株式会社ターンアラウンド研究所
西村健(代表取締役社長)
「チームが強くなればオーナーが外国人かどうかなんて関係ないのです」
サッカー、イングランド「プレミアリーグ」にあるマンチェスター・シティやチェルシーのファンの言葉です。ロシアやアラブの富豪が買収し、チームを強化し、劇的に変えてきました。サッカー界でも「ウィンブルドン化」が進んでいると言えます。
こうした動きはプレミアリーグの他のサッカーチームにも続いています。サッカーにおける「外資参入」がもたらしたようにグローバル化が経済を活性化することは事実のようです。
イギリスでは、スポーツに限らず、外資を迎え入れることによって経済を活性化することを積極的に推進してきました。
外資系企業の投資拡大は順調だが不十分
日本経済はどうでしょう。外資系企業によりイノベーションが日本にもたらされ競争が促進されることによって、経済全体の生産性向上が期待されています。
日本政府は2013年6月に閣議決定した日本再興戦略において、対日投資を2020年に35兆円に倍増(2012年末時点17.8兆円)することを掲げました。企業誘致、ビジネス環境や日本で働く外国人の生活環境の改善、協業する日本企業とのマッチング機会の提供などによって数字的には対日直接投資残高は39.7 兆円 となり、目標は達成され、昨年6月の「対日直接投資促進戦略」では、2030年における対日直接投資残高を80兆円へ倍増させるという目標を掲げています。
とはいえ、対日直接投資は額で見ても,GDP 比率で見ても,先進諸国と比べて非常に小さいことも事実なのです。
また、外国企業や外国人が行う国内企業への投資を制限する規制の総称である「外資規制」も気になります。事実、経済産業省が実施した「欧米アジアの外国企業の対日投資関心度調査」では、日本のビジネス環境の「弱み」として、事業規制の開放度の低さが指摘されています。
外資規制は、外為法と個別業法によるものの2つがあります。
後者は通信、放送、航空といった安全保障に関する産業では、日本電信電話株式会社等に関する法律、電波法、放送法、航空法、貨物利用運送事業法などが有名です。その他、武器、原子力、宇宙開発、エネルギー、上水道、石油、鉄道、路線バス、皮革、履物、農業、林業、水産業、警備業などの業界への規制も存在します。
前者では、2019年11月の臨時国会で成立した「改正外為法」が成立、「指定業種」が指定され10%以上の出資に対しては、政府への事前届出の対象となりました。もちろん経済安全保障の観点は大事なのですが、世界的なグローバル化の流れの中では「投資鎖国」状態に見えてしまいます。
外資参入がもたらす生産性向上
経済産業研究所の清田耕造氏のレポート「対日直接投資の論点と事実:1990年代以降の実証研究のサーベイ」では「対日直接投資が経済成長,あるいは生産性成長につながるかという点」について非常に興味のある視点を提示しています。ポイントは以下になります。
- 対内直接投資が経済成長につながるかどうかは,人的資本をいくら蓄積しているかに依存する
- 直接投資は,単なる資本の移動ではなく,様々な技術やノウハウのスピルオーバー(波及)を伴う
- 一橋大学の深尾京司らの研究によれば、対日直接投資が経済成長に及ぼす影響は外資系企業の売上シェアの10%ポイントの増加は GDP を 1.3%引き上げる効果がある
- 外国企業に出資される傾向にあるのは、社齢が若く,規模が大きく,研究開発に力を入れており,生産性が高い企業
- 直接投資は,単なる資本の移動ではなく,知識や経営やノウハウ技術の波及(スピルオーバー)を伴い、知識や経営ノウハウは中長期的には外資を受けた企業だけでなく,他の日本企業へと波及し,日本企業の生産性向上につながっていくかもしれない
といった指摘です。
外資の参入することによって経済のパイを大きくすることを期待するのは自然な考えですし、生産性の低さを底上げするのにも、外資系企業の参入は役に立つかもしれないという主張ですね。
なので、外資系企業は日本企業よりも生産性が高いので、
- 人的資本の蓄積を図る:ISO30414を参照に
- 外資に出資してもらう
- 経営改革を後押ししてもらう
- 経営改革やイノベーション、人材投資と人財育成で生産性向上
という取り組みを進めていくべきでしょう。
改めて詳しく見てみると、他の先進国に比べた日本の生産性の低さはかなりのものです。
労働生産性とは、分子が付加価値、そして分母が労働投入量、すなわち「実際に働いた常勤換算した就業者数」と「平均労働時間」を掛け合わせたマン×アワーベースの数値であり、この分母についての「能率」、「効率」が良くないということになります。
この低さの要因にはいろいろと議論がありますが、現在の日本の経済停滞の要因が詰まっているような気がします。
外資企業のイノベーションから学ぶ
高度経済成長の後に、企業が世界的なサービスを開発できず、電気製品などは新興国に追いつかれ、どうにもいかなくなったというのが失われた30年の結果だったともいます。バブル崩壊などが言われていますが、やはり、グローバル市場が求める、付加価値の高い製品・サービス・事業開発ができなかったことに経済停滞の原因があるでしょう。
個人的には高度成長の手法が通用しなくなった時に、イノベーションが起こせなかった理由はひとえに人材育成面での要因が大いにあると思っています。外資系企業をもっともっと参入してもらうために、人的資本の蓄積をする、外資系企業の参入や経営への参画を加速し、生産性をあげてもらう、外資系企業の商品・サービス開発から学ぶ、そして、人材育成施策を外資系企業から学ぶしかないでしょう。そこが出発点ではないでしょうか。
次回は小寺昇二さんによる「人材投資」についてターンアラウンドの視点を語ってもらいます。