| ボクは常々、400シリーズは「フロントV12エンジンモデル」としてもっと高く評価されてもいいのではと考えていたが |
最近は「値上がりしていないフェラーリ」を探すことのほうが難しい
フェラーリの人気モデルはやはり「ミドシップ2シーター」であり、フロントエンジンモデルはそれに比較するとやや影の薄い存在です。
さらに、フロントエンジンに2+2となるともっと存在感が希薄になってしまうのですが、ここ最近はちょっとした異変が起きているもよう。
そしてその異変とは、「もっとも不格好なフェラーリ」として長年軽んじられてきたフェラーリ400系の価格高騰であり、今回 eBayにて14万2500ドル(日本円で1832万円)で販売されているフェラーリ412iがその現象を端的に表していると言えるかもしれません。
なぜフェラーリ400系は不人気だったのか?
なお、フェラーリ400系の元祖は365GT4 2+2(1971年)にまで遡ることができ、これはデイトナ(365GTB/4)と同じ4.4リッターV12エンジンを搭載する2ドアクーペで、2+2というシートレイアウトを持っています。
ちょうどこの時期、フェラーリは60年代~70年代初期特有であった「(ディーノのような)美しい曲線を描く」ボディ形状から、のちの348やF355に繋がる「角張った、そして平面を使用した」デザインへと移り変わっており、この365GT4 2+2もそういった”先駆的な”一台。※デザインはピニンファリーナが担当している
なお、デザイン的には当時からあまり評価が高くなかったようですが(しかしぼくは美しいと思う)、V12エンジン搭載スポーツモデルがデイトナからミドシップの365BBへとスイッチしたため、結果的に「フェラーリでただひとつ残されたフロントにV12エンジンを積むモデル」となってしまい、そこで延命が図られたのか、1976年には「400GT / 400オートマチック」へとモデルチェンジを果たします。
これはその名の通りオートマチック・トランスミッション(GM製の3速AT)を搭載していて、特筆すべきはフェラーリとしては初のAT搭載車であったこと。
この400オートマチックはフェラーリへと新規顧客を呼び込むことに成功したといい、さらに1979年にはインジェクションを採用した400GTi / 400オートマチックiへとバージョンアップ。
その後1985年には512BBと同じ5リッターV12エンジンを搭載した412が登場し、こちらは(フェラーリとしては)初めてABSを搭載したモデルとなっていて、1989年まで生産が続けられています。※「412」は1気筒あたりの排気量が412ccに近かったため
こうやって見ると、なんだかんだで(365GT 2+2から数えると)17年という長い期間に渡って製造されることとなっていますが、やはり「唯一のフロントV12モデル」というところ、そしてATや先進機能を搭載して「乗りやすいフェラーリ」として多くの人に門戸を開いたことが大きく関係していたのだと思われます。
いずれにせよ、生産期間の長さ、そしてフェラーリを「より親しみやすい」ブランドに変化させたという意味で400シリーズの功績は大きく、よって「失敗」と断じることはできないと考えており、しかし一般にフェラーリというと「F1」「ピュアスポーツ」といったイメージがあるため、この「フロントエンジン」「2+2」といったところが敬遠され、中古市場でも大きく価値を下げることになったのかもしれませんね。
ただし400シリーズには思わぬ用途があった
ただ、「中古市場で大きく価値を下げた」ことから思わぬ需要が発生していたといい、それは「250GTOのレプリカベースとしての需要」。
250GTOは、フェラーリが1962年から1964年にかけて36台を製造したレーシングカーで、「もっとも高額なクラシックカー」の一台としても知られます。
これはフロントにV12エンジンを搭載するフェラーリのレーシングカーとしてはほぼ最後の世代にあたるもので、その相場「数十億円」という高額さからとても手を出すことができず、そして仮に手に入れることができたとしても、歴史的な価値が非常に高いこのクルマを乗り回すわけにもゆかず、よって多数のフェラーリコレクターが「(通常のレプリカより)価格が高くなってもいいので、フェラーリベースで250GTOのレプリカを作りたい」と考えるようになり、そこでビルダーがレプリカベースとして白羽の矢を立てたのが「400シリーズ」、そして中でも最終型であり信頼性の高い412だったようですね。
なお、フェラーリ250GTOのボディサイズは全長4325ミリ、全幅1600ミリ、全高1210ミリ、それに対して412は全長4810ミリ、全幅1798ミリ、全高1314と「ひとまわりくらい」差異があるものの、「フェラーリ製のV12エンジンをフロントに積む」という代えがたい共通項があったため、中古市場に出ている412の少なくない台数が250GTOのレプリカに改装された、とも言われています(さらには250GTOだけではなく、250SWB、250 GTカリフォルニアなどのレプリカベースにもなったという)。
ただし最近は(今回販売されている個体のように)コンディションが良ければかなりの値を付ける例も少なくはなく、ようやく「フェラーリらしいとは言えなかったが、フェラーリの新しい時代を切り拓き続けてきた」という事実が評価されたのだとも考えられ、208や308、328といったモデルとともに近年大きく価格を上げるといった現象が続いています。
なお、モンディアル系と同じく、この400系のみに絞って収集するフェラーリコレクターもいるといい(たしかにモンディアルのコレクターは知り合いに一人いる)、今後さらに価値を上げることになるのかもしれません。
今回販売されているフェラーリ412を紹介する動画はこちら
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