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ロシア軍の侵略に対し、戦力の劣るウクライナ軍がドローンを駆使して撃破した戦況が明らかになって以来、日本でも戦場の「ゲームチェンジ」が進んだとの受け止めが広がる。

これまで「ドローン軍後進国」だった日本も遅ればせながら、今年度予算でドローンの関連経費を増やし、本格的に対応し始めた。その中身を分析してみた。(文・蓮見皇志郎、監修・部谷直亮、構成・SAKISIRU編集部)

ドローンでの地上攻撃(※画像はイメージです。Naeblys /iStock)

世界に遅れ、自衛隊ドローンの欠陥

まずは近年のドローンの活躍ぶりのおさらいだ。2009年にアメリカ軍がMQ-1 偵察攻撃ドローンでタリバンの指導者が殺害され、2020年のナゴルノカラバフ戦争では正規軍同士の戦いで自爆ドローンが使用されるなど、世界各地でドローンの運用や開発が進んでいる。

日本のお隣、中国では歩兵部隊に偵察用にDJI製の民生ドローンの配備、WZ-7偵察ドローンが先行して後方の戦闘機部隊に情報を送るといった演習の実施、対空ミサイル/対地ミサイル/対艦ミサイルを搭載可能な「雲影」ステルス戦闘ドローンを開発するなど世界で一番ドローンの運用や開発に熱心だ。

近年陸自で導入されるドローン(陸自第8普通科連隊HP)

一方、日本の自衛隊ではヘリコプター型偵察ドローンである遠隔操縦観測システム、小型偵察ドローンのスキャンイーグル、カナダ製の民用偵察ドローンのスカイレンジャー、広域監視用のRQ-4を採用している。

しかし、自衛隊のドローン調達においては、①攻撃能力を持たない、②機体と種類が少なすぎるためにドローンを使った任務の範囲と可能性が限定されるといった致命的な欠陥を持っていた。

この欠陥は、日中軍が有するドローンの役割を比較すれば、一目瞭然だ。 

このように自衛隊と中国軍のドローン運用で大きな差が発生している。中国軍が多種多様な偵察ドローン、上空から精密攻撃ができるドローンなどを持ち合わせている。簡略化した図解では書ききれてないが、自衛隊が持ち合わせていない輸送では演習で前線の兵士に弾薬や暖かい食事を届ける能力も見せつけた。

これに対し、自衛隊は数種類の偵察ドローンしか持ち合わせておらず、しかもその数は限定的だ。将来想定される南西諸島有事で駆けつけた自衛隊が中国軍部隊の位置さえも探知できず一方的に中国軍のドローンやその情報をもとにした攻撃で撃破される可能性がある。 

巻き返しを図る防衛省・自衛隊

しかし防衛省はこうした問題を座視していなかった。近年の情勢を受けてドローンの調査や開発を令和4年度から本格的に開始する。

令和4年度防衛力強化の予算概要を元に、紹介しよう。

滞空型無人航空機の試験的運用 (47億円)

海上自衛隊の任務への適用性、ドローンとの連携による有人機の搭乗員の負担軽減の効果の調査と試験を行う。広域の洋上監視を目的とする。

アメリカ海軍ではMQ-4C監視ドローンの配備を初めた。MQ-4Cが発見した目標にP-8有人海上哨戒機が駆けつける。といった運用をすることで、飛ばす有人機を少なくできるので搭乗員や整備などの負担軽減をすることができる。

また海上自衛隊が運用しているP-1は連続で飛行可能な時間が10時間(推定)に対して、MQ-4Cは24時間飛行できるため、常時継続的な洋上監視が可能だ。

艦載型無人航空機(小型)に関する研究(性能試験)(6億円)

海上自衛隊で艦上運用可能な監視ドローンの試験運用。護衛艦の周辺の監視、またはそれに加えて機雷探知や電波などの情報収集を目的とする。

こうした艦載ドローンは既に各国で主流になりつつある。タイ海軍では飛行機型の垂直に離着陸できるドローン「Marcus-B」のテストを行った。このドローンは軍艦周辺の監視を目的としており、最大航続距離が160~180km最大飛行時間を2時間という性能を有している。

ちなみに、民生品であるDJI製の操縦装置やPanasonicのタフブック、飛行ルート設定にフリーソフトを用いるなどして、一機あたり4150万円という低価格を実現した。

(参照:部谷直亮氏「中国どころかタイにも遅れる自衛隊のドローン軍備、日本の“軍事後進国”化を憂う」SAKISIRU 1月4日)

