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 国土交通省は去る2022年3月25日、車椅子使用者用駐車施設等の適正利用等に関する今後の取り組み方針のとりまとめとして、これまで実施してきた検討の方向性を公表した。

 そのなかで、優先駐車区画の適正利用を推し進めるための施策として、多様な障害当事者の利用ニーズを確認しつつ、車椅子使用者用駐車施設の利用対象者の明確化や、優先駐車区画の確保、利用機会の分散を推進する必要があるとしている。

 なかでも、優先駐車スペースの利用については、ルールやマナーが守られていないという事例など、課題が山積している状況が浮き彫りになっている。

文/岩尾信哉
写真/Adobe stock(トップ:tomoco_sozai@Adobe stock)

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■優先駐車区画の不正利用が減らない理由

 まずは法律面の進捗具合から確認していくと、政府は平成30(2018)年11月に「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律」、通称「改正バリアフリー法」を制定。令和2(2020)年6月19日に一部施行、令和3(2021)年4月1日に全面施行することになった。

 検討は徐々に進められてきたのだろうが、10年以上の間、改善の余地が大きいテーマである優先駐車施設の利用法の改善が、国全体の取り組みとして円滑に進まなかったことが容易に想像できてしまう。

 現状でクリアすべき実質的な課題のひとつとして、多くの人が利用する駐車場の障害者等用駐車スペースに障害のない健常者が駐車しているために、障害のある人(介助者が運転手などの場合を含む)が駐車できない問題が生じている。

改正バリアフリー法が制定・施行されるようになったが、国全体の取り組みとして円滑に進まなかったことが容易に想像できてしまう(Imaging L@Adobe stock)

 車両の乗降に広いスペースが必要な車いす使用者やほかの障害者、高齢者などがともに利用しやすい駐車場の整備が求められるなか、健常者による優先駐車区画の不正利用については、一見しただけではわかりにくい障害をもつ方などを、どう区別して扱うべきなのかについては、明確な対応が実施されていないのが実情といえる。

 なにより、駐車スペースに設けられた優先駐車区画を「本来使うべき人」であるかどうかを、現場で容易には判断できないことは明らかであり、国レベルの判断基準が存在しないのだから、自治体の対応に任せるには限界がある。

 優先利用を受けられるための認証方法を、障害の度合いや要介護度などによってどのように定義・決定するかは、最終的には国が検討すべき課題となるはずだ。

■「利用すべき人たち」が使いにくい現状

 ここまで法律上の細かい状況を説明してきたが、優先駐車区画の不正利用については「罰則を設けるべき」という意見もあるだろうが、事は簡単に済まされない。

 使用できる方の範囲が定まらなければ、不正利用そのものを定義できず、取り締まりや罰則規定を設けることなどは遠い先の話になってしまう。むろん、優先駐車施設を利用したい人々が、身体的あるいは社会的にどのような状況にあるのか、公的に判断・認証されるという手続きが必要になる。

 前提として、車いすの使用者が円滑に利用することができる駐車施設について、設置が法律の上で義務づけられているのは、官公庁など、公共施設や立体駐車場、機械式駐車場、高速道路のパーキング/サービス・エリアの駐車場、平面有料駐車場、都市公園の公園施設である駐車場などとなっている。

 問題の利用者の範囲については、高齢者、障害者(身体障害者・知的障害者・精神障害者・発達障害者を含む、すべての障害者)、妊婦、けが人などの移動や施設利用の利便性や安全性の向上を促進するため、公共交通機関、建築物、公共施設などのバリアフリー化を推進することが謳われており、単に「車いす使用者のため」の駐車施設という範疇に収まるものではないことは意外に知られていないのではないか。

利用者の範囲が「車いす使用者のため」だけではないということは意外に知られていないのではないだろうか(powerbeephoto@Adobe stock)

 国土交通省では「利用者対象者の検討」として、地方公共団体が定める障害の種類や等級別、要介護度等の区分などによる利用者の対象範囲について、対象者の想定人数や駐車場の整備の実情も勘案して「十分に検討することが必要」としている。

■有効な優先駐車スペースを確保するために

  自治体に望まれる優先駐車区画のハード面での取り組みとしては、幅が350cm以上を設定、区画後部に幅120cm以上の通路を設けて必要なスペースを確保するとされている。

優先駐車区画については、幅が350cm以上を設定、区画後部に幅120cm以上の通路を確保するとされている。施設の出入口に近い 3.5m 未満の通常の幅の駐車区画も制度の対象として、250cmの駐車スペースをふたつ同時に利用するダブルスペース方式によって、優先駐車区画として利用可能とする例もある

