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4月に入り、男女ともに育児と仕事を両立しやすい環境の整備を目的とした改正育児・介護休業法が施行された。とりわけ男性の育児休業取得推進を主眼とした今改正は画期的なものである一方、これにより男性の育児参画が爆発的に増加するとは考えづらい。育休取得のメリットを踏まえた上で、それでもなぜ男性の育児参画が進みづらいのか、考えてみたい。

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男性育休が変わる

2020年の男性の育児休業取得率は12.65%。前年からは5.17%上昇したものの、女性の81.6%とは大きな隔たりがある。2025年までに男性育休取得率30%の目標を掲げる政府は、来春にかけて下記の通り段階的に改正を進めていく。

▽2022年4月〜

  • 雇用環境整備、育児休業制度の個別の周知・意向確認の義務化
  • 有期雇用労働者の育児休業取得要件の緩和

▽2022年10月〜

  • 産後パパ育休(出生時育児休業)の創設
  • 育児休業の分割取得

▽2023年4月〜

  • 大企業の育児休業取得状況の公表の義務付け

もともと、育休制度そのものは充実していると評価されている日本。ユニセフによると、先進41カ国の中で、男性が有給で6か月以上の育休を取れるのは日本のみ。一連の改正によってさらに育休の使い勝手がよくなるだけでなく、妊娠・出産した配偶者を持つ男性に育休取得の意向の確認を義務化するなど、育休を取得させるための風土の醸成にも力を入れる。

男性の育休取得を推進することで政府が期待しているのは、「女性の離職率の低下」と「出生率の向上」だ。出産前に勤めていた女性のうち、46.9%が出産を機に退職し、そのうちの41.5%が「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めた」と回答。また、夫の家事・育児時間が長いほど、妻が仕事を続ける割合も第2子以降の出生割合も高い傾向にあるというデータも報告されている。少子高齢化に歯止めがかからない日本にとって、「女性が仕事を続けながら子どもを生んでくれる」ための対策は急務だったと言える。

そのほかにも、育休を取るメリットは数多く指摘されている。これまでの調査では、夫が育児に参加した場合、妻が「一人で子育てした」と感じている家庭よりも夫婦の愛情が高まる(※1)ことや、育休を取得して家事・育児に幸せを感じる男性は職場や社会でもポジティブな変化を実感しやすい(参照)ことなどが明らかになっている。企業からしても、男性が育休を取得しやすい職場は生産性やエンゲージメントが高まり、優秀な人材の採用やリテンションにつながることが期待できる。

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育休の実態、なぜ休まない、休めない?

男性の育休への意識も高まっている。男性新入社員のうち約8割が「子どもが生まれたときには育児休暇を取得したい」と答え(参照)、実際に20代では3割超の男性が育休を取得している。働き方の柔軟さを打ち出す企業では、ある程度長期間の育休を取る男性の姿も決して珍しくはない。では、なぜ全体で見るとここまで育休取得が進まないのか。厚労省の委託調査によると、取得しなかった上位の理由は下記の通り。

  • 収入を減らしたくなかったから(41.4%)
  • 職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから/会社や上司、職場の育児休業 取得への理解がなかったから(27.3%)
  • 自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから(21.7% )

筆者の周りの激務と呼ばれる仕事に就く、子を持つ男性に話を聞いたところ、やはり厳しい意見も多い。「結局自分が休むと周りに迷惑をかけると思うと休みづらい」「育休を取っていない同僚に比べて評価が下がる」「強制されない限りは休まない、というより休めない」など。育休取得を促進するには、減少しても家計が苦しくならない程度の給与や育休を取得しない社員にしわ寄せがいかない仕組み、誰からも不満が出ない評価制度が必要となる。言うのは簡単だが、実行に移すのは難しい。

中には「妻が専業主婦なのに、どうして長期の育休が必要なのか」などと言われた例も複数あった。これはいわゆる「パタニティハラスメント(パタハラ)」にあたるが、勤務先の企業で育児に関わる制度を利用しようとした男性のうち、「パタハラを経験した」と回答した割合は実に4人に1人以上(26.2%) 。内容としては「上司による、制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動」(53.4%)の割合が最も高く、「同僚による、繰り返しまたは継続的に制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動」(33.6%)が続いた。

「俺は育休を取った!」の実態

この調査にも現れている通り、「男が育休なんて」と言う人間はまずいなくならない。若い世代にも一定数いるが、特に高年齢になるほど顕著となる。彼らの多くは「自分は仕事に、妻は育児に専念したからこそいまの幸せがある」と思い込んでいる。「男性の育休に賛成するのは自分の生き方を否定することにつながる」と考えてしまう弱い人間は、想像以上に多い。そのような人たちとは、わかってもらおうとするよりも距離を置く方が賢明な場合もある。

また、同じ「育休」でも、男性と女性で取得日数に大きな開きがあることは抑えておくべきだろう。2018年の男性の育休の取得日数を見ると、「5日未満」が36.3%、「2週間未満」が7割超。ほぼ9割が6カ月以上の育休を取得する女性とは比べ物にならない。この短さで「俺は育休を取った」と大きな顔をする男性もいるが、たまったものではない。

さらに男性の育休期間が長くなればなるほど管理職が難色を示すというデータもある。それによると、男性従業員が育休を「1~3日」取得することに対して賛成する管理職は86.5%と多数だが、「4か月以上」になると賛成50.5%、反対49.5%と約半数が反対に回るという。

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育休取得の自由より重要なこと

子どもに手がかかるのは1年どころの話ではないが、育休取得の前後で「労働時間に変化はない」と答えた男性は8割を超える(参照記事)。2016年時点で、6歳未満の子どもがいる家庭のうち、男女の一週間の家事・育児関連時間には約7倍の開き (夫 67 分、妻 461 分)がある(参照。「夫が育児の大変さを理解し、労ってくれるようになった」と母親の溜飲が多少下がったところで、この現状が変わらなければ政府の狙いは達成されない。

男性も女性も、育児休業を取る自由も取らない自由もある。重要なのは、男女という性別だけで育児の負担が偏ることなく、子育てと仕事が両立できる社会の実現だ。

今回の改正育休法の施行は、そのような社会をつくっていく過程であってゴールではない。少しずつ前進はしているが、この歩みを停滞させないためには施策の充実はもちろんのこと、一人ひとりが現状を変えていくという相当の覚悟が必要になる。