クルマの購入時に、必ずといっていいほど付きまとうのが「値引き」の話だろう。商談時のやり取りはもちろん、日常生活のなかで友人と「このクルマを買ったときは、このくらい値引きしてもらったんだ」と誇らしげに話す人もいるのではないか。
本稿では、営業マン時代、数多く値引き交渉の場面に対峙してきた筆者が、営業マンや販売店から見た「値引き」についてお伝えする。値引きを頼まなければ損なのか、妥当なラインはどの程度なのかなど、値引きの裏側を紹介していこう。
文/佐々木亘
アイキャッチ写真/siro46 – stock.adobe.com
写真/Adobe Stock、TOYOTA
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値引きとは何か、まずはそれを考えて欲しい
クルマの購入時、住宅の購入時、家電量販店などでも値引き交渉をしている人を見かけることがある。一つのモノを大量発注した際にも、値引きというワードが出やすいだろう。
比較的高額なモノ(数十万円以上)の商品を購入する際に、購入者は値引きを想定することがある。では、そもそも値引きとは何なのか考えてみよう。
値引きの広義の意味は、「商品の価格を安くする(下げる)こと」だ。割引という言葉と意味は近い。ただし、会計用語上では、値引きの定義がしっかりと定められている。
簡単に説明するが、値引きとは「商品に何らかの瑕疵(かし)等があることを理由に、その定価を減額すること」を指すのだ。(編注:不動産用語として瑕疵(かし)が使われており、欠点のことを意味する)
値引きが成立するためには、契約時点で商品の不具合や問題がなければならないはずなのだが、出来立てほやほや、発表直後の新車であっても、当然のように値引きが要求される。今から手に入れて満足しようとしているクルマの価値を、自らが下げているように筆者には見えてしまうのだが、皆さんはどうだろうか。
値引きはしないと損なのか?
単純に購入金額だけを考えた場合、300万円で売っているクルマが270万円で購入できればお得と感じるだろう。現在まで脈々と続けられてきた、クルマの売り方を顧みたときに、値引きを要求しない買い方が、損と受け取られても仕方ない。
筆者個人としては、どんなものでも売り手が定めた価格(一般にはメーカー小売り希望価格)で購入することが望ましいと思う。これが最もフェアであり、平和な解決策だろう。
もしも、メーカー小売り希望価格が、自分の想定する価値を大きく上回り、高すぎると感じるのであれば、消費者側に出来る対抗策は「買わない」という行為に尽きる。
こうした動きに賛同する人が多ければ、そのモノは極端に売れなくなるだろう。売れないと判断したメーカーは、小売り希望価格を下げていくはずだ。その金額が自分の想定と合えば、そのときに買えばいい。
日常生活で野菜などを買うときには、自然と価格を見て「買うか買わないか」だけを決めているはず。しかし、高額商品となると、買うか買わないかに加えて「値引き」という選択肢が増えてしまう。
さらに、現在はメーカー小売り希望価格が、充分な意味を持っていないのも良くない。
「価格はメーカー希望小売価格で参考価格です。価格は販売店が独自に定めていますので、詳しくは各販売店におたずねください。」(トヨタ自動車ホームページから一部抜粋)
ほとんどの場合、こうした注意書きが載っているから、「値引きを要求してもいいんだな」と、買う側も考える。損得のよりも、(思ったより)高いから買わない、安い(と思う)から買うという判断を、購入者には求めたいところだ。
ディーラー側からみる値引きと利益の話
ディーラーが車両販売時に得る利益(ディーラーマージン)は、ユーザーが思うよりも大きい。故に、よほどの小型車や軽自動車でない限り、大幅値引きをしたとしても、ディーラーが赤字で販売するということはないだろう。
ただし、あなたが値引き要求をして削った利益のなかには、そのディーラーを支えるお金や、ディーラーで働く人を支えるお金が入っていることを忘れてはならない。
誰しも、何かしらの財やサービスを提供して利益を得る仕事をしていることだろう。循環する経済のなかで、値引きを要求することは、追々自分自身が受けるはずの利益を削ることにもつながりかねない。
現在のディーラーでは、値引きゼロでクルマを販売することは、ほとんどないと考えていい。ディーラーでは、あらかじめ値引きのパーセンテージを決めているから、黙っていても該当するパーセンテージまでは値引きを入れて契約書を作ってくれるはずだ。車両本体なら2~3%、メーカーオプションなら5%、ディーラーオプションなら10%程度が相場となるだろう。
また、販売する側から見ると、過大な値引きを求めてくるユーザーと相対していると、悲しみがこみ上げてくる。自信をもって提供している商品の価値を否定されているように感じるのに加えて、営業マンとしての自分の価値、ひいては人間としての自分の価値まで疑うこともあった。
こうしたときには、「これだけの値引きをしなければ、この人には、このクルマも私も価値が合わないということか」と考え、筆者は身を引くようにしていた。
販売をしてから、オーナーと濃密な時間を過ごす自動車営業の世界では、売ったあとの方が大事な時間となる。値引き中心のお客様とは馬が合わないので、筆者個人としては目先の利益よりも、仕事のしやすさを優先に、商談を進めていた形だ。
一昔前は、利益や台数を求めて、値引きに走る営業マンが多かったが、最近のディーラーを見ると、全てのお客様を「平等・公平」に扱うお店(営業マン)が増えてきたと思う。消費者側の質が高まったことも、一つの要因となっているはずだ。
一過性であり、不公平感の強い値引きよりも、公平で質の高いサービスを提供するお店を、ユーザーが選ぶようになっている。特に若い世代は、値引き競争はせずに、雰囲気やアクセスなどの利点でお店を選び、クルマを購入している印象だ。
正直、クルマの「値引き」文化は、売る側にも買う側にも、どちらにも得を生んでいないと思う。サービスの質を下げ、ユーザーの評判を下げ、揚げ句に大切な愛車の下取り価格も下げてしまう。
完全競争市場は存在しないが、少なくとも、ユーザーが買うか買わないか、その判断を正確に行うだけで、モノの価格はある程度、適正に決まっていくのだ。悪しき「値引き」の慣習は令和で終わりにして欲しい。
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