メルセデスEQXX、世界最長航続距離樹立!メルセデスは電気自動車スタディモデルのEQXXで一気に1,008kmを走破した – TÜV(ドイツの独立検査機関)によって充電フラップが封印された状態で・・・。新技術の量産開始は2024年から!
メルセデスEQXXは最高速度140km/hで1000km以上走行可能
メルセデスは、「EQXX」で一気に1008キロメートルを走行してみせた。充電フラップがテープで封印された状態で、ジンデルフィンゲンからコートダジュールのカシスまで走り抜いた。ドイツからスイスを経て、イタリアからフランスまで11時間32分。平均速度87km/h、消費電力8.7kWh/100km。
これは100kmあたり約2.50ユーロで、現在の燃料費でいえば、ハイオク1リットルにほぼ匹敵する金額だ。結局、その時点でも、航続距離は140km以上残っていたとされ、本当なら驚愕の事実だ。
メルセデスEQXXは最高速度140km/hで1000km以上走行可能
2022年4月5日の記録走行では、気温摂氏5度のシュトゥットガルトでは雨が降り、ゴッタルドで渋滞が発生し、イタリアでは道路工事が多く、フランスでは晴れていたそうだ。
サポートカーとして連れ添っていた「EQS」はその間にも数回充電することができたが、テスト車である「EQXX」にそれは許されなかった。140km/hを超えるスピードは出せなかったが、出そうと思えば出すことはできた。想定されている最高速度は200km/h以上というものだ。
外観: EQXXは将来のEQを予見させるモデル
「ヴィジョンEQXX」は、視覚的にも非常に印象的で、エアロダイナミックなフォルムは車輪の上にエレガントに立ち、ある種の軽快さを与えている。ほぼクローズドなフロントには、もちろん「EQ」ファミリーを彷彿とさせるヘッドライトが装着され、メルセデスの次期ライトグラフィックを垣間見ることができる。
小さな吸気口はほとんど閉じられた状態で、必要なときだけ開けることができるようになっている。そして、サイドには、エアロダイナミクスに最適化されたホイールと、空気の乱れを最小限に抑えるように設計された専用タイヤが際立っている。
リトラクタブルドアハンドルは、メルセデスの「EQS」、「Sクラス」、「SL」に標準装備されているものだ。ミラーハウジングとガラスを一つの部品とし、「ポールスター」を彷彿とさせるとともに、エアロダイナミクスにも貢献している。リアでは、「EQXX」は視覚的に収束しているだけでなく、トレッドもフロントより狭くなっている。リアには格納式のディフューザーを採用し、適切な圧力比と、スムーズな流れを確保している。リアエンドは2015年のショーカー、「Concept IAA」を彷彿とさせるが、こちらはより実用的な印象だ。
エアロダイナミクス: EQXXは機能よりデザインが優先された
しかし、デザイン部門がクルマに取りかかることができたのは、2台目のスタディモデルからである。そして航空力学者の出番だった。彼らは「EQXX」のビジュアル開発以前から、車の多くの部分を定義していたのだ。そのため、ボディだけでなく、ホイールやタイヤも専用品を設計し、空気の流れをスムーズにする工夫が施された。
メルセデスは1978年に「C111 III」というテスト車両で、すでに0.18というCd値を達成していた。大きな違い: 「EQXX」は公道走行が可能で、ホイールアーチを必要としない。このスタディモデルにはシャーシナンバーも備わっていて、後に正規の登録番号で実際の条件下での実力を証明することもできるようになっている。
ドライブとバッテリー: EQXXの純電動航続距離は1,000km以上
「ヴィジョンEQXX」の100kWhバッテリーの重量は495kgで「EQS」に比べて1/3になっている。このバッテリーは、2800mmのホイールベース内に収まり、2024年から「EQXX」のコンパクトシリーズバージョンで量産される予定だ。
リアに搭載する最大150kW(204ps)の電動モーターは、開発者が社内のF1やフォーミュラEのレーシングチームからサポートを受けながら適合させた。効率は95%と言われている。また、動作電圧も900ボルト以上と異常に高い。バッテリーパックは「EQS」の半分の大きさで、30%軽量化されているが、容量はほぼ同じ約100kWhだ。
メルセデスは、セルサプライヤーであるCATL社と手を組み、電池セルに含まれるシリコンの比率を高めた。他の調整と合わせて、電池のエネルギー密度をほぼ2倍にすることができるのだ。100kWhの容量と10kWh/100kmを切る消費電力。このレシピなら、これまでディーゼル車にしかできなかった距離でさえも、BEVでも手が届きそうだ。
これはルーフにある117個の太陽電池によるもので、良好な条件下ではさらに25kmの航続距離が得られるとされている。車全体の消費電力を大雑把に換算すると、「EQXX」は初の1リッターカー電気自動車とさえ言えるだろう。
