先行発売されたアリアリミテッドのデリバリーがようやく始まった日産アリア。日産によると、2021年6月に発表された予約注文専用の「リミテッド」は、約6800台の予約注文を受けた、とのこと。
幸先のいいスタートとなったアリアだが、半導体を含む材料不足によって、2021年末より納車予定とされていた納車計画が、約4ヵ月も遅れてしまっている。少しでも早くユーザへ届けるため、日産はディーラーへ試乗車を配備するよりも前に、ユーザーを優先して納車しているようだ。
そんなアリアのプレス向け公道試乗会が4月中旬に開催され、ベースグレードであるB6 2WDに試乗することができた。
アリアB6 2WDの実力はいかほどか? 筆者が感じた感動ポイントと課題について、お伝えしていこう。
文/吉川賢一
写真/佐藤正勝
【画像ギャラリー】車両本体価格は539万円だが補助金込みだとグッと買いやすい約450万円! アリアの凄さを写真でチェック!(34枚)画像ギャラリー
■意外にコンパクトに感じたボディサイズ
日産によると、現在(4月中旬)アリアのデリバリーは、初期注文の限定車、容量66kWhバッテリーのベースグレード「B6 2WD limited」の納車が始まっている状況。
このあと5月12日以降に、通常モデルの「B6 2WD」の納車が開始となり、2022年夏以降には、web予約受付中のB6 e-4ORCEリミテッド(720万6000円~、250kW、一充電あたりの走行距離430km)や、91kWhの大容量バッテリーを搭載するB9リミテッド(740万800円~、178kW、一充電あたりの走行距離610km)、B9 e-4ORCEリミテッド(790万200円~、290kW、一充電あたりの走行距離580km)といった91kWhの大容量バッテリーの上級グレードを納車するという。
今回の試乗車はベースグレードの「B6 2WD」。最高出力160kW(218ps)、最大トルク300Nm、1充電走行距離は470km(WLTCモード)、交流電力量消費率は166kW/kmだ。
B6 2WDの車両本体価格は539万円。経産省のCEV補助金85万円を引くと454万円、これに加え、地方自治体の補助金、例えば東京都の場合では45万円を受け取ると、実質409万円になる。
試乗車はプロパイロット2.0やヘッドアップディスプレイ、ダブルシャークフィンアンテナ、パノラミックガラスルーフなど、76万2300円分のメーカーオプションと、フロアカーペット、ドライブレコーダー(約16万円)などを装備した総額631万円の豪華仕様だ。
これまで何度かアリアの実車を目にする機会はあったが、試乗のために目の前に現れたアリアは、イメージしていたよりも小さく、全高が低く感じた。前席は十分に広く、後席も膝前にコブシ3個ほどのスペースがあるが、後席は頭上スペースがあまりない。
身長166cmの筆者ではそれほどでもないが、背の高い方だとややきついと思われる。後席はまた、シートバックがかなりのリクライニング状態となっているが、これはリアウィンドウの傾斜を避けるためであろう。
ホイールベースが長い(エクストレイル2705mmに対してアリアは2775mm)わりには、コンパクトなボディサイズという印象を受けた。
装着タイヤは235/55R19サイズのダンロップSP SPORT MAXX 050、高い操縦安定性とウェット性能が魅力で、「サイレントコア(特殊吸音スポンジ)」の採用で静粛性も引き上げられている、贅沢なタイヤだ。タイヤ銘柄はダンロップ以外にもブリヂストン製のアレンザも用意されている。
試乗日の天候は晴れで気温20度。試乗コースには、一般道に加えてアクアラインも含まれるため、横風を受けた時の車両挙動も確認できる。
■日産アリアB6主要諸元
●B6:539万円
●全長×全幅×全高:4595×1850×1655mm
●ホイールベース:2775mm
●車両重量:1920kg
●バッテリー総電力量:66kWh
●最高出力:160kW(218ps)/5900~1300rpm
●最大トルク:300Nm(30.6kgm)/0~4392rpm
●一充電あたりの走行距離(WLTCモード):470km
※令和3年度補正予算経産省補助金:85万円、エコカー減税;4.85万円、自治体の補助金:45万円(東京都の場合)
■静粛性の高さは「ダントツ」、乗り味の絶妙な味付けに感動!
