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5月12日付「西日本新聞」1面に、スクープ記事が掲載された。「ウイグル人口増加率  急減」との見出しで、ニュースサイト「西日本新聞me」で読むことができる。西日本新聞は福岡県を中心とした九州のブロック紙(地方紙)だが、ワシントン、北京、ソウル、バンコクなどにも海外支局を持つ。

zoomでのインタビューに応じる西日本新聞中国総局長の坂本信博記者。手にしているのは少数民族エリアの統計年鑑

新疆ウイグル自治区でウイグル族を対象にした人権弾圧が行われている疑いは長年指摘されていたが、中国政府は「西側のでっち上げ」と否定。記事では、少数民族が集まる地域で不妊処置件数が近年急増した結果、人口増加率が最大で約100分の1にまで急減していることを中国の中央政府や地方政府が公開してきた資料によって明らかにした。

政府当局などがすでに公開している資料(=オープンソース)を丹念に読み解くことで事実を明らかにする手法は「調査報道」の一つ。今回のスクープ記事は「調査報道」の典型と言えるが、どのように結実させたのか。記事を書いた西日本新聞中国総局長坂本信博記者に話を聞いた。

取材の糸口となったのは、北京赴任直後に現れた“謎の行商人”だったという。

2020年8月に中国に赴任し、9月から本格的に取材活動を始めました。ちょうどその時期、オフィスに突然行商の中高年男性がやってきて、図鑑や書籍を買わないかと言ってきたんです。中国人の助手に聞くと、毎年売りにきているとのことでした。

目に止まったのが『中国統計年鑑2020』という、国の統計資料をまとめた事典のような冊子。日本でいうなら、総務省の日本統計年鑑のようなイメージだ。

弊社は中国総局と言っても、記者は私1人で現地スタッフが2人というごく小規模なものです。任期は3年間の予定なので、限られた期間と人員で意義のある記事を書くには、日々の中国報道と並行して、ある程度テーマを絞って取材に取り組む必要があると考えました。

赴任前から外国人労働者問題など人権問題に対する関心が強く、マイノリティーの声を社会に届けることを自分のライフワークにしてきました。在日ウイグル人からも事前に証言を聞いていたので、中国ではウイグル問題に関して何か調査報道ができないかという思いが漠然とあったんです。

ウイグル自治区カシュガルの市場の光景(撮影:2011年 JordiStock /flickr)

統計資料をめくって目に止まったのが…

坂本記者はこれまで、玄海原発周辺で白血病が増加している疑いがあることをきっかけに白血病ウイルスが風土病として放置されてきた問題を報じたり、自衛隊のイラク派兵や在日米軍をめぐる問題などを情報公開請求を使った調査報道によって報じたりしてきた。統計年鑑のページをめくりながら、何かできそうだという感触をつかんだという。

まずは研究者向けの統計データサイトや古本販売サイト、ショッピングサイトで新疆ウイグル自治区に関係する過去の統計年鑑や個別の分野に特化した統計年鑑を取り寄せました。しました。

過去10年分ほどのさまざまな統計資料を集めてページをパラパラとめくっていって目に止まったのが保健衛生分野の統計資料の「家族計画」の箇所だった。

不妊手術など不妊処置件数に関する項目があり、ウイグル族への抑圧が強まったとされる2014年以降に着目してみていくと、件数があきらかに急増していることに気づいたんです。

統計年鑑は紙の資料で、学術サイトの資料もPDFの場合があった。データを分析するため、細かい数字を1つ1つエクセルシートに手入力していった。

量が膨大だったので土日も使いながら進めていきました。調査報道を手がけていることが当局に知られてはいけないので、本社とデータをやり取りするのも難しく、1人で黙々と進めていきました。絶対に数字を間違えてはいけないので、何度も確認したり、別の統計資料と照らし合わせたりする作業は特に苦労しました。それでも、1つの数字の向こうに1人の人間がいるのだと思いながら、作業を進めました。