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 脚本家の三谷幸喜氏が16日のテレビ番組で、映画界で続く出演女性への性的行為の強要の問題にコメントした。映画監督らの女性の尊厳を傷付ける行為を、映画監督でもある自分には、スタッフに嫌われる、監督に自信がないから考えられないという趣旨。本人は「ボケ」の一種とでも考えたのかもしれないが、被害を受け深刻な状況に陥った女性への配慮に欠ける発言には違和感を覚えた人は少なくないと思われる。

■問題の監督は「自信がある人」

番組出演時の三谷幸喜氏(TBS画面から)

 三谷氏はコメンテイターとして、また、安住紳一郎アナと進行役を務める「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)に出演し、最近、女性からの告発が相次いでいる映画界での性的行為の強要問題について言及した。その内容は既にネットの記事でも紹介されており、以下のようなものであった。

 「僕も映画作るので、ああいう、現場で…女優さんに何かモーションかける、みたいなのって、よっぽど映画の現場に興味がないか、もしくは、ものすごく自分が監督する自信があるか、だと思うんですよね」

 「僕なんかは、考えられないんですけど。自信がないので、監督として。脚本家としては、ちょっと…あるかもしれないですけど…。ほんとに自信がないから、必死なんです、現場で。絶対嫌われたくないから、みんなに好かれたいので。絶対1人の女優さんばっかりに向いちゃうと、絶対僕のスタッフに分かるから、雰囲気悪くなるし、うまくいくわけがないと思うんですね」

 「でも、それでもやっちゃう、ということは、本当に映画監督として、自信がないとできないんじゃないかな」

(以上、デイリースポーツ電子版・三谷幸喜氏 映画界の性加害問題に「僕なんかは、考えられない」

 三谷氏の言い分は、問題とされている監督(それ以外にも俳優も話が出ている)は現場に興味がないか監督業に自信がある人と思われ、自分は映画監督として自信がないから、そのような行為には及べない、というものである。

 女優らに性的行為を強要した行為の是非については何ら語らず、加害者とされる人々の属性に関して想像し、自分はその範疇に入らないから、当然、そのような行為をすることなど考えられないという発言。

 当該番組を視聴していた人、どれだけの人数がこの話を聞きたいと思ったのか。問題は、映画の現場で圧倒的な力を持つ監督が、その権限を利用し、出演を望む女優らに性的関係を迫る、あるいは暴力で性的関係を結ぶということである。深刻な性的自由の侵害事案である。

 三谷氏も同じ業界で生きているのであるから、週刊文春などの報道は当然、目にしたはず。その上で「監督たちは(監督業に)自信があるから、そういうことをするんでしょう」と公の場で発言することが、被害女性をどれだけ傷つけるか想像力が及ばないとしたら残念と言うしかない。

■榊英雄・木下ほうか・園子温氏らの報道

 映画界で問題になっている案件は以下のように報じられている。

★榊英雄氏:4人の女性と性的関係を持った。そのうちA子さんとは「マンションの駐車場の奥に連れ込み、『やめてください』と声を出し、強く抵抗するA子さんの耳元で『騒いだら殺すぞ』と凄み、そのまま下着を引きずり下ろして避妊もせずに性交した。行為が終わると「じゃ、またね」と言って、A子さんをその場に残したまま立ち去った」。(週刊文春3月17日号、参照・榊英雄氏「猛省し悔い改める」で済むのか)。

★木下ほうか氏:演技指導の名目でH子さんを自宅に呼び出し、寝室で口腔性交を強要した(週刊文春3月31日号)、食事に誘ったSさんを稽古場に連れ込み、ベッドに押し倒し、下着を脱がせ隠部に指を入れたり舐めたりした。(週刊女性PRIME・木下ほうかに新たな告発!「抵抗する私を無理やり…」被害女性が明かす非道なやり口、強姦で刑事告訴されていた

★園子温氏:出演予定の女優を園監督が自分の事務所に呼び出して、性行為を迫ったけれど、彼女は断った。すると園監督は前の作品に出ていた別の女優を呼び出して、目の前で性行為を始めた…。(週刊女性2022年4月5日号)

 これらに対して、榊氏はA子さんとの関係は否定しているが、他の女性とは性的関係があったことを明らかにしている。木下氏はツイッターで報道内容について「概ね間違っておりません」と認めた(木下氏ツイッターで公開された「ご報告」)。園氏は報道内容を否定し、「ありえないですね」などと話した。(フライデー4月29日号)

 園氏に関しては全面的に否認しているようではあるが、榊氏と木下氏は性的関係があったことは認めている。そして多数の被害者と称する女性の生々しい証言、口裏を合わせて虚偽を述べて監督らを貶める理由も考えにくく、それに近い状況のことはあったと考えるのが通常の思考であろう。

■北野武氏の後任としての意識か

週刊文春3月17日号でスクープ記事

 このような多くの女性が、その尊厳を傷つけられたと被害を訴えている状況。中には強制性交罪(刑法177条)が成立すると思われる案件もある。そのような行為は決して許されるものではないことは言うまでもなく、被害に遭った女性らの心中を思えば、最低限のモラルを持つ人間であれば「監督業に自信があるから、そういうことをするのだろう」などと言うことなどできないはず。

 それを三谷氏は上記のように、監督業に自信がある人ならできる、自分は自信がないからできないと、あたかもそうした行為が許されることであるかのようにコメントしているように聞こえる。

 例えば榊氏に強制性交をされたとするA子さんがそれを聞いたらどう感じるかということに思いが至らないのか不思議に思う。A子さんの話が事実であれば、A子さんは「監督業に自信があるどうこうではなく、女性の思いなど無視し、どんな方法を使っても性交をするという、卑劣な男であることが原因だ」という感想を持つのではないか。

写真はイメージ

 三谷氏がどういう意図で冒頭の発言をしたのかは分からない。前任の北野武から引き継いだポジションのため、(他人と同じことを言っていてはダメだ)という思いから「ボケ」を入れたのかもしれない。そのボケが全く笑えず、真面目に言っているとしたら常識を疑うような内容であったということである。

 三谷氏は映画監督でもあり、その世界のことは知り得る立場にあり、監督と女優の関係についてもそうした噂話があったぐらいは語ることができたはず。しかも、前妻の小林聡美氏とは脚本を担当したドラマをきっかけに交際・結婚に至っている(その後、離婚)。

 撮影現場での男女の関係については語るべきバックグラウンドもあるのに、「僕には(そのような行為は)できない」とだけコメントするのであれば、コメンテイターとしての資質に著しく欠けると言うしかない。

■早々にご退場願いたい

 三谷氏は当該番組出演時には襟元に自動車運転の際の「初心者マーク」を付けている。コメンテイターとしてはまだまだ初心者なので、不都合があってもご勘弁くださいというエクスキューズなのかもしれないが、視聴者は出演者が初心者であるかベテランであるかなど関係がない。強制性交被害に遭ったとする女性もいる案件で、被害感情を逆撫でするような発言は控えるべきことは中学生にも分かる理屈だと思う。

 三谷幸喜氏の監督作品、脚本した作品に個人的に何の興味もない。公の電波を利用し、素人以下のコメントしか出来ないのであれば、早々にご退場願いたい。