まずは、30km/h以下の低速から。ノート(ノートオーラも)と同じシフトレバーでDレンジへいれ、走り始める。
最近国産他メーカーも採用しているデュアルピニオンアシスト式電動パワーステアリング特有の「軽めだが芯を感じるしっかりした操舵感」のハンドルを回していくと、最小回転半径がとても小さいことに気づく。
アリア2WDの最小回転半径は5.4m。大径19インチタイヤを装着したクルマではトップでエクストレイル(5.6m)よりも小さい。
「専用プラットフォームのおかげで、サイドメンバースパンを狭められた(日産自動車、中嶋光チーフヴィークルエンジニア)」とのこと。アリアの大きな魅力のひとつだ。
次にロードノイズが皆無であることに驚く。中嶋CVEは、「ラウンジのような快適な静けさ」と表現したが、まったくそのイメージ通りだ。
また、段差を乗り越える際には、タイヤの表面がソフトにたわむような、当たりの柔らかさがある。よくある表現だが、「毛足の長い絨毯の上を走る」かのような静けさだ。
遮音対策を施したボディ図を見せてもらったが、遮音ガラスや車体フロアカーペット、タイヤ、ホイールハウスインナーへの吸音材など、「音振性能エンジニアの執念」がうかがえる対策ぶりだった。元から静かなモーター音も低減したというから、よほど本気になったのだろう。
ただ、2トン近い車重(カタログ車重は1920kg、ドライバーである筆者に加えて後席に1名乗車)のためか、やや強めのブレーキングをした際や、ハンドル操作を急ぐと、「ゆさっ」としたボディモーションが残る。
よくいえば大型高級SUVが持つようなクルーザーのような大らかな動きなのだが、CセグメントSUVのなかでは、アリアはかなりのソフトな乗り味に設定されているようだ。
一般道へ出て60km/h程度でストップ&ゴーを繰り返すシーンでも、高速道路で100km/h程度まで速度を上げても、アリアの静粛性はバツグンに高い。
同じコースで他メーカー製のバッテリーEVに試乗していないので他メーカーとの比較はできないが、少なくともリーフとは比較にならない、驚くほどの静粛性だ。
また、不思議なことに中速以上になると、足回りに「しっかり感」がでてきた。低速で感じた「ゆさっ」とした動きはなくなり、乗り味が一気に引き締まったのだ。
「低速域では足は硬いが、高速域になると気にならなくなる」というのが一般的なのだが、アリアはその逆。
おそらく、駆動モーターの駆動反力でボディモーションを緻密に抑える「駆動力制振制御」のおかげだろう。低速での極上の乗り味と、中速以上での安心感、絶妙な味付けと感じた。
■リニアなフィーリングだが絶対的な加速力は「並み」程度
加速フィールは実にリニア。ドライブモードを「ECO」、「STANDARD」、「SPORT」と変えていくと、踏み始めの加速度は強くなるが、絶対的な加速力は「並み」程度。
バッテリーEVのなかには、圧倒的な加速力をウリにするモデルもあるが、アリアはそうしたところは狙っていないようだ。ただ、(高速道路での合流などではもう少し欲しいかな、とも思ったが)筆者は「ECO」で十分に感じた。
またe-PEDALは、3つのモードでどこでも「ON」にできるが、同乗者がいる場合は「OFF」が正解だ。
ボディモーションが大きく出やすいため、アクセルペダルに対する動きがリニア過ぎて、普通の乗用車の間隔でペダル操作をしてしまうと、同乗者が酔う可能性もある(特に踏み込みを戻すときが難しい)。
ただし、一人乗り、かつ、ワインディングなどの限られた場所で使うぶんには、実に楽しい装置となるだろう。
できれば、e-PEDALではない方法で、減速度を段階的にコントロールできる機能が欲しい。長く続く下り坂などでは、Bレンジやe-PEDALの減速度コントロールだけでやり過ごすのは難しく、強さをセレクトしたくなる。
ヴェゼルハイブリッドには、スポーティな走りのためだけではなく、4段階の現速度コントロールのためのパドルシフトがあった。パドルシフトでなくてもいいのだが、減速度を段階的にコントロールできる何らかのシステムは欲しいと思う。
■プロパイロット2.0はさらに進化、より安心できるようになった
スカイラインに搭載以降、採用が進んでいなかったプロパイロット2.0だが、アリアでようやく2車種目の搭載となり、その制御も進化している。
