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 ロシアのウクライナ侵攻でドイツ化学企業の先行きに暗雲が漂い始めた。2022年第1四半期(1~3月期)は多くの企業が良好な業績を計上した。「22年は良いスタートを切った」(マーティン・ブルーダーミュラーBASF会長)というのが、おおむね各社に共通した評価だ。厳しさを増す事業環境の下でも、通年の業績見通しを維持する企業も多い。しかしウクライナにおける戦争によって、懸念を払拭できない状況が続いているのである。

 天然ガスの供給不安、エネルギーや原料価格の高騰、不透明な需要動向などが懸念材料になっている。とくに天然ガスの供給不安に対しては、ロシア産の輸入禁止を想定したシナリオを描く企業が少なくない。ランクセスはその一社で、ライン川下流地域のドルマーゲン、レバクーゼン、クレフェルト・ユルディンゲンにおける生産活動に影響が出ると推測している。

 同社によれば、プラントは減産を余儀なくされるだけでなく、生産活動を取りやめざるを得なくなる可能性さえあるという。EBITDA(金利・税・減価償却費計上前利益)への直接的な影響は年間8000万~1億2000万ユーロ(約109億8000万~164億8000万円)に達するというから、業績への打撃も大きい。

 BASFはドイツで天然ガスのアロケーションが迫られた場合、エネルギー集約型、あるいは原料として天然ガスを大量に用いる製品の生産を削減することになるとしており、アンモニアを有力な候補に挙げている。さらにルートヴィッヒスハーフェンのフェアブント(統合生産拠点)への天然ガスの供給が必要量の50%を下回れば、生産活動を停止する可能性も示唆している。これが現実になれば、同社だけでなく、多種の化学品市場に多大な影響が及ぶことは間違いないだろう。

 即効性のある有効な対策を見出すことは難しいが、年次株主総会に先だってコベストロが公開したマーカス・スタイレマンCEO(最高経営責任者)のスピーチ原稿にあるように「一つだけはっきりしているのは化石原料全般、とくにロシアの天然ガスへの依存度を下げなければならないこと」である。

 同時にスタイレマンCEOは「ウクライナにおける戦争は、私たちが新しい技術で協力しなければならないことを明確に示している。これが化石原料への依存を永遠に終わらせることができる唯一の方法」と強調した。長く険しい道のりになるだろうが、協力の輪が広がり、化石原料に依存しない産業基盤の構築につながることを強く願う。

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The post 【社説】先行きに暗雲漂い始めた独化学企業 first appeared on 化学工業日報.