もっと詳しく

 旭化成はウイルスなどを不活性化する効果のある殺菌用の深紫外線LEDを新たな収益源に育てる。2022年4月に深紫外線LEDを扱う「UVCプロジェクト」を事業本部へと移管。新型コロナ禍で目に見えないウイルスや菌への衛生意識が高まるなか、顧客との二人三脚による「市場創出型」の手法で空気やモノの表面、水の殺菌用光源の需要を開拓する。25年以降の早い段階で売上高100億円規模の事業を目指す。 22年4月、UVCプロジェクトを新事業の創出を担うマーケティング&イノベーション(M&I)本部(4月にM&Iセンターへ改称)から、深紫外線LEDとの親和性が高い電子部品・材料などが集まるライフイノベーション事業本部に移管。M&I本部傘下での助走期間を経て「事業として独り立ちする」(UVCプロジェクトの中嶋健太プロジェクト長)段階に入る。

 旭化成の殺菌用深紫外線LED「Klaran(クララン)」はウイルスや菌の不活性化効果の高い260ナノ(10億分の1)~270ナノメートルの光を高出力で出すことができる。高出力化のカギが結晶性の高い窒化アルミニウム基板と、基板上に発光層の薄膜を形成する技術。発光出力は最大80ミリ~100ミリワットと世界最高レベルで、両技術の磨き上げにより100ミリワット超の製品も生産可能な段階に来ているという。

 昨年11月には新製品「クラランLA」の発売を始めた。空気やモノの表面殺菌用途向けに高出力と長寿命を高い水準で両立させた製品で、500ミリアンペアの電流を流した際の寿命は1万時間以上と現行品(同WD)に比べて3倍強高い。

 深紫外線LEDを最終商品に組み込んだ際に高い殺菌能力を発揮し、寿命をより延ばすには、照射位置や流量などに対する個数、放熱対策などトータルの設計が重要になる。

 <デザインインに力>
 このために旭化成が力を注ぐ活動が「デザインイン」だ。顧客の商品設計の段階から入り込んで共同開発し、科学的知見の蓄積・提供、使い勝手の良いモジュール製品の開発なども含めて顧客の商品開発を支援する。こうした活動の一環で、最近では空気清浄機やエアコンなどに組み込んで使える空気、モノの殺菌用途向けモジュール「クラランLE」も投入した。

 <コロナで市場拡大>
 これまでニッチ市場だった深紫外線LEDに光が差し込んでいる背景に、新型コロナ禍にともなう衛生意識の高まりも関係する。調査会社の富士経済は、LEDを含む空気・表面殺菌用の深紫外線光源市場が25年に1342億円と、新型コロナ前の19年比で44倍以上に拡大すると予測する。

 中嶋プロジェクト長は「(新型コロナ禍で)一緒にマーケットを創って行けそうな方々が深紫外線LEDに着目している。顧客のものづくりを支援し、その商品がマーケットから価値を認めてもらうことで、深紫外線LEDを殺菌市場で定着させたい」と語る。

 これまでの活動が実を結び、昨年4月にダイキン工業が発売した空気清浄機に深紫外線LEDが採用された。ダイキン独自の空気清浄技術「ストリーマ」と、旭化成の深紫外線LEDを組み合わせてウイルスや菌の抑制効果を高めており、昨年末には商品ラインアップを拡充した。それ以外にも、室内の空気をかき混ぜる天井のシーリングファン、業務用エアコン、ビル空調などでも採用、検討が進んでいるという。

 深紫外線LEDによる空気やモノの表面殺菌の適用先として、オフィスや居住空間など閉じられた空間が有効とみる。例えばビル空調の場合、新型コロナ対策で有効とされる換気と同等の殺菌能力を持たせるLEDの個数、設置場所、冷暖房効果などを検証した上で、ビルの貸し手や入居者に付加価値が提供できるかを顧客の空調メーカーと一緒になって検討、提案する。普及には用途やアプリケーションだけでなく、マネタイズできる道を探るところまでが求められる。

 <車内空間向け開拓>
 中長期的な有望分野として、自動車の室内空間にも着目する。室内の空気をきれいにする用途のほか、不特定多数の人が利用するカーシェアリングやレンタカーなどで人が触れる部分の表面殺菌といった用途を想定する。一方で車載部品には高温低温下での動作性など厳しい品質要求が求められることから、車載用途で必要となる性能や品質、品質保証体制などを今後検討していく。

 深紫外線LEDの市場開拓は飲料水など水の殺菌用途が先行してきた。新型コロナ禍によるオフィスや飲食店需要の減退にともないウォーターサーバーや給水器などを手掛ける企業の商品開発が停滞したが、経済活動の再開やウイズコロナ時代を見据えて昨年末から活発化しているという。

 水の殺菌用途として深紫外線LEDは電源を入れると瞬時に発光し、数十秒~分単位を要する水銀ランプに比べて省エネ化できる。光源の交換頻度が計算しやすくメンテナンス作業が平準化できることや、有害物質の水銀を使わないなどの利点もある。海外大手メーカー商品の水銀ランプ置き換えで、22年度後半から量産出荷が始まる見通しだ。

 旭化成では米子会社クリスタルIS(ニューヨーク州)が手掛ける窒化アルミニウム基板をベースに、富士支社(静岡県富士市)で深紫外線LEDを生産する。すでに25年頃までの需要に対応できる生産体制は整備済みだ。深紫外線LEDの競争力強化に向けて、クリスタルISでは現行で2インチ(約50ミリ)の基板サイズを4インチ(約100ミリ)まで大口径化する技術開発に取り組んでいる。24年までに技術的なめどをつける。

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

新型コロナウイルス関連記事一覧へ

セミナーイベント情報はこちら

The post 旭化成、コロナで殺菌用深紫外線LEDに脚光 first appeared on 化学工業日報.