従来のGPSのみだと精度10~15mが限界だったそうだが、新たに準天頂衛星を活用したことで、精度50cmほどで自車位置を特定できるようになり、これによって、複数レーンがある道路でも自車レーンを正しく特定できるため、車線変更を提案しやすくなったそうだ。
実際に首都高湾岸線で使用してみたが、2.0モード(ハンズフリー)が実行できたのはごくわずかの時間。条件がそろえば可能なはずだが「いつ入るのかな、まだかな~」という感じで、今回の試乗では、その恩恵をあまり受けることはできなかった。
ただ、2.0にならずとも、一般的なアダプティブクルーズコントロール機能をもつプロパイロット1.0は、軌道修正能力が非常に高く、ストレスフリーで走行ができた。この最新世代のプロパイロットが普及することを期待したい。
■「アマゾン・アレクサ」はユーザの使い方次第
アリアの話題のひとつが、Amazonが提供する「アレクサ」が導入されたことだ。国産メーカーとしては、このアリアが「アレクサ」初採用となる(海外では昨年ACURAが初搭載)。
「ハローニッサン」と声をかけると起動し、音声認識で対話する日産コネクトは、「エアコンの温度を上げて」とか、「充電スポットまでのナビを設定して」といった音声コマンドや乗り込む前のエアコン操作、事前にスマホから目的地をカーナビへと送信、といったサービス。「アレクサ」は、それとは別のアプリケーションとなる(筆者も混同していた)。
Amazonのアカウントと紐付けたアレクサは、例えば移動中に「アレクサ、キッチンペーパーを探して」といった音声コマンドを受けつけると、リコメンド商品を読み上げてくれる。
モニター上に表示が出されることはなく、(運転中の車内ではAmazon側で出さないよう規制)、音声のみの案内となる。また、車内では決済まではできず、ショッピングカートに入った状態までとなる。
同乗者が操作することも(現時点だと)できず、決済は移動を終えてからスマホやパソコン上で行うことになる。運転中にふと思い出したものをショッピングカートに追加していくイメージだ。一人で運転している時には便利かもしれない。
ほかにも、アレクサに繋いでいる自宅の家電やスケジュールを、車内からコントロールすることも可能。
Amazon Alexa広報担当の上村康史氏と戸塚満紀子氏は「こうした音声コントロールをする機能は、欧米ではすでに便利な機能のひとつとして受け入れられてはいますが、音声機能の利便性が浸透していない日本人ユーザが、どれだけ便利な使い方を想像できるか、発展途上の状況です。」としているが、まさに使い方次第、といったところだろう。
■次のバッテリーEVにも期待!!
テスラモデルSやジャガーI-PACEなどのように、目玉が後方に押し付けられるほど強烈な加速をするモンスターバッテリーEVがあるなか、アリアは、パフォーマンスの高さとしては「並み」程度に分類されるだろう。
内外装の質感やコスパの面でも、強烈なライバルがひしめくなか、アリアがどれだけの存在感を示すことができるのか、心配な面もあるが、アリアにしかない強みもある。それは「音」だ。
前進時や後退時、曲がるときなど、絶えず「音」が聞こえていた。「無音」であることが多いバッテリーEVに対し、アリアはロードノイズのような雑音を極限まで減らしたうえで、作られた「音(エフェクトのようなサウンド)」が心地よく、独自の世界観に没頭することができた。こうしたトータルサウンドコントロールは、ひとつの差別化ポイントになりうる。
日産は、この春、日産・三菱の軽EVの登場も控えているが、アリアの試乗を終えて感じたことは、このEV専用プラットフォームを生かしたいろんなクルマを見たい、ということだった。日産のバッテリーEVの次なる一手が非常に待ち遠しい。
【画像ギャラリー】車両本体価格は539万円だが補助金込みだとグッと買いやすい約450万円! アリアの凄さを写真でチェック!(34枚)画像ギャラリー
投稿 EV大本命 日産アリア 公道初試乗! 見て乗って驚いた!! その走り凄すぎ!!! 感動ポイントと不満点とは は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。