バイオニックキャスティング: 無駄なものを排除した高剛性構造
しかし、メルセデスのスタディモデルがこのような長大な航続距離を実現できるのは、駆動力やセルケミストリーだけの力ではない。「EQXX」は約1750kgと、電気自動車としては驚異的な軽さも実現しているのだ。それを実現したのが、メルセデスの技術者たちによる、新しいタイプの鋳造部品の製造方法だ。これは「バイオニックキャスティング」と呼ばれ、できるだけ少ない材料で、できるだけ頑丈な部品を作ることができる技術である。
キャストの要素は、実際にゲーム部門から来たソフトウェアによって完全に計算されている。その結果、どの部分でも同じ肉厚を持たない非常に美しい金型ができあがり、少なくともシミュレーションでは衝突試験にも耐えることができるようになっている。
「EQXX」では、フロントスプリングドーム、ワイパーモーターのマウント、リアカーストラクチャーにこの方法で開発された部品が使用されている。メルセデスでは、この技術はすでに量産されてはいるものの、まだ、「EQS」のリアシートベルトリトラクターマウントのような非常に小さな部品にしか使われていない。
インテリア: ビーガン素材と次のMBUXレベル
すべての非常に技術的な革新にもかかわらず、「EQXX」はまた、最高のショーカーマナーで、特に魅力的なインテリアを備えている。ここでは、動物性素材を一切使用しないビーガン(完全菜食)主義を貫いていて、代わりにサボテンやキノコの革、竹の繊維といった素材が使われている。
インテリアのハイライトは、車幅いっぱいに広がるダッシュボード内のモニターだ。インストルメントクラスターとインフォテインメントの画面を兼ねており、「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエキスペリエンス)」システムの近未来の方向性を示している。音声コントロールの「ヘイ メルセデス」は、「MBUX」の未来像では、より人間らしいキャラクターが与えられ、画面上にアニメーションで頭部を表示するようになり、音声出力も以前より本物の人間のように聞こえるようになっている。
また、ユーザーインターフェースもより多様化し、乗員のそれぞれのニーズに適応できるようにする予定だ。「EQXX」のすべての座席で適切な雰囲気が得られるように、座席のヘッドレストにスピーカーが設置されている。ドライバーがアクティベーションミュージックを聴いている間、助手席の人は同時に静かな音楽に身をゆだねながらリラックスすることができるようになっている。また、シート内のアクチュエーターは、音の体験を増幅させるか、警告のための触覚サポートを提供するように設計されている。特に長時間の移動では、より個性的なクルマになるはずだ。
今後の見通し: 自律走行で高まる快適性要求
これらの技術により、これまで電気自動車では考えられなかったような長距離の快適な移動が可能になる。技術的な要素だけでなく、インテリアのアメニティも正しくなければならない。今後は、自律走行も視野に入れた新たな要求がここに生まれることだろう。
結論:
航続距離への不安? メルセデスは「EQXX」で、e-mobilityが長距離をカバーできることを示し、そんな不安を払拭してみせた。これほどまでに、すぐに道路で見られるようなイノベーションを提供する研究は、めったにない。しかし、今回のEQXXの航続距離はすでに今年もっとも大きなクルマのハイライトの一つだ。
BEVにとって、やはり一番気になり、一番最初に出る質問が「この車の航続距離はどれくらい?」という部分だろう。どんなBEVでもそれは同じで、まだまだ内燃機関の車と同じように接することができない部分、それがこの航続距離の部分なのである。今回のメルセデスベンツ ヴィジョンEQXXは「エクスペリメンタルモデル」であり、市販されるモデルではない。空力特性だって、その制御だってまだまだ実験の域を出ないBEVではある。だから1000㎞を記録したことをどう考えるか、だが、ひとつはいよいよ1000㎞を走行できるBEVができました、というプロパガンダのアドバルーンととらえるか、それともこの技術は今後のメルセデスベンツに反映されるだろうから可能性に期待したいと考えるか、それはその人次第ではある。でも今回のレポートにも記されている通り、BEVで1000㎞を走ることができるようになった、という点は確かに大きなトピックになるだろう。
航続距離を気にすることだけにとらわれてはいけない、とはよく言われることだが、航続距離を気にせずに走り続けられること、それは自動車にとっての大きな可能性と実力を表す部分であることは間違えない。1回に1000㎞は走らないだろう、と言われてしまえばそれまでではあるが、自動車の可能性と未来を考えた時には、精神的になにも不安なく乗れることは非常に大切な部分なのである。
Text: Andreas Huber
加筆:大林晃平
Photo: Mercedes Benz AG