山口県阿武町(あぶちょう)が、新型コロナウイルス対策として463世帯分の給付金(4630万円)を誤って1人の男性の銀行口座に振り込み、その後、この男性から返還を拒否された問題は、“事実は小説よりも奇なり”を地で行くドタバタぶりがすっかり全国区の話題になっている。
町は先週12日に男性を相手取り、民事提訴した一方、ネット上ではここに来て町が男性に求める返還額に注目が集まっている。
ネット民は弁護士報酬に注目
町は男性に対し、4630万円の給付金の全額に加え、弁護士費用などを合わせた5100万円あまりの支払いを求めている。ネット上では、500万円もの弁護士費用が支払われることに疑問を呈する向きが少なくない。
自分たちのミスを棚に上げて、振り込んだ人に500万上乗せして請求って…
阿武町の4600万円誤送金事件の続報で笑ったのが、町が男に返還を求めた費用が500万円上乗せされてたこと。これは弁護士費用だそうだが、500万も儲かるのか?
4630万円は振り込まれた人が返すとして、何で行政側の弁護士費用の500万円までこの人が払うんじゃ?
弁護士代4人分約500万円は市の予算から捻出されるだろうから市のミスではなくあくまでも一青年の責任にしたいスタンス。
中には、「弁護士報酬に500万円は高すぎる」といった意見も見受けられた。
給付金の返還を拒否している男性に、弁護士費用を求めるのは妥当なのか。また、そもそも今回の事件の弁護費用に500万円もかかるものなのだろうか。弁護士のポータルサイトを運営する弁護士ドットコム株式会社取締役で、弁護士の田上嘉一氏に聞いた。
「旧規定」だともっと高額になる
500万円という弁護士報酬について田上氏は、「高いとは言えない」と話す。
請求額が約4600万円で、弁護士報酬が請求額の一割とすると、約460万円です。諸経費などを含めて500万円という弁護士報酬は高いとは言えません。弁護士には「旧規定」という報酬基準があるのですが、これに則って今回の件の弁護士報酬を計算すると500万円より高くなるはずです。
「旧規定」では、3000 万円を超え3億円以下を請求する民事事件の場合、着手金が「経済的利益の3%+69万円」、成功報酬が「同6%+138 万円」となっている。今回は4630万円を返還する訴訟のため、着手金が(4630万円×3%+69万円)約208万円、成功報酬が(4630万円×6%+138 万円)約416万円で総額は620万円を超える。
田上氏の指摘通り、「旧規定」を適用すると今回の弁護士報酬より120万円ほど高くなる計算になる。ネット上で指摘される「ぼったくり」のようなことはないようだ。なお「旧規定」はかつて弁護士が一律に適用された報酬基準であるが、現在は撤廃されている。とはいえ、現在もこれに従って弁護士報酬を決定する弁護士も一程度いるという。
男性は無職、弁護士費用どうなる?
さらに、ネット上では「(町役場が)自分たちの責任を棚上げして、弁護士費用までこの男性に請求するのは不当」といった意見も散見された。この意見について田上氏は、「特段おかしい措置とは言えません。不法行為に対する損害賠償の場合、弁護士費用をあわせて請求することができます」と話す。
男性は、地元ホームセンターの正社員という報道もあったが、現在、仕事を辞めているようだ。4630万円の行方はともかくとして、24歳で無職の男性が500万円もの弁護士費用を払えるとは思えないが、そういった場合、弁護士費用はどうなるのか。田上氏によると、一度、町が立て替えた後、男性側に請求するという流れになるという。
また、17日には、この男性がネットカジノなどで既に4630万円を使い果たしたことが男性の代理人弁護士の話で判明、さらなる衝撃が広がった。田上氏はこれが事実であった場合、「返還されるのは非常に難しい」と指摘する。
まず裁判をやって、お金を回収するために「支払いなさい」という判決を取ります。今回の事件は、その後の回収の方が非常に難しいです。本当にお金がないのだとしたら、取りようがありません。4000万円もの高額を担保もなしに貸す人もいないでしょうし、保証人ではないので、この男性の親にも請求できません。
田上氏によると今後、この事件は刑事事件に発展する可能性もある。しかし、その場合、男性は罰せられても、お金が戻ってくるのは現実的には難しいという。
日本中を騒がせているこの騒動。今後、どういった決着を迎えるか。阿武町の不備が指摘する声もあるが、全国の市町村の中には、今回の事件を他山の石としなければならないところも多いのではないだろうか。