 さらに障害者や高齢者などの間でも使いやすくする工夫として、「車いす使用者のための幅の広い駐車スペース」にプラスして、軽度障害者や高齢者用に、250cmの通常の区画幅で施設出入口に近い駐車スペースを設ける「ダブルスペース」の導入を検討することが有効としている。

優先駐車区画のイメージを採り上げたパンフレット。具体的な使用者としては、杖を使わざるをえない傷病者、高齢者、身体の内部に疾患や障害のある方、妊婦さんなど、簡単にはわかりづらい障害をもつ人々をどう確認・認証するのかを定めるのが急務だ(国交省総合政策局バリアフリー政策課検討会資料より)

 法律のうえで、国、施設管理者、国民、それぞれの責務として挙げられているのは、国(地方自治体)は「具体的なバリアフリー施策について、高齢者、障害者、地方公共団体、施設管理者など関係者の参加の下で検証し、その結果に基づいて新たな施策や措置を講ずるよう努める」こととされている。

 すなわち、単に駐車施設に関する基準を設けるという取り組みだけでは済まされないことを国は認識しているということだ。

 施設管理者については、障害者の移動等円滑化のために必要な措置を講ずるように、国民については、障害者等の移動及び施設の利用を確保するため協力に努めるとしている。

 前者には、テレビカメラや認証確認用ゲートを設ける例があるものの、果たして「努める」という表現がどのようなレベルなのか、いまひとつ判然としていない。

■有効に思える「パーキング・パーミット制度」

 わずかな光明といえるのが、バリアフリー新法の施行によって地方自治体が生み出した、「パーキング・パーミット制度」だ。施設管理者の協力のもと、当該施設の車椅子使用者用駐車施設などについて、条件に該当する利用対象者が共通に使用できる利用証を交付するというシステムだ。

 ただし、呼び名も地方公共団体により「おもいやり駐車場制度」や「障害者用駐車区画利用証制度」などと変わることを見てもわかるように、利用対象者の範囲は地方公共団体ごとに設定されていて一律ではないことから、いずれは国土交通省や厚生労働省との全般的なすりあわせが必要になるはず。

 ともかく国の省庁や地方自治体、施設管理者、施設使用者など、全体を統括する制度システムの必要性がようやく議論され始めたという段階でしかない。

バリアフリー新法の施行によって地方自治体が生み出したのが「パーキング・パーミット制度」だ(国交省総合政策局バリアフリー政策課検討会資料より)

■優先駐車区画の不正利用に対する罰則規定の難しさ

 繰り返しになるが、改正バリアフリー法となっても、国、施設管理者、国民の責務とされているにもかかわらず、どのような方が車椅子使用者用駐車施設を使えるのか未だに不明確であることが、不正利用が横行してしまう現状の根底にある

 優先駐車区画を適所に設けるという取り組みが難しい施策であることは認めるとしても、現状では課題の中間整理として「適正利用のキャンペーン」レベルでしかないのは残念だ。マナーの問題であるのは確かだが、国民の自主努力に頼るばかりでは、不正利用がなくならない状況は改善しないだろう。

 それでは不正利用を防ぐために、罰則規定を設定する手法は有効だろうか。海外では罰金制度が設けられているのは「マナーや啓発活動では限界がある」とした見識があるからだ。障害者用の駐車利用証カードの配布が実施されたうえで、健常者の使用などの取り締まりが実施されている。

 日本で罰則などに関して政府により法制化された場合には、制度全体を統括するのは総務省、具体的規定を定めるのは厚生労働省、これを実施するのが地方公共団体。さらに罰則規定が導入されれば、これに基づいて取り締まりを管轄するのは警察庁という、複雑極まる制度を構築することになる可能性が高い。

 そんな「縦割り行政化」を打破したうえで、優先駐車区画を使いたい人が問題なく利用できるように、「不正利用はNGである」という当たり前のことが当たり前でない現実を変えていくためには、なにより政府による「周知が必要」などといった指針レベルから脱して、具体的な施策を提示してもらいたい。

■国際シンボルマークの曖昧さ

 ピクトグラムは東京オリンピック&パラリンピックでも注目された、優先駐車区画のピクトグラムはさすがに一般的に周知が広まっているように思う。

 障害のある人々が利用できる建築物や公共輸送機関であることを示す世界共通のマークであり、車いす利用者を想像させるものだ。ただし、バリアフリー新法などに基づき使用されているが、駐車禁止を免れる、または車いす使用者用駐車施設を優先的に利用できることなどの証明にはならないことをどれだけの人が認識しているだろうか。

 たとえば、国際シンボルマーク(車椅子に乗っている人をイメージさせる)でさえ、健常者の利用を禁止するといった強いメッセージになり得ておらず、身体障害者用駐車場を利用できる者を「歩行困難な者」として捉えがちになってしまう。

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