている。ユーザーも安心して購入して乗り回せる環境が整っているのが日本の中古車事情で、自己責任で売買し整備業者に依頼する欧米とはかなり感覚が異なるのだ。
■車検が大幅緩和された場合にデメリットはあるか
日本もアフターパーツの装着などカスタムに関しては、かなり規制緩和された印象だが、相変わらずの頭が固いと思えるような保安基準も存在している。
例えばマフラーの音量やウインドウフィルムなどを厳格に規制することの合理性が今一つ理解できない。国際基準化で統一されている、というのであれば日本独自の右ウインカーレバーはどうなるのだろう。
サイドウインドウに透明なUVと熱線カットをするフィルムを貼っていて、それが経年劣化で透過率75%を下回ったからといって、どんな実害が生じるというのだ。真っ黒なフィルムで覆ってしまうと、横断歩道や交差点で側面にいる歩行者やドライバーとの意思疎通ができないし、こちらの存在を認識しているかも分からない。いわゆるアイコンタクトができない、という危険性はある。
そんな極端なケースは路上で取り締まればいいのであるし、車両の改造だけでなく自分勝手な運転をしているドライバーは軽微な違反でも検挙するべきではないだろうか。
■逆に車検が簡素化された場合のデメリットを考えてみよう。
ドライバーは日常点検や走行中の異音、振動、異臭などに気付いたら、クルマをディーラーなどの修理工場に持ち込むことになる。それはJAFなどのロードサービスに頼ることにもなりそうだ。
現状でもロードサービスはかなりの出動件数があり、盆暮れや行楽のシーズンには稼働率が跳ね上がる。車検が簡素化されたら、この傾向はますます強まり、ロードサービスを依頼しても数時間待ちは当たり前の状況になる可能性がある。
そしてブレーキの制動力不足や、灯火類の整備不良が原因で交通事故が起こった場合、ドライバーにはより大きな賠償責任や刑事罰、行政処分が下されることになる。したがって、自分でクルマを点検やメンテナンスができないドライバーは、結局定期的な点検を整備士にしてもらう必要がより高くなるのだ。
それに車検を簡素化するといっても、廃車まで同じレベルの車検では問題が起こる可能性がある。欧米では車齢が10年前後を迎えた頃から、車検が短くなっている地域も多い。それでも日本の車検や24ヶ月点検と比べれば簡単な車検だが、日本でも車検の期間については見習う必要があるだろう。
実情に合った車検制度へと切り替えていくのは、ドライバーの意識も変えていく必要があり、なかなかひと筋縄ではいかないことになりそうだ。
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