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名古屋市の税収が伸びていることがネット上で話題となっている。中部大学元特任教授の武田邦彦氏がニュースサイト「まぐまぐニュース」に寄稿した記事が発端。この中で、武田氏は「5%の減税をしたら、税収は増えて主要都市の中で減税前に比べて税収の比率がトップ!!」と指摘し、SNS上の注目を集めている。

名古屋市(bee32 /iStock)

市税収入は2011年から約1200億円増加

昨年11月16日に発表された「名古屋市の財政 令和3年版」を見てみると、確かに名古屋市の税収は、市民税を5%減税したにも関わらず、増えている。河村たかし市長が市民税の減税を訴えて名古屋市長選に初当選したのは2009年のことだ。その前年の2008年の名古屋市の市税収入は5289億円だった。発表にあたって名古屋市は、「厳しい市の財政状況」と表現していた。

2011年には4861億円にまで市税収入は減っていたが、それを底に徐々に増加に転じ、2019年には6009億円にまで増加している。河村市長が就任してから約10年で名古屋市の市税収入は800億円ほど、東日本大震災に見舞われた2011年と比較すると1200億円ほど増加したことになる。

2011年12月21日の名古屋市議会本会議で河村市長は、減税の効果について次のように述べていた。

「地域経済の活性化は、減税を行うと110億円のお金が市役所から民間に移るため、必ず民間経済のためになる。減税で名古屋の経済を盛り上げ、納税者を増やし、福祉・教育を充実させるという前向きな循環に名古屋市を向けていくという挑戦である。」

人口は225万→232万に増加

河村市長(2016年撮影、官邸サイト)

河村市長が就任した2009年、名古屋市の人口は225万人あまりだったが、2021年には232万人あまりにまで増えている。個人市民税の税率は全国ほとんど変わらず10%だ。名古屋市の隣の東海市も市民税の税率は、10%(市民税6%、県民税4%)。これが名古屋市に引っ越すだけで5%減税される。たとえば、東海市から名古屋市に引っ越すだけで手取り額が5%アップするわけで、名古屋市の人口が増えるのは当然と言えば当然のことだ。

各種データを照らし合わせて考えると、河村市長が就任当初、議会で示していた「減税で名古屋の経済を盛り上げ、納税者を増やす」という目標は現時点で達成していると考えるのが普通だろう。

地方都市を中心に、財政難にあえぐ自治体は数多く、減った税収を補うために“増税”する自治体も少なくない。たとえば、京都市は低所得世帯の住民税を免除する市独自の制度を2024年から廃止することを決める一方、京都市民には課されないものの、政令指定都市で初めて「別荘・空き家税」を導入した。

増税の背景には人口現象がある。京都市の人口は平成の期間中ずっと約147万人だったがこのところ急減し、2022年の人口は約144万人にまで減少。人口は、この先も漸減していくと予想されている。市は、別荘税や空き家税の導入により、高止まりしていた不動産市場を流動化させ、若い世代の市外転出に歯止めをかけようとしているが、疑問視する声もある。

減税したとしても、住民が増えれば納税者が増え、結果的に税収もアップすることが名古屋市の事例で明らかになった。財政難の地方自治体は、安易に増税するよりも、名古屋市の事例を参考にまずは減税をして、人口増加による納税者の増加を目指す選択肢もあるのではないか。

名古屋市の減税による税収増加について、ことあるごとに増税姿勢を見せる財務省がどのような見解を示すか、ぜひ聞いてみたいところである。