抜きつ抜かれつのライバル関係にある5ナンバーサイズのコンパクトミニバン、ホンダ「フリード」とトヨタ「シエンタ」。フリードの現行モデルは2016年9月にデビューした2代目、シエンタの現行モデルは2015年7月にデビューした、こちらも2代目だ。
ガソリン、ハイブリッドといった車両構成もほぼ同じ。2021年は、販売台数でかろうじてフリードが勝利しているが、シエンタの新型登場を控える2022年は、どうなるのか全く分からない状況だ。
フリードとシエンタ、それぞれの長所と短所を見出し、どちらが魅力的なのか、ガチンコ勝負をしてみようと思う。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA、HONDA
新型登場のたびに、形勢逆転を繰り返してきた2台
フリードの前身であるモビリオと、初代シエンタの激戦が繰り広げられていた2004年~2008年。当時は、後発であるシエンタの方が優勢であったが、2008年5月にモビリオが廃止となり、後継車として初代フリードが登場すると一気に流れが変わり、そこから2014年まではフリードが優位に。
その後、2015年7月に2代目シエンタが登場すると、シエンタが再び優勢となるが、2016年9月の2代目フリードの登場で、2017年はフリードが勝利。2018年から2020年は再びシエンタが優勢となるが、2021年はフリードが逆転、2022年は1~3月の集計で、シエンタが13,287台、フリードが24,776台と、フリード優勢という状況だ。
現行シエンタは、登場から6年目を超えており、そろそろフルモデルチェンジのタイミング。フリードも2023年にはフルモデルチェンジのタイミングだ。
需要への対応力が魅力のシエンタ、一方で新型でも解消が難しい短所も
シエンタの長所は、コストパフォーマンスに加えて、流行をいち早くキャッチアップして需要に応えているところだ。昨今のキャンプブームをいち早くキャッチし、2018年9月マイナーチェンジで、アウトドアグッズをたくさん積むことができるよう、3列目を取り払った2列シート5人乗りグレードの「FUNBASE(ファンベース)」を追加。
さらに2019年10月には、特別仕様車「GLAMPER(グランパー)」を追加。ドアミラーやホイールなどをブラックで統一し、さらにイメージをアウトドアに向ける方向へシフトさせ、キャンプ好きの若者たちのニーズに応えた。この特別仕様車の効果はバツグンで、2019年のシエンタの販売台数は、前年に対し18%も伸び、フリードを再び突き放した。
一方の短所は、若干女性向けの内外装デザインと、ハイブリッド車の静粛性の低さだ。前述の特別仕様車のようにボディカラーやホイールを変更しても、丸みのあるエクステリアやインパネなど、シエンタがもつ「明るく楽しいイメージ」は覆せていない。男性からすれば一人で運転するにはいささか気恥ずかしい、といった面があったそうだ。
この点については、おそらく次期型で改善されてくるだろうが、もうひとつの短所である静粛性の低さについては、解消が難しいと予測される。
シエンタのハイブリッド車は一般道を流している分には非常に静かなのだが、加速のためにアクセルペダルを踏み込むと、急にエンジンが存在感を表しだし、静動の差がありすぎるせいもあって、ひと際うるさく感じる。現行シエンタ同様、新型シエンタでも、おそらく新型アクアの小型プラットフォーム(バイポーラバッテリー含む)が共用となると思われるが、新型アクアでもその課題は解消されていなかったことを考えると、ハイブリッド車の静粛性は、新型シエンタでも期待はできない。
音振ノイズ対策は、ある程度のコストをかければできることだが、シエンタのような低価格コンパクトカーだと、対策コストを捻出するよりも、コストダウンにかける情熱の方が高い。どこまで解消されるかは不明だが、折角の良いプラットフォームなのに、音振で損をしてしまうのは非常にもったいない。
クルマとしての完成度が高いフリード、ただ荷室には課題も
軽自動車を除くと、ホンダのラインアップで最も売れているフリード。シリーズ累計で国内累計販売台数が100万台を突破したという(2021年6月時点)のは非常に凄いことだ。
フリードと2列シート車のフリード+は、2019年の10月に行われたマイナーチェンジで、エクステリアにクロスオーバースタイルのテイストを持たせたモデル、「CROSSTAR(クロスター)」を新設定している。
フロントグリルとバンパー、サイドシルガーニッシュ、リアロアスポイラー、ルーフレール、専用アルミホイールなど、標準モデルと異なる専用エクステリアが与えられ、アウトドアをイメージさせるデザインに寄せてはいるが、「アウトドア風味」といったところ。シエンタの徹底ぶりに比べると、実にささやかな変更だ。
フリードの長所は、スタイリッシュな男らしさと、アクセルオンの時の静粛性だ。「キッ」とつり上がったアイラインやフロントグリル形状、直線基調のサイドラインなど、かつてラインアップされていたストリームや、マイチェン後のオデッセイのような「クール&ワイルド」なデザインを踏襲。木目調のダッシュボードや、シートの素材、インパネやセンターコンソールに使われている材料の質感がシエンタと比べると遥かに高く、ワングレード上のクルマのような内装となっている。
車内も広く、視界のよさや使い勝手、シートレイアウトもいい(6人乗りのセカンドキャプテンシートが良いという声が多い)。フリードに限らず、ホンダのコンパクトカーのインテリアは、質感が非常に高い。
フリードには、1.5リッター直4ガソリンエンジンとCVT、もしくは、1.5リッターエンジン&1モーター+7速DCTのハイブリッドの2パターンが用意されているが、シエンタのような「ガーガー」というエンジン音ではなく、非常に心地よい音質に感じる。安心のホンダセンシングに後方誤発進抑制機能も追加されて、全タイプに標準装備にもなっているなど、クルマとしての完成度が高い。
そんなフリードだが、やはり短所はある。それはバリエーションの少なさ、3列目シートを跳ね上げ格納した時の荷室狭さの2つだ。現行フリードには、前述したフリードクロスターや、熟練エンジニアが磨き上げた走りの良さを打ち出した「フリードModulo X」がラインアップされてはいるのだが、どれもベースとなるフリードとたいして変わらないエクステリアデザイン。クロスターをもう少しチャレンジしてしてもよかったようにも思うが、冒険をしなかったのは、やや残念なところだ。
そしてもう1点、フリードは、低床構造に拘った結果(確かにリアの開口部地上高480mmはダントツ低いのだが)、3列目シートをサイドへ跳ね上げて格納するタイプとなっており、荷室スペースが狭い。ヴェゼルのように、2列目シートを床下にすっぽりと格納する技術をホンダは持ち合わせているはず(むしろ得意なはず)。
2列シート車だと、3列目がないぶん、ぽっかりと大きな空間が空くのだが、3列目があってこそのコンパクトミニバンだけに、多くの方が3列シート車を購入しているとのこと。ユーザーのなかには、3列目シートを格納しても、たいして荷室エリアをつくれない、と苦労されている方がいるようだ。
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新型シエンタは、今夏には発売開始となる予定だ。そしてそれを受け止めるフリードもまた、2023年にはフルモデルチェンジとなる見込み。強力なライバル関係の2者が、この先もライバル関係を続けられるのか、それとも、どちらかが圧倒的な強さを持つことになるのか、このコンパクトミニバン2台の動向からは目が離せない。
【画像ギャラリー】次期型で王座奪還を目指すトヨタ「シエンタ」と、ライバルのホンダ「フリード」(32枚)画像ギャラリー投稿 令和のエース対決!! シエンタ対フリード 仁義なき戦いとそれぞれの魅力&長所と短所 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。