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日本郵便が今週17日、送り先の氏名を知らなくても住所だけで、はがきなどを送れるサービス「特別あて所配達郵便」を6月21日から導入すると発表したことにネット上は不穏な空気が流れようとしている。主にNHKの受信料徴収の督促に利用されることから、NHKの経営合理化を求める人たちの疑念を招くだけでなく、いまの郵政の経営が抱える矛盾も透けて見えるからだ。

撮影:winhorse /iStock:SAKISIRU編集部

発端は当時の武田総務相

「特別あて所配達郵便」は、昨年6月から試験導入されていたが、年間1000通以上を利用条件に今回本格導入となる。試験導入のその発端となったのは、当時の武田良太総務相だ。

武田良太氏(官邸サイト)

武田総務相は、一昨年12月19日に出演したテレビ西日本(福岡県)の報道番組で、「せっかくある郵便局のネットワークを有効活用することで、NHK受信料徴収の経費削減につなげる」と述べた。さらに、一昨年12月21日に行われた大臣記者会見でも次のように述べていた。

(NHKの)営業経費があまりに膨らんでいることが問題視されている。これを解決する一つのアイデアとして2万4000局に渡るユニバーサルサービスが展開されている郵便局のノウハウ、力を受信料の徴収に生かすことができないか。実務担当者同士で研究してもらいたい。このように私から言っているところだ。もう数回にわたって、いろいろな会議がされているみたいだ。結論を待って、次の進め方を考えていきたい。

この発言が出た当初は、郵便局員にNHKの受信料を徴収させるのかと大反発が起き、週刊現代(2021年1月9日)は『現場は大パニックに…武田総務相が放った、NHK受信料の「郵便局員が徴収」発言』という記事を掲載した。記事では、「かんぽ生命の営業で過酷なノルマを強いられ、顧客を騙す手口が問題になったばかりなのに、今度はカネ集めだなんて。ここまで本来の業務から離れた指示が降りてくるとは」といった日本郵政関係者の声が紹介されていた。

今のところこれは実現していないが、代わりに出たのが今回の「特別あて所配達郵便」だ。しかし、このサービス、本当に総務省と日本郵政のエリート達が集まって会議したうえで決めたものなのか。こうした疑問が出るくらい酷いものだと言わざるを得ない。

問題点ばかりの新サービス

そもそも、自分の名前が記載されていない郵便物を開封する人がどれくらいいるのか。たとえいたとしても、それをもって受信料を支払う人はどれくらいいると見積もっているのか。開封されない手紙やはがきは紙資源の無駄でしかない。SDGsに逆行している。

さらに、対象は定形郵便物と通常はがき、往復はがきだが、このサービスを利用するにはいずれも150円の料金が上乗せされる。NHKの発表では、2021年の事業所を除いた全国の平均支払い率は80.3%だった。国勢調査によると、2020年の日本の世帯数は約5583万世帯のため、単純計算すると受信料不払い世帯は1000万世帯以上と推計できる。

仮に、この1000万世帯すべてに、「特別あて所配達郵便」を利用して通常はがきで受信料の督促をした場合、料金は「63円+150円」で1通213円。総額21億3000万円かかる計算になる。これだけの経費をかけて、いったいいくらの受信料が徴収できるとNHKは目論んでいるのか。

それに、この経費の原資はもちろん受信料だ。民間であれば、新しい施策を行うときには必ず費用対効果を計算するはずだが、NHKはきちんと計算したのだろうか。

davidf /iStock(一部画像加工)

詐欺の温床危惧、郵政支援の国策?

さらに、このサービスが詐欺の温床になる可能性も否定できない。名前が分からなくてもはがきを送れるため、たとえば、アマゾンや楽天市場を騙った詐欺師がこのサービスを利用して、片っ端から詐欺のはがきを出すかもしれない。はがきに「アマゾンの利用料が未納になっている」と記載されていれば、100人に2~3人くらい、本当に支払ってしまう人が出てくる可能性もあるだろう。

日本郵便が導入する新サービスは、経費的にも、資源的にも、さらに犯罪抑止の観点からも問題点ばかりに思える。そもそも、NHKが受信料を徴収するための営業経費に苦慮しているのであれば、料金を支払った人だけが放送を視聴できる「スクランブル放送」を導入すればいいだけだと素人目には思えるが、なにか不都合でもあるのだろうか。スクランブル放送になれば、受信料徴収に関する営業経費は、ほぼかからないだろう。

数々の問題や懸念が誰でも簡単に思いつくレベルのこの新サービス。まさか、経営状況が苦しい日本郵政を助けるためだけの国策ではないか――。そんな邪推をしてしまう人は、多いのではないだろうか。