アメリカ海軍では、ヘリ型ドローンである「MQ-8C」を運用し初め、この機体は輸送、偵察、情報収集、攻撃誘導など味方艦への支援ができる。

また中国海軍でも過去に「AR-500B」という同様の機体をテストし、今後導入する可能性がある。

イギリスでは軍需企業のBAE Systems社とドローン企業のMalloy Aeronautics社が艦載出来る「T-650」というドローンを共同開発している。このドローンは最高速度140km、最大積載量300kmという性能を有し、偵察や輸送の他にも、魚雷を搭載して敵潜水艦への攻撃や民間船舶での商業活動などを想定している。

小型の攻撃型の運用無人航空機(自爆ドローン)に係る研究(0.3億円)

これは遠くの敵部隊への攻撃を目的とした小型の自爆ドローンの調査だ。これにはアメリカのAeroVironment社の「Switchblade300」と「Swichblade600」が該当する。

Switchblade戦術ミサイルシステムの発射デモ(AeroVironment社のインスタグラムより)

この自爆ドローンとは、カメラと赤外線センサー等と弾頭を搭載しており、ミサイルと違い①偵察と攻撃を1機でタイムラグなく同時に行える。②巡航するので飛行距離が長く、空中待機できるなどタイミングを選んで攻撃ができる。③自爆寸前でのターゲット変更やキャンセルが可能なことから民間人への被害を防げる。という特徴を持つ。

「Switchblade300」と「Switchblade600」は米国特殊作戦軍の要請により①安価②軽量③歩兵でも運用できる航空戦力として開発された。既にアメリカ軍とイギリス軍で導入された他、現在ロシア軍と戦っているウクライナ軍に供与された。

「Switchblade300」は歩兵・軽装甲車の撃破を目的に開発された。性能は手りゅう弾ほどの威力で、最大飛行時間は15分、最大飛行距離は10kmと、陸上自衛隊の普通科(いわゆる歩兵)が持つ120㎜迫撃砲が8100mなので、もし導入すれば本機が最大射程火力になる。

「Switchblade600」は戦車の撃破を目的に開発された。性能は最大飛行時間が40分、最大飛行距離が40kmと、自衛隊が有する中で射程が一番長い96式中距離多目的誘導弾の10kmと比べてとても長い。

既に①米軍で導入されている。②同様の兵器を開発していない日本では本機が導入される可能性が高いと言える。もしこれらが導入されれば、長距離から正確に攻撃できる能力を保有することになる。

(参照:【自爆ドローン】アメリカ最新兵器をウクライナへ”スイッチブレードの威力”

ミサイル防衛のための滞空型無人機活用の検討(1億円)

防衛省は極超音速滑空弾を探知するための高高度滞空型監視ドローンの調査をするともしている。

極超音速滑空兵器とは、最初は弾道ミサイルと同じように打ち上げるが、その後は大気圏をマッハ5~20で大気圏を飛行する。放物線に落下する弾道ミサイルと違い、低空を自由に飛行できるため①飛行ルートの予測が難しい。②速度が速すぎて対応可能な迎撃ミサイルがない。③早期警戒衛星だと低くて捉えることができず、地上レーダーだと丸い地球に対して直進するので長距離の探知が難しい。

そのため、③の地上レーダーと早期警戒衛星の中間の探知を補う役割を担うドローンを導入するという訳だ。

ただし極超音速滑空弾の探知を目的とした機体は管見の限りではないので、場合によっては独自もしくは共同開発が必要になると思われる。

CSISの論文。赤い線の高く飛ぶ弾道ミサイル。白い点線の地上レーダーに潜って、黄色の滑空体が襲う。出典:Adapting to the Hypersonic Era | Defense360 (csis.org)

戦闘支援無人機コンセプトの検討(101億円)

本機は現在開発している第六世代戦闘機「F-3」の支援ドローンとして開発中であり、前方に飛行して情報収集・対空攻撃・対地上攻撃を有人戦闘機の指揮下で行う。任務の終了後は自動で帰還して後続のドローンと交代する。F-3では3機のドローンを同時で操作できるという。

アメリカのXQ-58A、オーストラリアのロイヤルウイングマンが有名だ。本計画とは関係ないが、日本では2001年度から2011年度まで同様の構想を無人機研究システムという名前で研究していた。

残された問題

これらが全て成功した場合、下記の図のようになる。

陸戦を重視する中国軍と海空を重視する自衛隊と方向は違えども、多くの種類のドローンを有することになる。登山で例えるならばツルハシや登山靴など、これまで必須にもかかわらず欠けていた種類のドローンを一揃い備えたことになる。

その意味では大きな一歩だが残された問題もある。それは日本のドローン産業がまだ成熟していないことだ、また防衛省、自衛隊内部にはドローンに対する懐疑的な文化も一部にあることも課題だ。万能論ではなく、諸外国と同様の評価をすべきだ。最後には、諸外国と比べてドローンの予算が少なく、導入承認されるまでに時間が掛かるといった課題も残っている。

しかしながら、それでも今回の予算案は画期的と言えよう。